⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

高樹のぶ子著「業平」は、「伊勢物語」を大胆に解体、再構成した偉業の賜物

「源氏物語」と双璧をなす「伊勢物語」から 在原業平を立体的に

「伊勢物語」を解体、髙樹のぶ子さんの解釈、味付けで 現代語訳ではなく小説の形で著した 著者渾身の作品です。

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第48回泉鏡花文学賞受賞作品。

 

色好みで 美男で知られる在原業平の生涯を小説にしたことで、話題になりました。

「伊勢物語」の現代語訳ではないのです。

それは、「文学史的な事件である」とまで言われています。

これは、読まなくてはイケナイw

平安の雅を見て来たかのごとく書かれています

体言止めが多く、です、ますで終わってない文章も多くて。←こんな感じ^^

短い文章が多くリズミカルでもあります。

「伊勢物語」で業平が歌った歌を巧みに取り込んで、説明も交えつつ、

 

業平、元服後の16歳から、55歳で亡くなるまでを描いています。

 

「伊勢物語」は百二十五章段からなる短編歌物語。

「昔、男ありけり」で始まる文章と和歌で構成されていて、作者不詳。

平安歌人に伊勢という女性がいますが、伊勢は貴族出身で、「伊勢物語」の作者ではないそうです。

 

著者は、平安時代の風習や、衣食住の生活様式にも詳しいので、業平の行動が目に見えるようです。

 

お目当ての女性とは、得意の和歌を交わすことで、心を絡め取っていく様子も活写されていてお見事。

 

有名な和歌も、なるほどこういう状況で詠まれたのか、と納得がいきます。

 

平安の世も、恋愛に身を焦がし、仕事で浮沈あり

在原業平ほどの美男子で、恋愛はお手の物でも、相手の心を掴むことに腐心したり、眠れぬ夜を過ごしたり…

 

平安貴族は、誰の血を引いているかで、勢力図が決まってくるようです。

業平の父・阿保親王は、一時期、父・平城帝が嵯峨帝との対立で負けて出家し連座して太宰府に流されていて、政変(応天門の変)などで身を削られるような思いも味わいます。

 

が、16歳の頃から、いろんな女性の元へ通っては歌を贈って…

 

「夜這い」という言葉は聴いたことがありますが、まさに夜、侍女に案内してもらって、目当ての貴婦人の部屋を訪れるんですね。

現代では考えられない当時の風習を読むのが興味深いです。

 

紀有常の娘・和琴と何回か逢瀬を重ねているうちに妊娠させてしまいます。

妻を娶ったにもかかわらず、妻にも、生まれた子にも合わず、自由に恋愛を楽しんだ業平。

 

まだ「少女」のうちから目を付けていた恬子内親王が斎宮となって伊勢に赴いた後も忘れられずに訪ねて行き はらませてしまうという愚行には驚きました。

理性がないのか 性欲が勝つのか…。

 

清水寺詣で出会った藤原高子にもご執心で、業平のお相手は、皆身分の高い貴族なので、天皇の妃候補や斎宮(伊勢神宮に仕える女性)など。

それでも強引に、会いに行く業平って…^^;

 

斎宮の頼みとは

斎宮(恬子内親王 やすこないしんのう)は、出産後、子供を養子に出すことにします。

その前に、一度、父親である業平に抱いてもらいたい、と供を連れて遠路はるばる業平のもとに向かいます。

ひと目、斎宮をみたい業平でしたが許されず。

代わりに、ずっと斎宮恬子の側で仕えていた杉(「伊勢」と名乗る)を業平のもとで預かって欲しいと頼むのでした。

 

鄙の女にしては、和歌詠みとしての才能もある伊勢との同居は老境にある業平に楽しいものでした。

 

多くの和歌を書き付けた冊子を伊勢にあずけて、静かに息を引き取った業平。

 

伊勢(=杉)が、業平から受け取った和歌集を元に「伊勢物語」が書かれたのだな、と匂わせる展開が巧い。

 

日本の四季を織り込んだ雅な文章が素敵

霜、露(涙の比喩に使われた)、桜、梅、杜若(かきつばた)などの花、紅葉、月など、植物や、自然現象が 美しい日本の四季を美しい文体で書かれています。

 

平たい文章ではなく、少し格調の高い文語調な部分も。

 

高樹のぶ子さん自身、あとがきで、文体を模索した、と書かれています。

わかりやすく、けれど、古典の味わいも失ってはいけない、と試行錯誤されたのかもしれません。

 

作中には、たくさんの和歌が、ストーリーに沿って出てきます。

これも どこでどの和歌をとるのか、という作業は大変だったのではないかと思います。

 

業平、東下りをした時に詠まれた歌

・名にし負はば いざこと問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと 

 

他にも古今和歌集に、ある有名な歌も。

・ちはやぶる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くゝるとは (百人一首に採られています)

 ・月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして

・世の中に たえて櫻の なかりせば 春の心は のどけからまし 

 

この本を読んだら「伊勢物語」を読んでみたくなりました。

流石にガッツリの古典は腰がひけるので、いつか…