電車で隣の席に座った方がこの本を呼んでらっしゃいました。
「ジゼル」、バレエの「ジゼル」と関係あるのかしら?
家に帰ってググったら、面白そう! 読んでみました。
バレリーナ・上野水香さん絶賛!
「私たちの目指すべき世界が描かれていて、鳥肌がたちました!」
華麗なるバレエ・ミステリー、開幕!!
本の帯より
「ジゼル」をめぐるバレエ団の15年前の隠された事件。
「ジゼル」の公演が決まってからの稽古場に亡霊が現れるようになりました。
それぞれの葛藤や嫉妬などが盛り込まれてとても興味深く読みました。
本は、舞台のように、第一幕、第二幕、カーテンコールからなっています。
第一幕 15年前の事件の亡霊に苦しめられるプリマ
「ジゼル」再演に向けてバレエ団の舞台裏や稽古場、バレリーナたちの揺れ動く胸の内、を丁寧に描いてあり面白かったです。
白い亡霊が現れるという噂に不穏な空気が稽古場に流れ始めます。
15年前、「ジゼル」のジゼル役でデビューした姫宮真由美。素晴らしいプリマでした。
事件当日 公演時間になっても現れず 代役のA(紅林嶺衣奈)が出演、喝采を浴びたことを逆恨みしてナイフで切りつけようとして正当防衛した嶺衣奈が姫宮真由美を刺してしまった‥殺人未遂容疑の被疑者死亡、とネットのニュース記事に出ていました。
15年ぶりの「ジゼル」再演でジゼルを踊る東京グランドバレエ団総裁紅林ひさしの娘の嶺衣奈は、次第に精神的に追い詰められ、精神安定剤とお酒を多飲していました。
嶺衣奈の夫は、15年前の「ジゼル」でアルブレヒトを踊ったプリンシパル、今は芸術監督を務める蝶野幹也。
神戸で行われるジュニアコンクールの審査員長を務めた後、パーティ会場の外で、階段から落ちて骨折。
死んだ真由美の呪いか??と皆の心がざわつきます。
東京グランドバレエ団15周年を祝う公演に再び「ジゼル」をマスコミが取材に来て、カメラの前で 幹也の代役の蘭丸と嶺衣奈、バレエ団のみんなで踊ります。
ジゼルが息絶えるのを迫真の演技で見せた嶺衣奈…
嶺衣奈もまた、ジゼルのように稽古場の皆の前で息絶えてしまいました。
真由美の呪い?
第二幕 事件と謎解き。15年前の真実。
東京グランドバレエ総裁 紅林ひさしが死んだ。
お風呂場で溺死。
紅林の父と娘が亡くなった…不吉さを禁じえない団員たち。
二人が亡くなったことで、警察が動き始めました。
団員たちの胸の中に犯人探しの空気が流れ始め 険悪な感情がむき出しになっていく…
理性のヴェールを一枚ずつ剥がして むき出しの感情が見えてくる…そんな様子が綴られています。
結局(ここからネタバレ)
誰も誰かを殺したりはしていないのです。
どれも事故で、偶発的に起きたものでした。
15年前の事件は、新進気鋭のプリンシパル、蝶野幹也を海外に行かせるために真由美が奔走した結果。
刃物を向けた真由美からナイフを奪おうとして揉み合ううちに…蝶野が奪ったナイフが真由美を…」。
総裁の紅林がバレエ団のため、蝶野のため、不幸なことになってしまったことは 内々の口裏合わせでうまく処理し被疑者に死亡で一件落着。
バレエ団の誠意に守られた恩義で、「蝶野ほどの人が何故」と言われるぐらい海外で踊ったことがない蝶野が、世界的バレエ界の至宝ともいえるようなロシアのバレリーナ・シルヴィア・ミハイロワから、引退の意を明かされバレエ団設立に誘われて…
今度こそ、人為的事故が起きようとしている、その時、ずっと動向をみつめていた人物が、未然に防ぎ、事なきを得ました。
姉・姫宮真由美の汚名を雪ぐために今回の亡霊事件を画策し 嶺衣奈を追い詰めた その人物とは‥、他ならぬ真由美の妹でした。
蝶野が、怪我をした自分の代役の蘭丸を殺めようと 飲み物に薬(キニーネ)を仕込んだのでした。
キニーネは、規定量以上を飲んで激しい動きをすれば心不全を起こす可能性があるのだそう。
カーテンコール
ネタバラシ。
総裁が亡くなり、事務の渡辺女史が総裁に、この物語の主人公で、ジゼルではミルタを演じた花音が事件解決の功績を認められ、ブレーンの一人に加わって 新しく「東京スペリオールバレエ団」と名前を代えて再出発することに。
花音の姉が 蝶野の代わりに罪を被って亡くなった姫宮真由美でした。
両親を事故で亡くし 孤児になった3姉妹はそれぞれ別の家に引き取られたけれど 施設時代に優しかった姉はそんなことをするはずがない、と真相を知りたい、姉の汚名を雪ぎたいと考えた花音は、姉と同じバレエ団に入って探っていたんですね。
蝶野幹也は、真実を公表し完全にバレエ業界から引退することを表明しました。
亡霊騒ぎから嶺衣奈が亡くなり、全くの事故ながら総裁も風呂場で亡くなり、殺人未遂事件を起こした蝶野もバレエ団を去りました。
花音は、何も手を下していないけれど、結果的に復讐を果たす事になったのです。
ストーリーは、バレエ「ジゼル」になぞらえて 亡くなった人の死因は心不全。まるで真由美の呪いのように感じます。
面白いので、先が気になって、あっという間に読めました。
おすすめです!
