⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【青山美智子】赤と青とエスキース|1枚のエスキースと2人の物語

2022年本屋大賞 ノミネート作品、青山美智子著「赤と青とエスキース」を読みました

 

青山美智子さんの作品は、2021年本屋大賞2位の「お探し物は図書室まで」と、「鎌倉うずまき案内所」を読みました。

どちらも、連作短編集で、日々の生活や人生でちょっとした迷いのある人に、元気が出るヒントをくれる図書室の司書さんだったり、地下にある案内所の所長だったり。

 

ヒントを元に、それぞれ突破口を見出していく、クスッと笑えて元気のもらえるお話でした。

 

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今回は著者渾身の?恋愛小説!!

エスキース、とは下絵、素案のこと。

 

オーストラリアのメルボルンに留学した20歳の「私」は、思ったような留学生活を送れず、友達もできずにいました。

そんな時、ワーキングホリデービザで来ていた9歳年上のユリさんにアルバイト先で出会いバーベキューに誘われました。

そこで、メルボルン在住のブーという日本人男性と出会い、お付き合いが始まりました。「私」が唯一心を開くことのできる存在。

それは「私」が帰国するまでの期限付き。

帰国直前になって、ブーの友人・の若い絵描きジャック・ジャクソンのモデルになって欲しいと「私」は1日モデルを務めました…

ジャクソンのアトリエで生まれた1枚の「エスキース」をめぐる物語の始まり。

 

メルボルンの小さな画材屋で出会ったジャック・ジャクソンと美大生・空知。

ジャックが描いたという「エスキース」という美しい絵は、不似合いな額に収まっていました。

空知は、絵に合う額縁を作ってみたいという強い思いに駆られ、美大卒業後、額縁工房に就職。

美大を出て企業に勤務し昇進していく友人を見て、迷いが生じた時に円城寺画廊が工房に持ち込んだ絵の中にあの、ジャック・ジャクソンの「エスキース」が!

「エスキース」との10年ぶりの再会に、工房主に、自分に額を作らせて欲しい、と頼み込み…会心の額縁が完成しました。

 

ウルトラマンガ大賞を受賞した砂川凌はメディアの取材が嫌い。

師匠のタカシマ剣との対談なら受ける、ということで対談場所に指定されたのは「カドル」という「喫茶店」。

喫茶店「カドル」のカドルは額縁、という意味だそうです。

 

俺=漫画家・タカシマ剣は喜んででかけていきます、口の重い砂川のために、盛り上げなくちゃ、と。

カドルには、たくさんの絵がかけられてあり、ジャクソンの「エスキース」がかかっていました。

その絵に話題を振ると、マスターとウェイトレスの間に険悪なムードが漂い…

お調子者のタカシマは、運が良かったんだ、とチャラチャラしていますが、砂川は、

「先生は運じゃなく、努力の人、尊敬してます」と。

マンガの大賞をとり、作品が映画化されることになった、時の人・若き砂川凌がそういってくれる…

自分の深いところまで見透かしている弟子の言葉に感動の涙を流す俺、タカシマ。

そして読む者の涙腺も…あぁ…大洪水。

 

輸入雑貨店に務める「私」は51歳、オーナーからイギリスに1人で買付に行ってみる?と嬉しい提案が。

…が、パスポートは彼の家にあります。

ちょっとした口論から家を飛び出して1年、仕方なく電話して取りに行きます。

 

電車の中でパニック障害を起こし、オーナーからメンタルクリニック受診を勧められ、有休消化をすることに。

そんな時、彼から連絡。京都に行くので数日飼い猫の世話をして欲しい、と。

1年前まで住んでいた彼の部屋で、昔の雑誌のグラビアページが本の間から出てきました。

タカシマ剣と砂川凌の対談の写真には「ジャック・ジャクソン作エスキースの前で」とのキャプションが…

「私」はエスキースに描かれた女の子を見つめていました。

 

有休明け。

休み中に作った雑貨店のHPリニューアルの企画書をオーナーに見せたのに、休職勧告。

頑張りすぎてはいけない。

人生は何度でもある、どこからでもどんな風にでも新しく始められる。

でも、体はひとつしかないから長持ちさせなくては…と。

 

絵に値段をつけることに抵抗を感じて画商をしたくない「彼」と、絵描きにも生活がある、ひとつの仕事として、画商をすべき、と思う「私」の間に絵画を売ることに対して、意見の対立がありました。

 

今、彼は京都でギャラリーを開こうと奔走していました、そして、また一緒に暮らさないか?と飛び出して行ったことを不問にして、温かく受け入れてくれた「彼」。

エピローグですべてがつながります!(ネタバレあります)

最終章は、エスキースを描いた、今は世界的に有名な画家・ジャックジャクソンの回想。

 

すべてが繋がって気持ちいい!!

 

20代にメルボルンで出会った、日本人カップルのブーとレイ。そしてジャックの3人の20歳から51歳までの30年の物語。

 

ブーは、円城寺蒼。自分の名前を説明する時に、Blueと説明すると、ブーと聞こえて、それ以来ブーと呼ばれていて、自分でも気に入っていました。

 

「私」は立花茜。茜はRed。レイ、と聞き違えられてから通称レイになりました。

 

ブーの一目惚れで始まった恋、茜と蒼。赤と青。

そして赤いブラウスを来て、蒼にもらった青い鳥(かわせみ)のブローチを付けた茜を描いた1枚のエスキース。

 

ホイ来た、「赤と青とエスキース」!!

 

各章のタイトルも赤と青になってます。

  • 金魚とカワセミ
  • 東京タワーとアーツ・センター
  • トマトジュースとバタフライピー
  • 赤鬼と青鬼

各章の登場人物や伏線が見事にプロローグで回収されて、胸熱。

各章の最終ページでは、必ず感動の涙が溢れ、ラストで奔流となります。

 

エスキースは下絵、素案、という意味だそうで、本作を描く前に、インスピレーションなどを盛り込んだ下絵を描くのが普通だそうです。

 

ジャックは、「エスキース」を描きあげた瞬間の感動を永遠に残したい、とエスキースのままで世に出したのでした。

この作品に、値段は付けられない プライスレス♪

だから、ひとりでも多くの人に見てもらうことを望む、と蒼に託した絵は日本でも知名度を上げました。

 

31年前に「エスキース」が生まれた感動を忘れないように、

蒼が大切にメルボルンに届けてくれた「エスキース」をジャックは初心を忘れないように見守っておくれ、とアトリエの壁にかけてひとりごちます。

 

ああ、いい絵だ。

 

 

 

号泣~!!

 

 

「二度読み必至! 仕掛けに満ちた傑作連作短篇。」とは、Amazonで見かけたフレーズ。

本当に二度読みしてしまいました。

なるほど~!と腑に落ちて、巧いな~と。

 

青山美智子さん、やりましたね!!

 

本屋大賞、取れたらいいなぁ…

 

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