⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【森沢明夫】『エミリの小さな包丁』|傷心のエミリを癒やす温かい人達にほっこり

いつも、Amazonのサイトで「この商品を見た後に買っているのは?」に出てた本です。

Amazon ★4.6、星5つは70%、これは読んでみなくては…と図書館に予約していました。

⚠️以下、ネタバレあります、ご注意ください

 

 

 

 

傷心の主人公は、15年ぶりに祖父の家に転がり込んだ

傷ついた心を癒やしてくれたのは、おいしいごはんとおじいちゃんだった。

恋人に振られ、職業もお金も居場所もすべてを失ったエミリに救いの手をさしのべてくれたのは、10年以上連絡を取っていなかった母方の祖父だった。人間の限りない温かさと心の再生を描いた、癒しの物語。

KADOKAWA HPより引用

 

タイトルと表紙絵から、小さな包丁、というぐらいですし、エミリは小学生ぐらいの女の子なのかな?と思っていたら、

恋に敗れて、居場所をなくした25歳の女性・エミリの物語でした。

 

職場の上司と不倫して、彼は妻と別れて結婚してくれると信じていたエミリ。

裏切られ、社内の皆の知るところとなり、恋も職も失い、居場所もなくなりました。

父は亡くなっており、エミリが嫌っている母は、コロコロと相手を変えて今は年下の男性と暮らしています。

 

アメリカに住む兄が、母方の祖父宅に身を寄せるよう、アドバイスしてくれました。

 

15年ぶりに無条件に孫を受け入れる寡黙な祖父

10歳の頃を最後に祖父宅には行ってない、連絡をしてないエミリは他人のようで、ただ血がつながったおじいちゃん、というだけで一緒に暮らし始めます。

 

おじいちゃんの家は龍浦、という漁師町の高台にありました。

テレビもエアコンもないけれど、掃除が行き届いていて、整った生活をしているのがわかります。

 

2人の間にはぎくしゃくした空気が流れていますが、おじいちゃんが作った魚料理は、エミリの胃袋だけでなく、心もほっこりと温め、癒やしてくれます。

 

やがて、地元の人達との交流が、エミリの心を癒やして、日々の何気ない暮らしがいかに得難いものなのかを教えられました。

 

龍浦で暮らす人達

野地鉄平:祖父・大三の知人で作家・エッセイスト 釣果はいつもボウズのおじさん

フミさん:農家のおばあさん ぶっきらぼうで睨みがきいてちょい怖い

心平さん:漁師、余った魚を分けてくれるが、一見チャラそうな青年

直斗さん:カフェのオーナーだけどサーフィンに夢中

京香さん:東京の一流企業を辞めて戻ってきた美人で温かい女性、直人の幼馴染

 

タイプはそれぞれですが、みんな温かい人ばかり。

直斗に淡い恋心が芽生え始めたエミリ。

直斗と京香さんは、とても仲良しで時々ヤキモチを焼いてしまうエミリ。

そんなエミリにも優しい京香さんを前に、自分の器の小ささを思い知るのでした。

 

龍浦に台風到来!

大雨を降らせたりする台風ではなく、エミリの同僚で、空気を読まない自己中で嫌な女の子・毒吐きの沙耶(台風)が龍浦に遊びに来ました。

 

心平、直斗、京香さんとエミリと沙耶で飲んでいた時に、みんなにアレは話したのか?と問うてきます。え?

上司と不倫して、破局して、職場のみんなにバレて、鬱になって、こっちに逃げてきたこと…(P249)

 

読んでて気分が悪い! 