書き残しておきたい文章9選
宝塚歌劇団はじめ、舞台人にも言えることだな~と頷きながら読みましたので、心打たれた言葉や、宝塚みたい~と思ったことなどをピックアップしておこうと思います。
自分用記録故、面白くないと思うので読み飛ばしてください。
⚠以下 太字部分 秋吉理香子著「ジゼル」より引用
1️⃣
我々の実際の人生に、一人でも早くが存在するか?ーーいるはずがない。誰もが主役を張ってそれぞれの人生を生きている、舞台だって、それと同じなんだ。(P74)
2️⃣
芸術というのは、生ものだからね。いつでも最高傑作が創れるとは限らない。特にバレエは総合芸術だから、自分ひとりが素晴らしいダンサーであっても意味がない。
パートナーダンサー、振り付け師、演出家、作曲家、全てが超一流でなくては傑作は完成しないんだよ。(P90)
ここで、シャネルがバレエの衣装を手掛けてたこと、ジャン・コクトーがバレエの台本を書いていたこと、ピカソが舞台装置を担当し、マティスが公演プログラムの表紙画を描いていたことも 蝶野監督が教えてくれました。
勉強になります!
3️⃣
現役を退いて後進を指導する立場になっても尚、優秀なダンサーには嫉妬を禁じえない。自分が昔できなかったことを、あいつは軽々とこなしている。自分が獲れなかった国際コンクールの賞をあいつは獲った。自分には海外から招聘はなかったが、あいつは引く手数多だーーそんな思いが常に胸に渦巻くのだ。(P116)
これがバレエダンサーに染み付いたやっかいな性質だ、と書かれています。
4️⃣
きっとこの子は、今日までに色んな犠牲を払ってきたことだろう。同年代の少女のように週末に遊びに行くことも許されず、レッスンでしごかれ、学業と両立させるために睡眠時間をけずって勉強し、体重管理のために徹底した食事制限も強いられてきたはずだ。
本人だけではない。親も大変だったに違いない。バレエは金を喰う。レッスン代や衣装代、トウ・シューズ代はもちろんだが、コンクールに出場するとなれば別途指導料や振り付け代が必要となる。会場までの旅費も馬鹿にならない。(P123)
友人知人から聞いて、その大変さ(親の)は知っていたけれど、よくよく考えれば、本人が一番苦しい思いをしてますね。
さらに、ここに嫉妬や スランプによる精神的な落ち込みなどあれば 肉体的にも精神的にも追い詰められることもあるのでしょう。
5️⃣
コンクールで賞を与えることは、幼い子供たちに、いばらの道を進んで血まみれになれ、と鼓舞することに他ならない。(P124)
賞を与える側の審査員長の蝶野は、賞がひとりの人間の人生を変えてしまうかもしれない「重み」に愕然とするのでした。
そして、グランプリに選ばれた少女に、プロとなることの厳しさを、「おめでとう」の代わりに切々と説きました。
6️⃣
高い料金を払い、時間を割いて会場に来てくださるお客様の目ほど、恐ろしいものはない。 中略 プロは、どんな人をも満足させなければならない。お金を戴くということは、そういうことだからね。(P127)
これは、元宝塚花組トップスターの明日海りおさんがおっしゃってました。
常に緊張感をもって、真摯に舞台を務める覚悟をもってらしたんですね。
7️⃣
コンクールで失敗しても、君だけが泣けば済む。でもプロのステージでの失敗は、君だけの失敗では済まない。その演目を台無しにし、ひいてはバレエ団そのものの名誉に傷をつける。(P128)
舞台はみんなで作り上げるものだから。
ひとりでも欠けたら成り立たない、みんな必要なキャスト。
どんなに舞台の端であろうと、キャストの一人として覚悟を持って立たないと、と思いますね。
8️⃣
バレエをやってると、いろんな感情と闘っていかなくちゃいけないんだね。後悔、挫折感、嫉妬心 中略 虚栄心、闘争心、焦燥感ーー醜い感情や哀しみを押し殺しながら、美しくて楽しいものを極限まで演じなくちゃならないんだもの (P186)
如何に、役になりきるか、お役の人生を生きるか。
そのために、湧きおこる雑念は抑え込まないと集中できませんね。
発散すると楽でしょうけど。
9️⃣
先輩たちをさしおいてヒラリオンに抜擢された時、そして蝶野監督の代役としてアルブレヒトに選ばれた時ーー蘭丸もきっと、悔しさをぶつけられてきた。しかし何も言わずに耐え、実力で納得させて、堂々と振る舞ってきたのだ。(P218)
選ばれし者は、やはり実力で黙らせる力があります。
実力で選ばれない者(大人の事情案件)は、陰口を叩かれるだけで誰も本当のことを言ってはくれません。
下級生が先輩を抜くことは 宝塚ではよくありますが、やはりどちらも辛いだろうな、と思いながら読みました。