アッコちゃんシリーズの柚木麻子さんの作品
アッコちゃんシリーズは、「ランチのアッコちゃん」と「幹事のアッコちゃん」を読みました。
働く女性を活写されていて、読んでいてとても楽しい作品でした。
「ランチのアッコちゃん」は、本屋大賞2014年7位、2015年にNHK BSプレミアムでドラマ化。
「ナイルパーチの女子会」は2015年に刊行され、昨年2021年にテレビ東京でドラマ化されていたようです。
ナイルパーチの女子会、ナイルパーチとは?
表紙の上の方に描かれている薄灰色の魚がナイルパーチです。
表紙を開けたところに、ナイルパーチについての説明があります。
スズキ目アカメ科アカメ属の淡水魚。
淡白な味で知られる食用魚だが、一つの生態系を壊してしまうほどの凶暴性も持つ。
要注意外来生物。
凶暴性があるので要注意…これは、まぎれもなく、主人公・栄利子のことです。
そして、商社に務める栄利子は、そのナイルパーチを輸入する部署で働いていました。
商社で働く志村栄利子は愛読していた主婦ブロガーの丸尾翔子と出会い意気投合。だが他人との距離感をうまくつかめない彼女をやがて翔子は拒否。執着する栄利子は悩みを相談した同僚の男と寝たことが婚約者の派遣女子・高杉真織にばれ、とんでもない約束をさせられてしまう。一方、翔子も実家に問題を抱え―。友情とは何かを描いた問題作。第28回山本周五郎賞&第3回高校生直木賞を受賞
BOOKデータベースより引用
父が働いていた一流商社で働く30歳の女性・栄利子。
少女の頃から完璧主義で優等生、でも友達はいない…
栄利子の唯一のコンプレックスが、「心を通わすことのできる女友達がいない」ことでした。
栄利子の日課は朝、「おひょうのダメ奥さん日記」を読むこと。
主婦ブロガー「おひょう」が近所のカフェやスーパーの話題を書いている。ひょっとしたら同じ街に住んでいる?
友達もいなさそうな彼女とお近づきになりたい、という思いに囚われていきます。
近くのカフェで出版の話しを持ちかけている女性がいました、その前にいる女性こそ「おひょう」こと丸尾翔子ではないのか?
一人になった翔子に、大ファンだ、と名刺を渡す栄利子。
友達のいない二人は、やっと友達ができる、と夜のファミレスで待ち合わせて盛り上がりました。
そんな時、翔子の実家の父が倒れたというので帰省することに。
スマホを家に置き忘れて、誰とも連絡がつかず、ブログの更新もできない日が数日。
そうとは知らない栄利子は、不安にかられて翔子に大量のメールを送りつけます。
翔子が東京に戻ってきてスマホを開けたら…栄利子からの大量のメールと着信が…!
こわ~い。
栄利子は躍起になって翔子の居場所をさぐり、ついにマンションを探し当て、行ってしまうのでした。
まるでストーカーのよう。
栄利子は、やっと見つけた友達になれそうな翔子を自分に縛り付けておきたくてしかたのない性分。
相手の都合や人格は認めず、親切のゴリ押しで、「いい人」気分になっていて、それが評価されないと怒るという厄介な性格。
そんな栄利子の性格が、みんなを遠ざけていることにも気づかず、高いところからものをいい、こうすれば、こうなるはず、と自分のルールで行動するのです。
相手や計画が思い通りに行かないと、とんでもないことを仕出かすまさに「危険人物」。
相手を消耗させ、食ってしまう、だから「ナイルパーチ」なのだ、と納得です。
小説の中だから、やや誇張気味に描かれている栄利子の虚栄心や、嫉妬心や意外と小心者の部分が面白く、声を出して笑った場面もありました。
翔子は憧れの主婦ブロガーNORIと会って親しくなったことをブログに書いています。
どんどん離れていき、洗練されていく翔子が面白くない、NORIに対する嫉妬心もありました。
だらだらしている日常を描いているから面白かった「おひょうのダメ奥さん日記」。
とにかくおひょうを元に戻さねばならない。これ以上、自分のように傷つく人間を増やさないためにも、再び読者を共感させるブログを書かせなければならない。友人として、いや、ここまで彼女を育ててやった読者として当然の要求だ。
「ナイルパーチの女子会」P149 より
笑った~!
