⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【森沢明夫】誰かの心のオアシスになる!『さやかの寿司』読了

『さやかの寿司』は、

『キッチン風見鶏』『おいしくて泣くとき』に続く〈最高においしい小説〉シリーズ第三作目とか、そんなシリーズ、あったんだ^^。

 

海沿いの街の商店街にある、夕凪寿司。

そこには

「お客さんの心を夕凪みたいに穏やかにする心の安全地帯でありたいの」、という、

女性の寿司職人、さやかさんがいます。

緊迫感ある状況も、さやかさんがゆったりと受け止めて気がつけば笑顔に…。

 

 

毒親に育てられて苦労してきた女性が居場所を見つけて…

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母の納骨を終えた作田まひろ(22)は、「別れ」を受け入れるため、幼い日に母と一度だけ訪れた寿司店にやってきた。海辺の町の鄙びた商店街の「江戸前夕凪寿司」という小さなお店。意を決して暖簾をくぐるも、ランチ営業はちょうど終わったところだった。がっかりしたまひろだったが「ちょっと、お客さぁん」と若い女性の綿飴みたいな声に呼び止められ、まかないの海鮮丼をいただくことに。「さやかさん」と呼ばれる声の主は、ふんわりした見た目とは裏腹に、丁寧な「仕事」をする凄腕の寿司職人で――。

引用元:角川春樹事務所 さやかの寿司

 

第一章 ハンバーグの石 【作田まひろ】

DVの父と、言葉の暴力のひどい母に育てられて、いつも顔色を窺って生きてきた作田まひろ。

母は、アル中の父との離婚が決まったお祝いに、とまひろを夕凪寿司に連れてきてくれました。人生で唯一幸せな思い出のあるお寿司屋さん。

 

母が父と別れても、母のまひろに対する意地悪い仕打ちや暴言は止まらずでしたが、そんな母が47歳という若さで肺がんでなくなりました。

 

まひろは、22歳でひとりぼっちになってしまったけれど、まひろは毒親から卒業できました。

これからは「自由」に、生きたいように生きればいいよ、と応援したくなりました。

 

パンデミックで会社が倒産して、職場もなくなり、唯一のいい思い出がある「夕凪寿司」へ行ってみようと思い立ちます。

 

ランチタイムは終わっていて、さやかさんが作るまかないを食べていくことになったまひろでしたが、

夕凪寿司の店員の遠山未來の眼力の強さが母の眼と重なって、落ち着かず、パニックになってしまうのですが…。

 

夕凪寿司のみんなはゆっくりと話を聞いてふんわりと包みこんでくれます。

まひろが味わったことのない優しさでした。

 

夕凪寿司に来る前に、子供の頃から心の拠り所にしていたお守り、「ハンバーグの石」を落としてなくした話をすると、 未來は一緒に探しに行ってくれました。

 

あった、と手渡してくれたそれは、まひろが探していたお守りの石ではなかったけれど、自分のために一生懸命になってくれた未來の気持ちが嬉しくて、

石と一緒に温かい気持ちも受け取れて…まひろの新しいお守りになりました^^

 

第二章 自転車デート 【遠山未來】

未來とまひろは同い年だとわかり、お友達になって、夕凪寿司のある風波の隣町、龍浦町にあるカフェ、シーガルへと自転車でやってきます。自転車デート!

 

この龍浦町も、カフェ・シーガルも、森沢明夫さんの『エミリの小さな包丁』に登場するので、なんだか懐かしい気分で読み進みました。

 

『エミリ〜』で頭の中に脳裏に描いた情景は、今も通用するっ!

 

夕凪寿司の常連さんには金光建設の社長がいて、まひろは運良く経理担当部門に就職させてもらえることになりました。

 

夕凪寿司でまひろの歓迎会が行われている時に、成金マウント男が女性を伴ってやってきます。

いちいち寿司の味について嫌味を言ったり、知ったかぶりをしたり…読んでいる方も気分が悪い!

「へぇ。こんな田舎でも常連がつくんだな」(出典:『さやかの寿司』P92 )

イラッ 

 

そんなときでも、さやかさんは、剣のある言葉をやんわりと受け止めてニコニコしているのです。

器が大きいのか、天然なのか、ふわふわとやんわりと受け答えしているのを読んでいるともどかしくて…

 

もっと、ガツンと言い返して欲しい!という気持ちが湧いてきますが、

 

さやかさんは、お寿司の味でぐうの音も出ない状況にもっていきます、胸の溜飲がさがります!

さやかさん、天晴です。

 

味では何も言えなくなった成金男、今度は

「そもそも女が寿司職人になるってところからして邪道なんだよ」(出典:『さやかの寿司』P106)と違う方向から攻めてくる!

本当に嫌なヤツ!

それでも笑顔を絶やさないさやかさん。

 

修行時代にも、女だから、女のくせに、女じゃ、女にしては…と「女」にかこつけて嫌味を言われてきました。

 

女、女、と言う男ほど、絶対に乗り越えられない性差を盾に嫌味を言う。

実力で敵わないことを認めているようなものですね、あぁ情けない。時代遅れ。

 

ネタに隠し包丁を入れて、ネタにつけるタレに工夫をして、最高の状態で提供する。

読んで、想像しているだけで無性にお寿司が食べたくなります!!

