「博士の愛した数式」で本屋大賞を受賞され
数々の文学賞を受賞されている、
小川洋子著 「人質の朗読会」を読みました。
2012年の本屋大賞 5位の作品ですネタバレあります、ご注意ください
タイトルの「人質」、と言うのは、何かの暗喩かと思いましたが
反政府組織のテロ事件の人質になった
日本人ツーリストたちのお話です。
あ、言っておきますけど、フィクションです!
南米のどこかの国で、反政府組織に拉致され
監禁された日本人旅行者たちが
監禁生活の日々の慰みに
自分の物語を順番に語っていく「朗読会」を開いていた。
絶望の淵にある日々の中で
人間らしく過ごせる時間を持つということは
とても貴重なことなのでしょう。
人質の人たちは、それぞれの人生の中で
思い出深い話を語るのです。
なんの脈絡もない、人質8人の話が収められた
短篇集のような作品でした。
ファンタジーの様なお話が多く
特別に深い感動もなかったのに
不思議な印象を余韻に残します。
拉致された自分の運命を粛々と受け入れ
取り乱すこと無く 静かに語る人質たち。
人間の尊厳を失わない凛とした姿勢が素敵♪
「いつになったら解放されるのかという未来じゃない。
自分の中にしまわれている過去、
未来がどうあろうと決して損なわれることのない過去だ。
それをそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟にのせる。
その舟が立てる水音に耳を澄ませる・・・」 本文より
ここの件(くだり)が好きです~♪
その朗読会の内容は、国際赤十字が差し入れた
救急箱や辞書の中に仕込まれた盗聴器に録音されていたのです。
最終話は、日本人人質事件に就いた
政府軍兵士・「特殊部隊通信班」員の話。
彼の任務は、仕掛けた盗聴器から入る音声をヘッドフォンで聞き取る事。
犯人の動向を探るための任務が…
いつしか人質の朗読会に魅せられていったのでした…
・杖
・やまびこビスケット
・B談話室
・冬眠中のヤマネ
・コンソメスープ名人
・槍投げの青年
・死んだおばあさん
・花束
8編の中でも、やまびこビスケット、B談話室と
コンソメスープ名人が印象に残っています。
最終章のタイトルにもなっているハキリアリ。
ジャングルの奥にいるハキリアリの行進。
自分の体には余る大きな葉を掲げ、
無数のアリたちの行列が作る緑の小川。
「緑の小川は音も立てず、ひと時も休まず流れていく。
自分が背負うべき供物を 定められた一点へと運ぶ。
そのようにして 人質は自分たちの物語を朗読した」 本文より
人質の朗読を ハキリアリの淡々とした営みに例えた著者でした。