⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

加納朋子著「いつかの岸辺に跳ねていく」読了

新聞広告に心を掴まれて…

昨年 2019年6月29日の新聞広告に出ていた「いつかの岸辺に跳ねていく」。

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 書店員さんから驚きと絶賛の声、続々!

ラストの反転は本当に見事!! 眼前の景色を一変させるこの展開は 極上の加納マジックが生み出した奇跡。

  

誰かを救ったり、勇気づけられるひと言がある…。

言葉の可能性を信じたくなりました。特にラストの言葉は刺さりました

 

私はこういう本を読みたかったんだ。すーっと心に清々しい風が吹いた。暗い夜ばかりは続かない。明るい眩しい朝が来る、そう思って生きていこうと思った。

新聞広告より

 書店員さんの感想を読んで、「ラスト」に感動が待っているのだ、と、そのラストが気になって…

私もそのラストの感動を味わってみたい…

そう思って 図書館に予約したのが昨年の9月。

コロナ禍で4月中旬から6月末まで図書館休館で貸し出しが止まっていましたが、ようやくこの本を手にすることが出来ました。

 

不思議な力を持った徹子と 幼馴染の護(マモル)の物語

ネタバレあります、ご注意ください。

 

 

護視点の「フラット」

互いの家が近所で母親同士も親しくて、赤ちゃんの頃からの知り合いの徹子と護。

二部構成で、前半は護視点、後半は徹子の視点で描かれています。

 

護から見た徹子は…というか 周りの誰から見ても徹子はちょっと変わった子供でした。それは成長してからも変わらず、徹子は生き難さを感じているようにも見えました。

いきなり友達の手を掴んで走り出したり 急に通りすがりのおばあさんを抱きしめたり…と行った具合に。

 

徹子は優しい。絶対に拒絶しない、否定しない、嫌なことをされても困ったように笑顔を浮かべているお人好し。

そのせいで いいように使われたり、軽んじられたり、小馬鹿にされる徹子を見て、護は、義憤にかられ、イライラしてしまうのでした。

 

高校受験でも、徹子は、護の窮地を救って徹子は自分の私立高校受験に失敗してしまいます。

護がそのことに気づいたのは 後になってから。

 

でも、護は知っていました、徹子が「何か」を隠していることを。彼女の素っ頓狂な言動はそこから来ていることも。

「ただ見守り、頼まれればアシストする、全幅の信頼の上に」、そう言い切る護が 頼もしく、荒削りな感じの護が人間として本当に格好がいい!と惚れます。

 

徹子との、恋愛とは違う感情を「自分の中の一番きれいな場所に、そっと置いておきたい」と言う護。

そんなふうに思ってもらえる徹子っていいな、と羨ましくさえ思えました。

恋とか愛とか 平たい感情とは一線を画すふたりの間だけに存在する感情。

 

徹子は護の感情に気づいているのかしら?

 

徹子視点の「レリーフ」

幼い頃、私は神様と出会った。という書き出しで始まる、第二章。

白いヒゲをたくわえたおじいさんが、遊園地の最寄り駅で、ハッと徹子を目に止めて、握手をしてくれませんかと温かい手で徹子の手を包んでくれました。「あなたの未来を祝福します。」と言って。

 

 

 

 

 

 

 

徹子が生まれながらにして持っていたのは、未来を予知できる力でした。

目の前に突然 別の世界が現れるので、状況を理解しようとしている間、周りの人にはぼーっとしているように見えるのでした。

 

未来が見えたら、危険や失敗を回避できていいな、と思うのですが、その危険や失敗を回避するために、徹子は動きます、それが 未来が見えるものの使命だといわんばかりに。

だから 突然走り出したり 抱きしめて止めたり、をするのでますます人から奇妙に思われてしまうんですね。

 

そういう、徹子側から見た物事は 第一章「フラット」で護が体験したことと 鏡の裏表のように語られていき、符合するのが面白いです。

 

徹子は自分の持つ力のことを誰にも言わずに、1人で未来をいい方向に変えようと頑張るのです。

友人の間でも、家族の中でも 自分の希望より相手の未来を優先して…

 

後半は、徹子の親友・メグの自死、彼女を死に追いやった サイコパスな夫・堅利(カタリ)が絡んでストーリーは大きくうねりますが、根底にある自己犠牲を払っても未来をいい方向に変えたい、という徹子の堅い意志と、彼女を見守る大きくて温かい護の存在が支えています。

 

いろいろあってw カタリは去り、親友メグの愛娘は、徹子が育てることに。一緒に育てるよ、という護と3人家族になって 時は流れ、

 

護は長い白ひげをたくわえたおじいちゃんになって今際の際にいました。

徹子の夢を見ていた、という護。

君がまだ小さい女の子で…握手をしてもらった、そして言ったよ

「あなたの未来を祝福します。」

護の声と徹子の涙声が重なりました。

 

あの、徹子が神様だと思っていたのは 護だったんですね。

ずっとずっと 護は徹子を見守っていてくれて…

 

じわ~っと温かいものが胸に広がって目頭が熱くなるラストでした。

 

読後感爽やか!

 

初めて読んだ作家さんでしたが 他の作品も読んでみたくなりました!