 

さやかさんの祖父の伊助は夕凪寿司の大将でしたが今は、さやかさん(29歳)にその場を譲っています。

 

さやかの両親は船の事故で亡くなってしまい、祖父の大将が大切に育ててくれたのでした。

伊助さんののんびりとおおらかな人柄が、夕凪寿司の土台になり、さやかさんの人格形成にもいい影響を及ぼしていたのでしょう。

 

未來の学生時代、柔道部のレジェンドと呼ばれる先輩が母校に来た時に、

「強い意志を持って頑張るのも大事だけど、じつは、人生のなかから『MUST』(〜でなければならない)をなるべく無くしておくことも大事なんだよって」(出展:『さやかの寿司』P136)教わったそう。

 

「お寿司を握るのは男でなければならないとか、正道で握らなければならないとか、そういう『MUST』はいらないわけです(出展:『さやかの寿司』P137)

 

生活の中の小さなMUSTにこだわって、自分自身が不自由だったりがんじがらめになってしまう時もあるけれど、

MUST排除で自由になれるなら、こんなに生きやすいことはない、こだわるところはこだわり、MUSTを手放すところは手放して、生きて行けたら楽だろうと思いました。

 

第三章 親馬鹿とジジ馬鹿 【金光武則】

この章は、さやかや夕凪寿司よりも、夕凪寿司の常連にして、まひろが務める建設会社社長の話がメイン。

 

金光武則の妻は、不倫をして、子ども2人を連れて出ていきました。

が、離婚理由は、夫が家庭を顧みないこと。

一生懸命に働いた結果、悪者になってしまったまま、子どもたちのためにがむしゃらに働き、養育費を振り込み続けていました。

 

今や事業は大成功し、メルセデスを乗り回し、町長選出馬を打診される地元の名士と呼ばれるまでになりました。

 

同級生の軽トラに乗せてもらって、彼の自宅を訪問すると、

三世帯同居で狭いながらも、孫にも恵まれているのを見て

自分にはない「家族」という幸せを羨ましく思うのでした。

 

金光、65歳の誕生日、長く離れて暮らしていた息子と、二度と会うこともない、と諦めていた娘が夕凪寿司に来てくれて…

娘は、両親の本当の離婚理由を知らず、父を責めたことを詫びに来たのでした。

その腕には娘の赤ん坊が…。

武則が抱くことを諦めていた孫、その柔らかな存在にメロメロになるジジ^^

 

社長の誕生日のサプライズを、さやかさんが後押ししてくれたことがわかります。

 

ほっこり幸せになれるお話でした。

第四章 ツンデレの涙

夕凪寿司の店員・遠山未來の前髪ぱっつんには理由があって…

子供の頃、父親のDVのせいで、おでこに一直線に傷跡が付いてしまったのを隠していたのでした。

 

まひろが、未來のおでこに手を当てたことで、前髪が浮いて傷が見えてしまった。

未來は、まひろの手を払い除け、気まずい空気が流れました。

翌々日、灯台のある岬にまひろは未來を呼び出して…

 

まひろの親も毒親だったけれど、

未來の親もDVが激しくて、一緒にいるのはよくない、と分かれて暮らしていると打ち明けてくれました。

 

岬に吹いてくる海風は向かい風で強いけれど、くるり、と後ろを向くと追い風になります。

無理に立ち向かうことはしんどいけれど、くるりと背を向ければ楽になる、状況が好転する、そんな気付きをくれる一幕でした。

 

未來にも、夕凪寿司の伊助さんの元にも、そろそろ親元に戻ってもいい頃ではないか、と未來を夕凪寿司に連れてきた伝助さんから連絡が来ました。

 

ずっとこのままでいられると思ったのに…突然かかってきた電話に、また幸せが逃げていきそうな気がしてか、とても落ち込む未來でした。

 

夕凪寿司のホームページの「スタッフ紹介」、さやかさんが、未來の項目を勝手に書き換えていました。

 

遠山未來

江戸川家に住み込みながら、主に客席を担当する当店の看板娘。また、我が家の”縁の下の力持ち”にして大切な家族。(出展:『さやかの寿司』P284)

 

幼い頃から、血のつながった家族から暴力を受け、苦労させられてきた未來。

未來が欲しかった居心地の良い、心から安らげる家族が、両手を広げて迎えてくれている!!

 

ツンデレで素直に心を表現できない未來の目に涙が盛り上がってホームページを見る目が霞んでしまった…

伝助さんには、未來はこのまま夕凪寿司にいてもらう、と伝えた伊助さん。

 

血はつながっていない「新しい家族」、伊助さんとさやかさんと一緒に暮らせる幸せを噛み締めて、気持ちも新たに、深呼吸する未來でした。

 

家族ってやっぱり温かいもののはず

登場人物のまひろも、未來も両親から暴力を受けていました。

「同じ匂いがしたんだ」と打ち明けた未來とまひろ、性格は正反対なのにわかりあえるのは、心に同じ傷を持っていたからなんですね。

 

血はつながっていなくても、江戸川家の家族だと言ってもらえた未來はどれほどうれしかったことでしょう。

本当の家族とは? 

血がつながっていることよりも、互いが互いを思いあって暮らせるのが本当の家族のような気がします。

 

人間は1人では生きていけないから、素の自分をさらけだせる、安心な場所が家庭ですが、

いくら血がつながっていても、DVで家族がバラバラになってしまうこともある。

(まひろや未來)

就職や結婚で家族がバラバラに住まうことになっても、心がバラバラになっていなければ、

家族に求心力があれば、また金光社長のように集まって語り合える。

金光武則は、離婚で子どもたちと離れてしまったけれど、ずっと子どものためにと養育費を送り、

子どもたちも父への思いがあったから、また会うことが叶いました。

 

双方向の思いがないと、家族でも友人でも人と人の絆は切れてしまいます。

さやかのいる夕凪寿司には、類は友を呼ぶのか、穏やかで楽しい人が集まってきます。

 

DVや教育虐待、過干渉などから、自分の心と身体を守るために親と縁を切りたい方もいらっしゃいます。

 

家族関係に疲れたら、夕凪寿司のようなところで、心のリハビリができたらいいのに、と思わずにはいられません。

 

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