happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【本屋大賞】平野啓一郎著 ある男 読了

本屋大賞2019 5位 平野啓一郎著 ある男 読了

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アントニー・ゴームリーの彫刻が表紙絵になってます。どうも、悩んでるようですね^^;

本屋大賞受賞という事で読んでみました。

本の帯には

その偽りは、やがて成就した本物の愛によって赦されたのであろうか?

の一文。

その偽りとは…

別人となって生きた男の人生と残された家族の苦悩

ネタバレあります、未読の方はご注意ください。

 

 

 

あらすじ

以前の離婚調停の依頼人・里枝は 息子・悠人を引き取って郷里の宮崎で実家の文具店をきりもりしていました。その彼女が弁護士・城戸に新たな依頼。

2度目の夫・大祐が林業の事故で亡くなったが 夫の家族は、写真を見て、その男は大祐ではない、と言うのです。

大祐は、里枝の文具店にスケッチブックや絵の具を買いに来るので 話す内に親しくなり 里枝は2度目の結婚をしました。一人息子の悠人とも仲良く 二人の間に娘も授かって 幸せを噛み締めたのもつかの間のことでした。

大祐と名乗っていた自分の夫は一体誰だったのか?

城戸が大祐ではない 亡くなった夫を「X」と名付け、Xを探す仕事が始まりました。

城戸は弁護士として抱える仕事の傍ら、X探しをしているうちに 戸籍を売買する人たちが居ることを知ります。

不幸な過去や 家族との柵から解き放たれたい人たちが仲介人の手によって入れ替わり 別人を生きるのです。

里枝に2度目の夫 大祐(本当は原誠)は 親が殺人犯という不幸な過去を捨て 伊香保温泉の旅館の次男坊・大祐になりました。

本物の大祐は、家族、とりわけ兄との折り合いが悪く 旅館の跡継ぎのこともこじれて戸籍を売ったのでした…。

 城戸自身の家庭の悩みなども織り交ぜながら 里枝の家族が大祐として2度目の人生を生きたXの愛を胸に、しっかりと生きていく姿で終わります。

 

冒頭に突きつけられた謎を 少しずつ少しずつ解き明かしていく城戸の推理と行動に、興味津津でページを繰る手が止まりませんでした。

里枝の夫は、本当は「誰」だったのか? 本物の大祐は生きているのか、死んでいるのか? ミステリー色が濃い前半、後半は 複雑な戸籍売買の真相解明です。

戸籍ごと入れ替わる、などということが行われていたとは。(もちろん違法です)

マネーロンダリングならぬ、戸籍ロンダリングで 不都合な過去を捨て 新しい人生をやり直そうと考える人達が落ちる罠なんですね。

目の前の男を愛せても その過去も愛することができるのか?と言う作者の問いかけ。

自分が信じ、愛した男が あとになって生きてきた履歴は偽りで、実は殺人犯の息子だったとわかっても大丈夫なのか…深いところに 是非を突きつけられてドキリ。

親が殺人犯ではなくても 後から出自がわかって 心が揺らぐ…というような話しは巷にあふれていますが。

里枝は たった3年数ヶ月の結婚生活ではあったけれど 大切な命も授かり、たくさんの思い出をくれた大祐(彼女にとっては)への愛は変わらないのが救いでした。

城戸自身 出自に苦しみながら また 家族とのギクシャクも抱えながらも静かに でも 事態が明るい方に向かって終わるのでよかったです。

テーマが複数あって ちょっと微妙…

戸籍売買と他人の人生を生きる 顔のない「ある男」と、男と生きた家族の話し、で終わればスッキリしてたと思います。

が、主人公の城戸という弁護士は金沢で生まれた在日三世で、テレビで流れる「ヘイトスピーチ」のニュースや街角で「朝鮮人」という言葉を耳にするたびに 普通に日本人として生きてきたのに やはりその瞬間 顔がこわばり 心に黒いものが湧き上がってくるのでした。

この在日韓国・朝鮮人問題と 死刑制度廃止の問題が織り込まれて テーマが分散してしまって インパクトが弱まった感じがします。

 

平野啓一郎さんには 韓国人の友人も多いので 小学校中学校時代の在日のクラスメートを思うところから 反感ではなく 共感しようとされています。

個の結びつきでは友好的でも 国や民族単位では嫌韓になることに警鐘を鳴らす意味で 主人公をあえて在日にされたのかな、と思いました。

いきなり国家利益の代弁者になって考えるのではなく、まず一人の人間として彼らの境遇を思うことが大切です。

朝日新聞「隣人」より引用

同感です^^

この思いは主人公を在日にするより もっとこの部分(テーマ)を掘り下げた作品にされたらいいと思いました。

 

平野啓一郎さんの 思いは 朝日新聞の「隣人」にインタビューが載っています。

◆外部リンク

(「隣人」 日本からの視線:1)日韓、属性で分けず共感探ろう 平野啓一郎さん:朝日新聞デジタル 2019.10.11