カレーのように、深く味わいのあるお話でした
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僕の祖父には、秘密があった。
終戦後と現在、ふたつの時代を「カレー」がつなぐ
絶品“からうま”長編小説ゴミ屋敷のような家で祖父・義景と暮らすことになった孫息子・桐矢。カレーを囲む時間だけは打ち解ける祖父が、半世紀の間、抱えてきた秘密とは――ラスト、心の底から感動が広がる傑作の誕生です。
実業之日本社HPより引用
カルチャーセンターに務める佐野桐矢。
一人暮らしをしている母方の祖父・小山田義景は心臓に持病があるので放っておけないが、母たち3姉妹は、父親を嫌悪しており、義景も、女よりも男、という世代なので、桐矢に同居の白羽の矢が立ちました。
汚い家をクリーニングして、同居スタート。
桐矢のお話と、義景の昭和のレトルトカレー販売奮戦記が交互に描かれています。
桐矢の話は、白いスプーン、義景のお話は黒いスプーンが章のはじめに描かれてます。
桐矢と義景、2人の物語であるはずなのに、おじいちゃんの印象がキョーレツで、おじいちゃんの物語を読まされました。
考え方は前時代的で、しゃべる時は怒鳴るようにしゃべるくせに肝心なところは無口で、生きるのが下手な男の代表!な義景です。
読み進むにつれて顕になる、義景の生い立ち、就職、ライバル会社に負けた悔しさ、試食会の成功での喜び…そして妻・桐乃のこと。
最初は、義景の言動にいらつかされましたが、ベールを剥がすように、少しずつ真実が見えてくると、義景なりの「正義」はあったのだ、と思い知ります。
愛情表現が下手で、素直に感情を出せず、妻に逃げられて。
男手ひとつで、娘3人を育ててきたのに、娘からは疎んじられています。
家族の為に昭和の高度成長期を生きてきた義景の彼なりの正義は娘たちには理解されず。
桐矢との同居で、少しずつ義景おじいちゃんにシンパシーを感じました。
小山田義景の章で語られる「昭和」は戦後から、学園紛争や大阪万博、あさま山荘事件などのキーワードで、彩られて、知っている人には懐かしさと自身の思い出を引き出す鍵になるはずです。
いつもいつも、カレーを売るために、カレーの味の研究しカレーを食べ続けて来た昭和を生きた男は、退職した今もなお自社製品のピースカレーゴールデン(甘口)を買い込んでいます^^
義景の芯となっているのが、ピースカレーゴールデン。
彼の誇りです。
こんなカレーもあるよ、と桐矢が作る
夏野菜の素揚げカレー、
ドライカレー目玉焼きのせ、
キーマカレーのサンドイッチ
どれも美味しそうで、作ってみたくなりました^^
何気ない大阪弁の会話がほっこり、いい味をだしています。
リアルな会話が桐矢の母ら3姉妹、従姉妹たちに命を吹き込んで生き生きと脳内で動きます。
時代が移り変わり、常識もどんどん変化しています。
義景おじいちゃんは、いつまでも女性蔑視、男尊女卑、でも、女は弱い存在だから守らなければならない、という正義を持っています、なかなか理解されにくいけれど。
古い価値観で「○○はこうあるべき」「○○はこういうものである」を振りかざしていた桐矢の上司の館長は館長の任を解かれました。
新館長は言います
昔は良かったとか、昔の男は強かったとか、そういう言説が大嫌いなんです。過ぎ去った時代を生きた人々の物語っていうのはたいてい美しいんです。だって、遠くにあるから。《中略》 過去には戻れない。ぼくたちが行けるのは明日より先の未来だけだから
カレーの時間 P289 より引用
うんうん、同感。
過去には戻れないから、今、この時点から、いくらでも新しい未来を作り出せる、そんな自分のポテンシャルを信じて、努力を重ねて行きたいと思いました。
生きるのが不器用な祖父と、優しい孫の同居が、家族に優しい気持ちを取り戻させて。
ラストに温かい気持ちがひろがるほっこり、美味しい本でした^^