⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【三浦しをん】「ののはな通信」|2人の往復書簡でそれぞれの人生が浮かび上がる

本の表紙絵が野の花ですが、ののとはなの物語です

以前、友人が「今読んでる」…と話していた「ののはな通信」。

図書館に本を返しに行ったら、書架にあったので借りてみました。

 

予習なしで読み始めました。

「通信」というタイトルなので、お手紙であることは予想出来たのですが、448ページ、読み応えあるのは…後半からです。

 

⚠ネタバレあります、ご注意ください。

ののと、はなの往復書簡

横浜、山手にあるミッション系女子校。

家は裕福ではないけれど、頭脳明晰な女の子、野々原茜、通称、のの。

父が外交官で豊かな暮らしをしているが、難しい日本語や漢字に手こずっている帰国子女の牧田はな。

 

昭和59年(1984年)~昭和64年(1989年)の少女期の手紙やメモ

2010年~2011年の中年期のEmail

 

前半は、女子高生の無邪気な手紙です。

友情が一線を越えて女の子同志の恋愛に発展していきます。

大好きで大好きでいつも一緒にいたくて、ひとつになりたい、という熱い思いをこめて、毎日のようにポストに手紙を投函するふたり。

 

そんな時に、のののある行動が、今までの関係を打ち壊してしまい…

 

卒業の時もそっけなく分かれてしまったのでした。

 

ここまでが第一章

 

第二章は、高校卒業後、2人がはなの年賀状から友情復活。

 

ののは、年の離れた恋人と二人暮らし。

世間的には叔母と暮らしていることにしているけれど、女性の恋人。

ののと付き合っていたはなは、大学生の男の子と付き合い始めたものの別れ、外交官の磯崎と結婚を前提におつきあい。

 

第三章は、ののが、高校時代の友人から聞いたはなのe-mailアドレスにメールを送ったところから、またメールでのやりとりが始まります。

 

はなは、外交官の夫・磯崎について任地、アフリカのゾンダの首都・ダッタ(国も年も架空)に住んでいて、ゾンダの政情や暮らしなどを知らせてくるのでした。

民族紛争のあるような国に暮らす日本人のことを興味深く読みました。

 

第四章は、殆どがののからはなへの一方通行のメールです。

政情不安により、すべての日本人がゾンダから専用機で脱出しました。

帰国した人の中にはなの姿はなく…夫の磯崎氏によれば、はなは、隣国の難民キャンプで働いているといいます。

でも連絡はない。

生死のほどもわからないけれど、ののは、ただただ、はなへの思いを文字にしつづけるのでした。

 

第一章と第三章がボリュームがあり、第二章と第四章は第一章と三章の半分ぐらい。

 

ふたりの綴る文章にも、時の流れが感じられます。

高校時代の、キャッキャした内容から、それぞれが社会人として立派に生きている様子がわかる内容になっていきます。

テーマは、性的マイノリティ? 外交官の仕事? 東日本大震災?

「ののはな通信」は、雑誌「小説屋sari sari」に2012年1月~2015年1月、3~5月、連載されたものを、加筆修正して2018年に出版された本です。

 

ここ数年、性的多様性やLGBTについての理解が急速に進んできた感じがしますが、三浦しをんさんが連載を初められた2012年当時は、斬新なテーマだったのではないかと思います。

未成年のLGBTに切り込んだ作品は多くないような。

私が知らないだけかもですが。

 

途中までは、それがテーマかな、と思っていたのですが…

 

はなが、外交官の夫とアフリカへ赴任しての暮らしぶりや外交官夫人の生活についても紙面を多く割いているので、話は興味深いく読みましたが、テーマぶれてない?とちょっと気になりました…

 

巻末で、外交官夫妻に謝辞を述べられています。

ネタ元ですね、だから詳しい、そしてリアルで面白い^^

 

ののは、ライターの仕事をしつつ、東北の村のおじいさんおばあさんの話を聞いてレポートをまとめる、という趣味がありました。

それが、2011年3月の東日本大震災とつながっていき…とこの辺りは、加筆修正の、「加筆」部分になるのかしら?と深読みしました^^;

 

一番太いのはLGBTだとは思うのですが…最後にはなは、自分の道を行く、と離婚届を夫に託して、難民キャンプへ赴きました。

かっこいい。

もう、はなと連絡はつかないけれど、ののは自分の思いをずっとはなへ「片思いのように」綴り続けていくのでしょう。

 

前半部分からは想像できない着地点ですが、はなの性格が、往復書簡でおぼろげながらわかってきてたから、「はならしい」生き方だと思えます。

 

手紙という形なので、丹念に読み込んで、いろんな事実から少しずつ浮かび上がる 2人の人となりを知るのが面白かったです。

 

高校時代に、一瞬の花火のように燃え上がった女の子同志の恋。

その思い出を持ったまま、ふたりは「余生」のような時を紡いでいます。

 

なんだか寂しくなりました…