⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【林真理子】小説8050|読むのが苦しい場面も…希望のラストに救われました

Amazon評価★4.2

 

図書館に予約して1年余り、ようやく回ってきました。

 

8050とは…

引きこもりの若者が存在していたがこれが長期化すれば親も高齢となり、収入に関してや介護に関してなどの問題が発生するようになる。これは80代の親と50代の子の親子関係での問題であることから「8050問題」と呼ばれるようになった

8050問題 Wikipediaより引用

就職氷河期時代、正規社員での就職が難しくなり、非正規や、就職の道が見えなくなった方が家から出られなくなってしまっている方が、実家住まいで歳を重ねて…という状態。

 

引きこもりが就職難だけでなく、百人百様の理由があると思います。

 

小説8050では、主人公の息子は、中学時代のいじめが原因で学校にいけなくなり、そのまま、7年が経過している、という状態です。

 

⚠ ネタバレしていますので、ご注意ください

 

6章からなる作品、前半は読むのが辛いです

  • 第一章 はじまり
  • 第二章 苦悩
  • 第三章 決起
  • 第四章 再開
  • 第五章 再生
  • 第六章 裁判

主人公は、親の代から続く商店街の歯科医院の院長。

妻と、娘、息子の4人家族。

 

息子の翔太は、部屋に閉じこもったきり、家族に顔を合わせるのも嫌な様子で、皆が寝静まった頃に起きてきて、皆が起きてくる頃に寝る、という昼夜逆転生活です。

 

家を出ている姉の由依に結婚したい人ができた、というところから話は展開していきます。

相手の家に引きこもりの弟がいる、と言いたくないから、翔太を寮のある塾に入れてほしい、とパンフレットまで持参して。

 

そのことが翔太を苛つかせ、ある日、婚約者とその母親がたまたま家に来た時に、翔太が部屋から出てきて、皆の前で、椅子を振り上げ、食器棚や窓ガラスを粉々に割り、暴言を吐いたのでした…

キョーフのあまり、とっさに警察に電話してしまった父・正樹でしたがそれは、息子を犯罪者にする行為でした。

親子関係が、信頼関係がガラガラと崩れていきました、そして 夫婦の信頼関係もまた。

 

正樹は、翔太のことを、見ないように、考えないようにして、いないも同然の振る舞いをして過ごしてきたのでした。

 

家にパトカーまで来て、隠していたことが公になり、ようやく腹をくくった正樹は、正面から息子の抱える問題と向き合って行きます。

 

ここまでが一番しんどいです。

親としての気持ちがすごくよくわかります、母親・節子の気持ちも。

 

息子はいじめを受けていたことを隠していました。

多くのいじめ被害者は、自分の尊厳を守るために、いじめではない、と信じようとするのだそうです。

だから、いじめなのか、おふざけなのかを判定しにくいし、証拠もないことが多いです。

 

ふざけていじめてる側は、ふざけただけだ、と主張しますが、嫌なことをされている側はいじめだと感じます。

学校は、面倒を避けたいので「いじめはなかった」といい、いじめられた側の心を更に深く傷つけるのです。

 

それでも、高井と言う、熱血弁護士に出会った大澤一家は翔太の「復讐したい」という願いを裁判で叶えるべく立ち上がりました。

 

翔太も父の説得で裁判の原告になる決意をするところでは、ホッと安堵しました。

 

いじめの事件から7年経っていても、その時からずっとひきこもったりPTSDや精神疾患があれば戦えるのだそうです。

 

高井の指示で、証拠を集め、証言台に立ってくれる人を探し、戦略を練っていくところなど読み応えがありました。

 

小説なので、現実ではそんなに簡単に証拠が集まったり、人を探したりは出来ないと思いますが、手練の林真理子さんの筆に、読まされました。

 

裁判のために奔走したり、翔太も部屋から出てくるようになったところで安心してたら…

 

