⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【三浦しをん】墨のゆらめき|ホテルマンと書家の会話に引き込まれてあっという間に読了!

『墨のゆらめき』は新潮社(書籍)とAmazonのオーディブル(朗読)の共同企画で、三浦しをんさんが書き下ろされました。

 

2022年に配信がスタートするとオーディブルのオールジャンルでランキング1位を獲得した人気作品です。

 

書家とホテルマンの出会いから面白く、引き込まれました。

Amazon★4.3 ★5=60%  2023年5月31日発売

書籍は、配信が終了してから出版されたそうです。

 

2025年9月17日読了。

 

主人公の続力(つづき ちから)は新宿にある、三日月ホテルに勤務して15年目のホテルマンです。

 

ホテルに筆耕士として登録している遠田康春が亡くなりました。

招待状を作成を、同じく書家の息子の遠田薫に依頼に行くのですが…

最初のやりとりからして、かなり変わった人物の様子。

 

やっとの思いで遠田書道教室にたどり着くと書道教室では小学生が半紙いっぱいに「風」という文字を書いていました。

遠田の指導は型にハマらず、子どもたちとのやり取りも生き生きと描かれています。

 

遠田は書家の傍ら、「代筆屋」もしていました。

書道教室の生徒、三木遥人に頼まれた手紙の内容を一緒に考えるうちに、心を通わせていきます。

 

ホテルは、お客様に出す年賀状を遠田に頼みました。

「謹賀新年」の文字を書いてもらいます。

 

遠田は俺の見守る前で、半紙に何パターンかしたため、俺はその度に墨がゆらめき、新しい年を言祝ぐ龍の姿が浮かびあがる思いがして感嘆の声を漏らした。

出典:「墨のゆらめき」P120 

 

若き才能ある書家の運筆を、固唾をのんで見守るホテルマンの姿がありありと目に浮かびました。

 

続と遠田は、仕事上の付き合い以上の友情を育んでいきます。

 

この作品の面白さは、真面目で丁重な物腰が信条のホテルマンと、乱暴な物言いの個性的な書家との対比が面白く、

三浦しをんさんらしい会話劇に、もっと、もっと、と読まされます。

 

前半は、続と遠田の出会いと友情を深めていく過程が描かれますが、後半は、遠田の隠された過去に踏み込みます。

 

遠田が書道道具を買いに行くというので付き合っていたら、遠田に向かって

「向井じゃないか?」と声をかけてくる老人がいました。

 

遠田は、康春の実の息子ではなかったのか、向井という名で養子にはいっていたのか。

 

謎に包まれる続のもとに、遠田から「筆耕士の登録解除依頼」が送られてきました。

 

⚠️ 以下ネタバレあります

 

遠田には父がおらず、ただ一人の肉親の母はネグレクトでしたがその母も中学を卒業後に亡くなってしまいます。

地元のワルのもとに転がり込むが、彫師に末山組を紹介されヤクザの道へ。

声をかけてきた老人は、末山組の組長でした。

彼は組を解散するというので、その解散式の名札や式次第を書くことにした遠田。

 

遠田は、地元のワルが人殺しに行く時に運転手をしていたので罪に問われ服役していた過去がありました。

 

反社の者がホテルと繋がっているのはホテルのためによくない、と自ら距離を置いたのです。

 

個人的に付き合いを続けたい続に遠田は言い放ちます。

 

なに不自由なく呑気にまっとうに暮らしてきたおまえには、どんなに密接交際したっておれのことなんざわからねえよ。

出典:「墨のゆらめき」P209

 

もう来るな、と引き戸がぴしゃりと閉まった…

 

今まで積み上げてきたものがガラガラと音を立てて崩れる気分。

 

「これまで過ごした時間をすべて否定されたようで悲しくもあった。」出典:「墨のゆらめき」P212

 

遠田は、書展に出すために中国、唐代の詩人・劉商の七言絶句、「送王永」という漢詩を2枚の画仙紙に書いていたことがありました。

そして、採用しない方の書を続にくれたのでした。

君去春山誰共遊
鳥啼花落水空流
如今送別臨溪水
他日相思來水頭

 

男の友情と別れを惜しむ気持ちを読んだ詩です。

続がまさか、こんなところで別れの詩をしみじみ読むことになろうとは…

これも、著者・三浦しをんさんの作戦か…

 

4行目、「他日相い思わば水頭に来たれ」は

会いたい思いが募ったときにはまたこの川辺に来よう、という意味。

 

今は、眼の前でシャッターを下ろされてもいつかまた会いに行こう、と自宅アパートに持ち帰った遠田の書を観て思うのでした。

 

俺は遠田の書が好きになった。いや、遠田の書を通し、書という表現そのものに魅入られた。

白と黒、直線と曲線のあわいが生み出す不思議な宇宙。

出典:「墨のゆらめき」P224

 

遠田は粗野な人物ですが、書に関しては崇高なまでの美しさを表現する力を持っていました。

そのアンバランスな、危なっかしい感じが魅力的に描かれていました。

 

実直なホテルマンの続との対比も面白く、遠田に翻弄されているのも笑いどころ。

 

何よりも、生き生きとした会話を読むのが楽しく、読み終わるのが惜しい気持ちになりました。

 

本作は「バディもの」であり、「文字に魅せられる者」、「才能を有する者の葛藤」などが描かれ、三浦しをんさんの真骨頂にして王道、新たな傑作の誕生です。

引用元:Amazon 商品ページ「墨の」ゆらめき

 

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