伊吹有喜著「なでし子物語」とほぼ同時に読み終わりました。
深い内容ではないし、面白くてスイスイ読めました♪
見出しは「抑圧への復讐譚」とありますが…
これが抑圧への復讐?
男を手玉に取って、強かに玉の輿を狙う女性の話にしか思えないのですが。
主人公のジーンが抑圧されてた過去は描かれておらず、不幸な結婚を帳消しにして、爵位と資産のある男性を計画的に籠絡しただけ。
誰もが 読んだことはなくても一度は耳にしたことがあるであろう「若草物語(Little Women)」
その作者のルイザ・メイ・オルコットが、「若草物語」の2年前に書いた作品です。
内容は、若草物語の、子供から大人まで楽しめる作品とは違い、ちょっとブラック味のあるお話はA・M・バーナード名義で書かれています。
A・M・バーナード名義で書かれた作品は本作以外に3作あります。
男性の心理を読んで 心を掴むさまは読み応えあります^^
舞台はイギリスの名家 コヴェントリー家。
主人公のジーン・ミュアは、この家の一人娘・ベラの家庭教師(ガヴァネス)としてコヴェントリー家の知人のシドニー家の紹介でやってきました。
コヴェントリー家には未亡人のコヴェントリー夫人、長男のジェラルド、次男のエドワード(通称・ネッド)、16歳の末娘・ベラ、
従姉妹でジェラルドの恋人風情のルシア・ボーフォート、彼女の長年の召使いのディーンと使用人が数名が、
そしてこの家の隣には、爵位を持つ伯父のサー・ジョンが暮らしていました。
気位の高いこの家の人達は、新しくやってくる家庭教師はどんな人間だろうと噂しあっていて、長男のジェラルドは、家庭教師なんて信用ならない、と思っていました。
ジーンは、まず弟のネッドを虜にし、やがてすげない長男ジェラルドの心さえも捉え、ジーンの心を奪い合う兄弟喧嘩へと発展。
男たちが自分の心を取り合うのを見て楽しむジーン。
でも、ジーンが本当に求めているのは爵位のある男性。
隣家のサー・ジョンの庭に入り込み、知り合いになってジョンの心を捉えていきます。
すべてがジーンの思い通りになるのが手にとるようにわかって面白く、どんどんページが進みました。
よく考えたら、そんなにうまくいくはずはないと思うのに、そこは小説、主人公の都合よく事が運んでいきます。
ピンチといえば、この家の使用人のディーンが、ジーンのことをずっと疑っていたことです。
ジーンの計画が暴露されていく最終章
ジーンは男性を欺き、競わせ、自分に夢中にしていく強かな女性。
年齢も30歳なのに、以前のシドニー家では25歳と名乗り、コヴェントリー家では大胆にも19歳と嘘をついて健気さを装っていました。
種明かしは、次男のエドワードによってもたらされました。
彼は前の家庭教師先のシドニーから、ジーンに注意するようにアドバイスをもらったため、ジーンの故郷のアスコットで情報収集をしました。
ジーンの出自と悪事のすべてを綴った手紙を彼女の友人・ホーテンスから買い取ったのでした。
その手紙には、ホーテンスに宛てて、ジーンの計画の進捗状況や、その時の心情が細かく綴られていました…
エドワードが読み上げる手紙の内容に、怒りや苦渋の表情のコヴェントリー家。
真摯な心が弄ばれたこと、笑顔の裏で自分たちを馬鹿にしていたことを知り、呆然。
ジーンの放蕩な親父が、金銭目的で、貴族の女性、レディ・ハワードと再婚したのがラッキーでした。
ジーンが結婚を目論むサー・ジョンは、名家であるがゆえに、出自を重んじる人でしたがそのジョンとレディ・ハワードは知り合いだったのです。
大胆にも、レディハワードの幼くして亡くなった娘=レディハワードが前夫との間にもうけた娘になりすまし、結婚を決意させたのでした。
エドワードは、買い取った手紙の束をジョンに見せようと 皆が集まるリビングにジョン呼び出すと…
ジョンにはジーンが付き添って現れましたが、エドワードが手紙に真実が書かれているので読んでほしい、と手渡すと、読むつもりもないし、自分に免じて許してやってほしい、と完全にジーンに落ちています。
ジーンの真実の言葉が書かれた手紙を後ろ手に持って話していたジョンから手紙の束をすばやく抜き取ったジーンは、暖炉の火に投げ込み、万事休す。
「レディ・コヴェントリーはあなたがたの手の届くところにはおりません。」
ジーンがサー・ジョンと結婚したことを告げ、高らかな勝利宣言で幕を閉じます。
読後はちょっともやもやしました。
親切にしてくれた周囲の人たちの心を踏みにじり、人を欺いて、玉の輿に乗る。
悪女には罰を、と思うのに、成功して終わり、正義は必ずしも勝たない…orz
翻訳本らしい軽い内容
272ページ。
後ろの方は著者年表がすごいボリュームで枚数稼ぎしてます。
日本文学と違って、いかにも英文を訳しました、っていう文章なので、筋や状況はわかるのですが、文章を味わう楽しさはないですし、そのまま訳しているせいか 状況が説明不足の箇所があり、いつからそこにいたの??ってびっくりしたり…^^;
最近、本屋大賞にも「翻訳部門」が新たに設けられたのも頷けます。
作品をより味わい深いものにし「文学」たらしめるかどうかは、翻訳家の知識と文才にかかっているのだな、と改めて思いました。