happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

虐殺器官、読了♪

虐殺器官 
なんとも恐ろしいタイトルのこの本  

虐殺器官 数々のメディアで絶賛されたそうです。


2010年6月6日付 朝日新聞・読書ページの
売れてる本欄 で「空恐ろしいほどの傑作」と
謳われたなら 読まずにはいられないでしょう!

SFミステリーで 戦争物 私が好んでは読まないジャンルでしたが・・・

ネタバレ あり過ぎっ↓ 注意

冒頭から 戦闘、虐殺、流血シーン続出
えぐいシーンを生生しく描写!
ぎゃ~あぁぁぁぁ 

SFだけあって 近未来の世界は 
いろんな事が 科学技術の発展によって可能になっているようです
著者が博学で 軍事、科学について細かく緻密に描写されているので
SFが放つ嘘くささは微塵も感じず
(イヤ、ほんの少し感じましたが)リアルに脳内に映像化されます。

死体や 怪我の生生しい描写があまりにもドライな筆致で書かれている為
そこにあるはずの痛みや 非道さを感じにくくなっています。

人工筋肉は 映画・ターミネーター2
シュワルツネッガー演じるターミネーター
故障箇所を直すために 自分の筋肉を切り開き
金属部分を出して修理するシーンを思い出させるし

迷彩服のかわりに 周囲の環境に自分の皮膚表面を同化させる
ツールは 映画・プレデターを思い出させます

未来の世界を 想像してみるのがSFの醍醐味

主人公・ぼくは 軍からある使命を受け
目的を持った 殺人行為(=戦略的任務)を遂行する為の
一つの機械になるように 訓練をうけている

殺人行為に一切の私情を挟まないよう 疑問を持たないよう
心に深い傷を残さないよう 医学的処置を受けて
任務へと送り出され 
淡々と ターゲットの命を奪っていく「道具」になっている
故に 彼自身が虐殺「器官」ということか、と思いきや
米軍情報部がターゲットにしている 
ジョン・ポールなる人物が操る戦慄すべき秘密こそが
虐殺器官なんだそうだ(朝日新聞より)
その秘密とは・・・「言葉」
どう言う事か、あとは読んでのお楽しみ~。

主人公のぼく クラヴィス・シェパード大尉が狙う相手は ジョン・ポール
ジョンが赴く途上国には必ず 内戦が起き、壊滅状態になっていく
実は ジョンはアメリカのテロ対策として
テロを起こしそうな国に向かい 標的をアメリカに向かないよう
自国民同士の争いへ発展するように仕掛ける作戦の首謀者なのだった

他人の不幸の上に 自分たちの幸福を築こうとするとは!!
なんという エゴで傲慢なこと!


SFという意味での面白さも もちろんあるのですが
人間と言うものの存在を見つめ直す
奥深い意味をもつ小説でもあると思います

「ぼく」は母が事故で脳死状態になった時に
延命治療中止を選択し
それ以来 その行為の是非に悩み続けている

自分に 彼女の生死を決める権利があったのか・・・
そして 生と死の境界線とは? 
明確な答えを得られず煩悶する「ぼく」に対し
延命装置を外せば ただの物質になってしまう人間の事を
「遺伝コードで生成された 肉の塊」と言ってのける
ジョン・ポールと対峙する

作中でも カフカの「変身」が引例として出てきます

「ある朝目覚めたら 芋虫になっていた青年
最初は嘆き悲しみ同情する家族も 日が経つにつれ
彼を芋虫として扱い 疎んじるようになる・・・」

人間も死んだら ただの物質に成り下がって その尊厳を失うという事を
具体的に 可視的に表現していますよね

ジョン・ポールの愛人で ぼくのチェコ語の教師
ルツィアとの 人間の進化についてのやりとりは著者の博識が伺えて 秀逸です!


著者/伊藤計劃氏は昨年、34歳の若さで早世されました
惜しまれる才能の持ち主でした