公開処刑をする人間はサイテーだと思っているので、なんでこんな沙耶と友達なのか、一緒に飲みに行くのかとエミリにイライラしちゃう ^^;

 

皆が必死にフォローしてくれる場面は、さすが龍浦の人たち優しい!と思いました、連携プレーもさすが ^^

いたたまれず店を出たエミリに、心平さんが追いかけてきて、自分の身の上話をして気分の上げ方を教えてくれました。

 

小さな幸せでも、味わって噛み締めているうちは、悪いことを忘れているから、

嫌な気分のときでも、そこから目をそらして小さな幸せを見つけよう、と言います。

 

つらいときでも鼻歌を歌っていれば、世界は変えられなくても、気分を変えられる、とかっこいいセリフを言って元気づける心平さんですが…

鉄平さん(作家)の本の一節だ、ってエミリにバレバレで「ちくしょー」(笑)

 

都会から祖父のもとに転がり込んだ訳ありのエミリにみんな優しい♪

 

髙田郁著「みをつくし料理帖」のような味のある料理シーン

第一章 猫になりたい カサゴの味噌汁

第二章 ビーチサンダル アジの水なます

第三章 彼女の毒 サバの炊かず飯

第四章 夜のブランコ チダイの酢〆

第五章 失恋ハイタッチ サワラのマーマレード焼き

第六章 やさしい武器 クロダイの胡麻だれ茶漬け

 

各章にひとつ、魚料理、というか漁師料理が出てきてその描写が秀逸♪

おじいちゃんが漁師料理を作ってくれます。

その包丁さばき、調理の過程を想像しながら読むのが楽しくて…^^

 

それが、『みをつくし料理帖』を読む楽しさに似てました。

『みをつくし料理帖』では、レシピが巻末に載ってたりするのですが、この本にレシピは無い代わりに、参考文献として『四季の漁師料理』など興味深いタイトル8冊が載ってます。

 

エピローグがぐっとくる!

職を失い、龍浦にやってきたエミリでしたが、京香さんの知り合いのお店で働けることになりました。

エミリが東京に旅立つ時、おじいちゃんが、おじいちゃんの宝物をくれました。

新聞紙でぐるぐる巻にされた中から出てきたのは…

砥石とおじいちゃんが使っていたちいさな包丁。

 

エミリが好きになれなかった母・麻衣子が、子供に頃にお小遣いをためて祖父・大三にプレゼントしたのが、この包丁でした。

以来、おじいちゃんはずっとずっと研いで研いで、小さくなってしまった包丁を大事に使ってたんですね…

 

ちいさな包丁には、それだけの愛おしく研ぎこまれた時間が詰まっているんですね♪

 

エピローグは、おじいちゃんの目線で語られるページです。

エミリの母で娘の麻衣子との会話で…そうだったのか、と過去も明かされて、夏の間過ごしたエミリとのことを思い出して。

 

風鈴の凛。

おじいちゃんは、離れで風鈴を作って、直斗さんにネットで売ってもらってました。

風鈴は、桔梗の花を伏せたような形で、凛、と澄んだ音色を響かせます。

エミリの部屋の軒先の風鈴が、エミリの心がざわついたときに、凛、と鳴って…

「凛」が、合いの手のように、ところどころ、効果的に出てきます。

 

読み終わってから知る、プロローグの意

エミリは、出刃包丁を持って、「あの人」の家を訪ねていく…

その描写が、まるで、ミステリー小説のようで。。。

ここに、作家さんの遊び心があるんですね〜^^

 

森沢明夫さんの作品

ワタクシ。森沢明夫さんという作家さんの本を読むのは初めてで、他の著作もよく知らなかったんですが、

『あなたへ』や『夏美のホタル』『虹の岬の喫茶店』が映画化されている、というのも、この度知りました。

 

『虹の岬の喫茶店』は『ふしぎな岬の物語』というタイトルで映画化され「第38回モントリオール世界映画祭」の審査員特別賞グランプリとエキュメニカル審査員賞をW受賞しています。

 

物語に登場する「岬カフェ」は千葉県安房郡鋸南町に実在する喫茶店「音楽と珈琲のお店 岬」をモデルにしているそうです。

 

そう言えば、森沢明夫さん千葉県ご出身ですね。

 

心温まる著作を書かれているようなので、順番に森沢明夫さんの本を読んでいこうと思います。

 

ブクログの森沢明夫さんおすすめ5選!~癒し効果高めの名作選~

  • 虹の岬の喫茶店
  • おいしくて泣くとき
  • エミリのちいさな包丁
  • 大事なことほど小声でささやく
  • 本が紡いだ五つの奇跡

 

 

読んでみようと思います。