いつも読ませて頂いてるブログで紹介されていた 中山七里著「護られなかった者たちへ」を読みました。
重いテーマでした。
本の帯の言葉
胸中に去来するのは、怒りか 哀しみか 葛藤か 正義か。
その全てを感じました。
骨太の本格社会派ミステリー小説。(本の帯より) ネタバレあります、未読の方は閲覧禁止です。
この作家さんの作品は初めて読んだのですが 「どんでん返しの帝王」という異名を持っておられるようです。
最後の数ページで世界観ががらりと変わるどんでん返しが仕掛けられていることが多く(中山七里 Wikipediaより)
この作品も え~~~っ!!と声を上げそうになりました。
今まで 自分の中で犯人だと信じていた人物が実は真面目な人物で 次なる犯罪を阻止しようとしていたとは…
作家の巧みなストーリー展開ですっかり騙されていました。 生活保護にまつわる問題が浮き彫り 2007年北九州市で「おにぎりを食べたい」と書き残して餓死したの男性の事件を思い出しました。誰も手を差し伸べることはできなかったのか、亡くなった男性の人生を思うと胸が潰れそうです。
この作品の中では 餓死した老女の復讐をする男を追う刑事たちと 刑務所を出所したばかりの利根のモノローグでお話は進んでいくのです。
利根は、20歳のころ 餓死した老女に世話になったことがありました。
温かい家庭を知らない利根は 母親のように慕っていて 暮らし向きが苦しい彼女のために一肌脱いで保護申請に付き合ってあげたのですが…
何度も窓口で追い返され却下されてしまい 恨みを晴らすため深夜 福祉事務所のゴミ箱に火をつけたりした過去がありました…
警察は 2人の福祉事務所の関係者が 「餓死」になるような方法で殺されていたため 利根に疑いの目を向けるのです。
読者も当然 著者の思惑通り 利根を犯人だと思って読み進めていたのですが…
警察が立ち寄った福祉事務所の関係者は
「福祉と謳われる組織にいながら 福祉を必要としている者たちを弾かなければならない そういう矛盾を抱えたまま従事するものの気持ちがあなた方にわかりますか」
本文より引用
受刑者の中には税金で養うのが不条理と思える人物が少なくない、と利根。一方公的な保護がなければその日の生活にも事欠く人たちに保護申請が通らないことも。
こんな矛盾があっていいのでしょうか?
事件を起こして警察のお世話になって食いつなごうという輩もいます。
日本国憲法に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と定められているから。
それならば何故、善良な貧しい国民は救われないのでしょうか? 犯人は意外な人物 連続殺人。被害者はどちらも福祉事務所関係者。殺害方法も同じ。
もうひとりの福祉事務所関係者・上崎も命を狙われているはず、未然に防がなくてはいけない。
それは 警察の使命でもあり、また 餓死した遠山けいに世話になった利根の思いでもありました…えっ? 犯人じゃないの?
逆だ。俺は上崎を護ろうとしていたんだ。(この一言でどんでん返し)
上崎に復讐をしようとしていたのは 遠山けいに、やはり世話になった当時中学生だった「かんちゃん」。
今は福祉事務所に勤めていました。遠山けいのような社会保障システムの犠牲者を出さないように、と福祉保険事務所の職員になったのに。
「予算不足」の一言で却下。 親身になって考えようともしなかった当時の職員に復讐することを誓ったのでした。
復讐は…胸の溜飲が下がるぐらいで 何の解決にもならないし 何も生み出さないというのに…。
却下、というのは簡単だけれど、その先にいる必死で毎日を生きている人の人生、ひいては生死にかかわることなんだと 一枚の申請書の重みを考えると 本当に苦しくなりました。
いつ、どの時代のどんな家庭に生まれるかで 人生のスタートラインも違ってきます。
今日の食べ物に困らず 安心して暮らせていることに改めて感謝せずにはいられなくなる 重いテーマの一冊。
読み応えありました。