happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【本屋大賞】7位 小田雅久仁著「残月記」はちょっとダークなファンタジー?

「小説推理」に掲載された3編が納められた単行本「残月記」。

 

「そして月がふりかえる」「月景石」「残月記」

 

どれも薄気味悪い、大人のファンタジー。

特に、3編目の表題作「残月記」はディストピア色も濃く、読むのが、というか、文字を読んで、場面を想像するのが辛い箇所もありました。

 

2年前まで、コロナというウイルスによってパンデミックが起きようとは誰も想像だに出来ませんでした。

 

この、「残月記」は、コロナウイルス蔓延する前の2019年4月号~7月号に掲載された作品。

小田雅久仁さんの創造力がすごい ←語彙力なし(笑)

 

3編の中で「残月記」が一番エンタメ性があり、恐ろしく、そして切ない

読書家のための本の総合情報サイト Book Bangの「残月記」紹介ページのタイトルが

ダークファンタジー×愛×ディストピア

そのとーり!!

 

月をテーマに描かれた独特の世界観をもつ3編のうち「残月記」は「月昂」という感染症が蔓延した、近未来の日本が舞台です。

 

⚠以下ネタバレありますご注意ください

 

 

 

 

 

 

 

主人公・宇野冬芽(うの とうが)は、27歳。

幼い頃に父は家を出て、母と2人で暮らしていたが、4歳の時に母が「月昂」に感染して死亡、養護施設を経て、今は木工所で働く。

学生時代には、剣道で名を挙げたツワモノ。身長180センチの長身。

 

「月昂」、月に昂ぶる、と書いてげっこう。

この病気の特徴は、月の月齢によって症状が変遷していくというもの。

新月のときは、昏冥期、体力気力共に落ち、こんこんと眠り、そのまま死に至る人も。

満月のときは、明月期、頭が研ぎ澄まされて、夜でも目が利き、力が漲っている なかば興奮状態になるのですね、だから月昂。

オオカミオトコも月昂だったのかもw

 

月昂感染者は、捕獲され、隔離され、自由を奪われていました。

独裁者・下條拓(しもじょう ひらく)は、月昂感染者の、あふれるパワーを悪用して、闘犬のように闘わせることを思いつきます。

 

体躯のいい男を集めてスタジアムで闘わせ、国民はVRゴーグルで闘いを観るのです。

男たちは命を賭けて闘い、勝者には、「勲婦」になった女性を抱く権利が与えられるのでした。

 

映画を観ているような、エンタメ性

冬芽は「剣闘士」となって、下條の見守るスタジアムでトーナメント制で闘うのですが…

そのシーンは、読んでいて迫力満点で、頭の中にいきいきと映像が動きます。

 

格闘系のゲームを観ているようでもありました。

 

衣装も、兜や武器も凝っていて、敵の攻め方、技の躱し方なども想像すると、ページを繰るスピードもUP。

中断しても、続きが気になって仕方がないです。

 

狂気の独裁者による恐怖政治の近未来日本

独裁者が、善政を行った試しがないというか、善政を行わないから、独裁者、といわれるのでしょう。

 

月昂の剣闘士の首に付けられるワイヤー製のペンダントは、少しでも変な真似をしようものなら、遠隔操作で首を締められるようになっていて。

 

独裁者側に不都合な人物なら、いつでも縊死させることができるし、首を切り落とすこともできると言うシロモノ…

想像するのも恐ろしいです。

 

恐怖政治は、側近の暗躍で一瞬にして終焉を迎えます。

その「スタジアム事件」の関係者に冬芽も入れられ、危うく生き埋めにされるところでした…

 

静かでひたむきな愛が切ない

冬芽が月昂感染者として捕らえられ、衛生局一時保護(…と言う名の監禁)施設に入った時に出会った女性・瑠香は、勝った剣闘士に与えられる「勲婦」として再び冬芽の前に現れます。

 

冬芽は、幼い頃に死に別れた母の匂いを瑠香から感じ取り、2人は惹かれあっていきます…

 

クーデターの嫌疑で埋められた穴から命からがら逃げ出した冬芽は、手錠足錠がかけられていたものの、月昂の症状でいずれ亡くなるだろう、とそれ以上追われることはありませんでした。

(手錠足錠をどうやって解錠したのかは謎のまま)

 

角材などに、亡き戦士の彫像を作っていた冬芽は、逃亡生活中も彫り続け、作品を瑠香のいる療養所にこっそりと投げ込んでいました。

 

瑠香にだけは、それが冬芽の生存の証として、亡くなるまで彼女の心の支えとなっていたのです。

 

彼女の死を察知した冬芽は、その後もたくさんの木彫りの作品を作って、山の中の洞窟の壁面いっぱいに設置し、その中で月昂者として瑠香の像を抱いて眠るように亡くなっていたのでした。

 

冬芽の人生を思うと、胸が締め付けられるような気分になりました。

ファンタジーは、いっときホッとする場面

冬芽が苦境になると、月の世界に意識が飛びます。

月の世界には、月昂で亡くなった人たちがいて、月鯨に乗って月を回っています。

太陽に追いつかれると焼け死に、夜に追いつかれると凍え死ぬので。

月鯨は砂漠の中を泳いでいて、剣闘士の谷には、冬芽がかつて彫った戦士たちの像が砂に屹立していて…

 

月昂で亡くなった作詩家で画家の菅井元香が、月鯨の背中に一緒に乗りましょうと手を差し伸べてくれて。

 

夢か現か幻か…

 

月昂という病、独裁者の施政、剣闘士の救国剣闘会の様子…生々しく恐ろしい現実世界から逃避するかのように、冬芽が時折さまよいこむファンタジーワールドにホッとさせられました。

 

一生涯、一途に一人の女性・瑠香を思い続けた冬芽。

幼くして父と生き別れ、母と死に別れ、27歳で月昂を発症して瑠香と出会いました。

体格の良さを買われて剣闘士になったことで、新たな展開を迎えた冬芽の人生。

 

月昂者故に結ばれることはないと知りながらひたすら愛を貫いた冬芽と瑠香の生き様が胸を打ちました。

 

なんだ、コレ、純愛モノ??

 

それで本屋大賞7位なんですね、納得!