父親の言動にも問題あり、奥さんも子供も可哀想

この主人公で歯科医の正樹すごく嫌な人間に描かれていて、憤慨しながら読んでました。

高圧的で独善的で短絡的。

 

裁判の証拠集めの過程で、翔太に不利な写真が出てきました。

それは、翔太が他の生徒の背中に足を置いて笑っている写真…

それを見た瞬間、正樹はいじめられた辛さがわかっているのに何をやっているんだと激怒。

いじめの首謀者にやらされたんだ、という翔太の説明も聞かず、いつもの頭ごなしで

「お前は俺を騙していたんだ!お前はずっと被害者面をしてきたが、おまえもいじめの加害者だったんだ!」(P327より引用)

 

「俺はもうお前に失望した。裁判なんてやめた、やめた。もう勝手にしろ」(P328より引用)

 

あ~~、言ってしまった、このオヤジ…orz

 

ここまで時間とお金をかけて綿密に積み上げてきたのに、いきなりのちゃぶ台返し!

 

その時、どすん、という大きな音。

窓の外に、翔太が横たわっていました…

 

鉛玉を喉の奥に詰め込まれたような気分になりました… これからどうなる…

 

一命をとりとめた翔太は、今度こそ生きたいと思った

生死の縁をさまよったあと、翔太は目覚めました、が、半身不随になってしまいました。

前は、親に言われるがままに起こした裁判だったけれど、今はっきりと裁判をしたい、退院してからでも続けられるだろうかと言うまでに。

 

そして法廷へ。

 

高井の戦略で、1億5000万円の損害賠償を請求しました。

大きすぎる金額ですが、これは、世間を賑わすためにふっかけた作戦。

そうすることで、マスコミの、ひいては世間の注目を集められます。

 

実際に手にした金額は150万円でした。

そのお金で、脊髄損傷者を歩かせるための専門のジムに行きたいのだといいます。

 

部屋から出ようとしなかった翔太が、いま、歩き出すために前を向いている…

熱いものが、込み上げてきました、

そして 翔太はいいました「お父さん、ありがとう」と。

 

(TOT) ダー

 

8050問題はいつふりかかるかわからない問題

引きこもる人は、本著のように学生時代に躓いた人だけでなく、会社でのいじめで心を病み退職を余儀なくされた方もいらっしゃいます。

 

親御さんにとっての気がかりは、就職もしてなくて、自分たちが死んだらこの子はどうやって生きて行くんだろう、という心配。

 

そして、引きこもっているうちに…

 

元農水事務次官長男殺害事件(川崎市登戸通り魔事件の影響もあった)は、痛ましい事件でした。

当時、近くの小学校の運動会の音がうるさくて息子が「ぶっ殺してやる」と口走ったために、その直前に小学校の通学中の子供、保護者を無差別に襲った事件を思い出した父親が、息子が犯罪を起こすのを恐れて自分の手で殺めてしまいました…

 

当時、息子は無職だったとのことです…

 

多くのひきこもり家庭はこの事件により、ひきこもり=犯罪予備軍と思われることに心を傷めておられます。

 

社会問題とまで言われているのなら、国が何か政策を考えているのでしょうか。

 

お父さん、記者会見で答える

裁判が終わった時に、マスコミの前で、会見しました。

 

「裁判に踏み切った理由をお教えください。」

「息子の失われた人生を取り戻してやろうと思いました。」

〈中略〉

「子供を信じて、お前を守ってやれるのは世界中でお父さんとお母さんなんだと言い続けてください。いじめは簡単に解決できることじゃありません。裁判はお金も時間もかかりました。ですが、真実はわかったんです。〈後略〉」

「小説8050」P390~391

 

ん~ 8050問題というタイトルですがいじめ問題がメインでしたね…?

 

法廷シーンは面白く、読まされました。

 

さすが林真理子さん、読ませ方お上手です!

面白かったです。

 

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