どれだけ上から目線??
育ててやった、とは?とおかしくて^^
会社の派遣社員の女性にも恩着せがましく「あなたのためを思って言ってあげてるのよ」とシャーシャーと。
翔子から着信拒否された栄利子は、翔子のブログを敵視して、誹謗中傷を書き込んでいました。
担当しているナイルパーチの仕事そっちのけで翔子のブログに貼り付いて。
接近していきます。
栄利子は常軌を逸して周りが見えなくなって同僚や上司との関係も壊れていきます。1ヶ月の休職を言い渡され、家で翔子のブログや最近始めたらしいTwitterもチェック。
ある日水族館に行っている翔子の写真が投稿されたのをみて、身だしなみも整えず、その水族館へと栄利子はタクシーを飛ばし急行。
そこには、夫以外の男性と手をつないでキスをする翔子がいました。
これは使える、とスマホで証拠写真を撮った栄利子。
夫や世間にバラされるのが怖くて翔子はまた栄利子のいいなり。
温泉旅行にもつきあわされてしまう。
一生懸命考えた旅行のプランも乗り気でなく喜びもしない翔子に苛立つ栄利子。
いつも心のなかで翔子のことを馬鹿にしているくせに、離れられない栄利子は、翔子にだけは、安心してマウントできる相手だと本能的にわかったんでしょう。
ズルくて嫌な女性です。
いつも自分は相手のためを思って「頑張って」いるのになぜ理解されないのか、と時々栄利子の胸の中に北風が吹き抜けていくけれど、自分の取る言動が世間から「痛すぎる」と言われることがわかっていないんですね。
高学歴で高身長で、高収入で美人で、お金持ちのお嬢様なのに、何一つ感謝せず、両親に甘えていて、甘えていることにさえ気づいていない高飛車な物言いの30女。
ああ、いいわね、翔子さんて。ちょっと変わった家庭環境で育ってるっていいわよね。
学歴も職歴もたいしたことないっていいわよね。全部、環境や親のせいに出来るもんね。
「ナイルパーチの女子会」P270 より
翔子に自転車を漕がせて、自分は荷台に乗って、
「もっとスピード出せないの? この間はもっと…。ねえ、あの時とどうして同じに出来ないの。ほら、もっとちゃんと漕いでったら。本気でやっているの?」
「ナイルパーチの女子会」P272 より
こんな女性を描く(セリフを言わせる)柚木麻子さんの筆の力、恐れ入ります…
ここまで極端な人はいないと思いますが、人間の嫌な面をデフォルメして描いているので笑えます^^
翔子は倒れた父の面倒を見に、田舎に帰っていました。
言わなくても感じ取ってもらえると思い込み、何もしないでいることほど傲慢なことはない。コミュニケーションを怠けることが、どれほど周りの人間を混乱させ、傷つけるか、父に教えてやれるのは自分だけかもしれない。
「ナイルパーチの女子会」P334~335 より
今まで、嫌いな父親とのコミュニケーションを避けていた自分は、結局父親と同じ、コミュニケーション怠慢だったと気づいたのでした。
一生懸命になりすぎて空回りしている栄利子、きちんとしたコミュニケーションを取らずにうやむやで怠惰だった翔子。
うまく相手との距離を取れなくてもがいていた二人。
翔子は夫に年下の彼のことを打ち明けて別居し、父の介護に。
高校時代、栄利子から逃れたくて吐いた嘘で人生が狂ってしまった幼なじみの圭子は真夜中のファミレスでアルバイトをしていました。
深夜に目覚めて、ふらりと吸い込まれたその店で、栄利子に冷たい目を向けるしかしなかった圭子が、何気ない会話が、小さな約束が、笑い会えることが大事なんじゃないか、と心を込めて話してくれました。
栄利子は、ずっと暮らしてきた巣箱のような街から巣立つときだ、とようやく決意したのでした。
キョーレツな栄利子の描写が面白く、読まされました。
相手を思いやる気持ちさえあれば、もっと幸せに生きられるのに、と思いました。