4月6日水曜日に発表になった「2022年本屋大賞」
大賞は。「同志少女よ、敵を撃て」でした。
2位の「赤と青とエスキース」読了しました。こちら、大賞取るかと思っていました。
3位の「スモールワールズ」読了しました、上位入賞もうなずける、心に染みる短編集です。
表紙の写真は、テーブルの上に大小いくつもの家の形のオブジェが並んでいます。
いろんな人生を暗示しているのかな、と思いました。
ままならない現実をかかえて生きる人たちの6つの物語
第165回 直木賞候補作。
胸の奥がシクシクと痛む物語が多かったです。
主人公、誰もが生きづらさや、遣りきれぬ思いを抱えて生きています。
ラストで、ほっこりしたり、泣けてきたり…感情を揺さぶられるのでした。
読書記録故、ネタバレあります、ご注意ください
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夫婦円満を装う主婦と家庭に恵まれない少年「ネオンテトラ」
モデルの美和は夫と二人暮らし。
なかなか子供に恵まれず、産婦人科で「不育症」と言われました。
美和のマンションの向かいのマンションの外廊下で、父親らしき男に怒鳴られうなだれている少年を見てしまいました。
近所に住む姪っ子の有紗から、彼は同級生で父にきつく当たられている、と聞きました。心がざわつく美和。
家に居場所がなく、夜遅くまでコンビニにいる彼=笙一に、唐揚げを買ってあげたり…恋愛ではない「愛おしい」と言う感情が湧き出すのを自覚していました。
ある日、出かけて帰ってくると、笙一と有紗がメイク・ラブ中。
そんな有紗は翌年春に妊娠。
美和は、赤ちゃんができないので、積極的に有紗の子供を引き取る手続きをし、美緒と名付けて我が子として育てています。
愛しい幼子の横顔に、その後バイク事故で亡くなった笙一の面影を探して…。
「秘密」を抱えて出戻ってきた姉と再び暮らす高校生の弟「魔王の帰還」
とびきり体の大きい姉の真央(魔王)が、出戻ってきました。
なにもかもが豪快で潔い。
笑いの要素の多く、6編の中で、一番サクッと読めました。
姉と弟のやり取りが面白い^^
真央と主人公の鉄二、同級生の菜々子の3人でスーパー金魚すくい大会に出場することになり…
鉄二は、名門野球部のある高校に進学して寮生活を送っていましたが、寮で理不尽なことで先輩にいじめられている友人を見て、理性のスイッチが吹っ飛んだというか、正義感が鉄二を衝き動かしたというか…
先輩にバットを持って躍りかかったため、鉄二は退学、転校、野球部は甲子園に出場停止、友達も離れていきました。
打ち込むものがなくなった今、金魚すくいの練習に夢中で取り組みました。
結果は良いところまでいったものの優勝ならず。
何の役にも立たなくとも、進歩は嬉しい。過ぎ去った時間に意味を与えてくれるからだ。(P94 )
無為に過ごしていた鉄二に意味のある時間ができて、菜々子ともうまく交流できるようになり…魔王(真央)は勇者(義兄・勇)の元へ戻っていきました。
ほのぼの。
初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。 「ピクニック」
第74回日本推理作家協会賞 短編部門候補作。
とっても可愛いタイトルなのに、推理作家協会?と不思議でした。
ラストのどんでん返しに驚きますから、詳しくは書かないで置きます。
ただ、この文章は誰視点で書かれているのか、語り手は誰なのか?とちょっと不思議でしたが、最後はそういうことか…と、
そして、ゾッとしました…
人知れず手紙を交わしつづける男と女「花うた」
花うたの執筆にあたっては、「刑務所との往復書簡を書きたい」と思っていた時に映画「プリズン・サークル」が、「人としての加害者」のありようや、再生の過程について考えるきっかけをくれました。
スモールワールズ 参考文献より
両親も亡く、たったひとりの肉親であった兄を殺された女性・深雪と傷害致死罪で服役中の秋生の往復書簡。
深く傷つき、悲しむ深雪と、貧しさと殺るか殺られるかの暴力の中で生きてきた秋生の手紙のやりとりは読まされます。
「文通」をつづける内に、深雪の冷たく凍った心が解けていくのです。
やがて憎くて仕方がなかった秋生の人生を、引き受けてもいいと思うようになり…
途中で手紙の差出人の名字が変わっているので、そうかな?と察しがつきましたが…
こんな愛の形もあるのか…と衝撃でした。
向き合うことができなかった父と子「愛を適量」
公立高校の教師の慎悟の元へ、妻と離婚後、長い間会っていなかった一人娘の佳澄がやってきました、男の姿で。
戸惑いながらも、佳澄との同居生活が始まります。
慎悟は、若い頃サッカー部の顧問活動にのめり込み、家族との生活をそっちのけにして部員に大盤振る舞いをしたり、部員の送迎用に大きい車に買い替えたり、遅くまで練習に付き合ったりしていました。
が、禁じられている生徒の送迎中に交通事故を起こして生活は一変。
妻は娘を連れて離婚、自身は今は閑職に追いやられて、担任も持たずに1日1日をやり過ごすことに専意していました。
青天の霹靂、男の体になりたい娘とひとときの同居で、もっと家族に寄り添うべきだったと気づいても後の祭りです。
老いては子に従え、の格言を噛み締めている時に、口座から500万円が引き出されていることに気づきます。
老後の資金から、今までの償いも含め、タイでの手術代を出してあげてもいいか、と思った矢先の出来事。
500万円で父親ヅラされてたまるか、だから盗んだんだ、と佳澄。
ラストは、父親の娘を思う気持ちがちゃんと伝わったようで ぬる~くメデタシ。
大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。「式日」
定時制(高校)に通っていた先輩と、普通科に通っていた後輩。
同じ教室を使っていて、後輩が辞書を取りに入ってきて知り合った二人。
この、後輩は、一番最初に出てくる笙一?
中学の時に子供ができて…と先輩にカミングアウトしています。
互いに相手を思う二人、家庭の愛を知らずに生きてきた二人に、「愛しい存在」を知ってほしいと願わずにはいられません。
誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描きつくす連作集。
…と本の帯にある通り、苦しくなり、そして、そっとその苦しみから解き放たれる解放感を感じながら読みました。
この世の中は、「家族」といういろいろな色の「スモールワールズ」で満ちているのだな、としみじみと感じました。