『小さいおうち』直木賞受賞も納得、読まされました
外出の時に持ち運ぶのに軽い文庫本を…とたまたま図書館で借りた本。
バージニア・リー・バートンの絵本、『ちいさいおうち』と同じタイトルなので、気になって、読んでみました。
中島京子さんの本を読むのは初めてでした。
借りてから知ったのですが、第143回直木賞を受賞作で、2014年に映画も公開されています。
若き日のタキに扮した黒木華は、第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)に輝いた。国内でも第38回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。
映画.comより引用
戦時中の暮らしが庶民の目線で描かれていて、興味深かったです。
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内容もプロットも秀逸
先日、本屋大賞でグランプリに輝いた『汝、星のごとく』、最終章で号泣でした。
グランプリは逃したものの、8位入賞となった町田そのこさんの『宙ごはん』も、最終章で泣きました。
この『小さいおうち』も、そういうことだったのか…と後から「あの時の」「あの場面」の意味を知らされます。
主人公・タキの奉公先のご主人が勤める玩具会社に入社した板倉の人生がこんなことになっていたとは!!
タキの甥の健史の言動とその後、も描かれていて、
最終章は、それまでの1〜7章とは全く違った視点で描かれています。
最終章は重要ですね、画竜点睛、大成功です!
本の裏表紙にも
「晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。」
とあります。
読後感は大事ですね^^
7章と最終章
第一章 赤い三角屋根の洋館
第二章 東京モダン
第三章 ブリキの玩具
第四章 祝典序曲
第五章 開戦
第六章 秘策もなく
第七章 故郷の日々
最終章 小さいおうち
対談 中島京子×船曳由美
「私たちと地続きの時代の物語」
対談も興味深いです^^
⚠️ネタバレありますので未読の方はご注意ください
誇り高き「女中」・タキの回顧録
お話は、年老いたタキと甥の健史との会話や、自身のひとりごとの現代パートと、
戦前から終戦間際までの山の手の赤い三角屋根のおうちでの日々を綴った回顧録パートが交互に出てきます。
文中から、タキはすでに、『タキおばあちゃんのスーパー家事ブック』という本を出版しており、その収入で株を買い足したり、となかなかのスーパーおばあちゃんぶりがわかります。
農村の口減らしのため、布宮タキは尋常小学校卒業と同時に山形から東京に出て、女中奉公に上がることになりました、昭和5年の春のことでした。
最初の奉公先は、小説家の小中先生のお宅。
先生は、タキちゃんは頭がいい、と褒めてくれました。
学校で習う勉強ではない頭の良さがある、と。
そしていつもイギリスの女中のエピソードを聞かせてくれるのでした。
女中たるもの、言われたことだけやっているのではだめだ…その奥に深い意味がありました。
タキは、この先生の教えを胸に、奥様の手紙を…
母から聞いた昔話、戦時中の話とリンクして興味深い内容
戦時中の暮らしは、ドラマや映画でもよく描かれますが、やはり、目でみる情報と違い、言葉で読むとよりリアルに詳細に頭の中にイメージが広がります。
母が戦時中の話を聞かせてくれたことが思い出されて、自分は体験していないけれど、懐かしい気持ちで読みました。
9月1日は「興亜奉公日」。聞いてないよ〜〜^^
学校で教える「日本史」の太平洋戦争も、◯年◯月、日本は◯◯に…といった軍事的話題中心でしたから
この本に描かれている市井の人々の営みが興味深かったです。
当時の人達の間に流れるパールハーバー急襲による戦勝の空気が、戦況悪化に伴い金属供出をしたり、犬なども供出したり(知りませんでした)…
類焼を防ぐために、予め家を壊す…などしてどんどん緊迫していくのが手にとるようにわかり読まされました。
タキの書いた回顧録を笑う、甥の孫・健史
生意気な口を利き、おばあちゃん、それは違うよ、などと、書物を読んだ知識で言い募ってくる甥の孫の健史。
戦時中といっても最初のころは、緊迫していなかったことも、当時を生きていないとわからないこと。
タキは、「良い家庭にいい女中あり」と誇り高く生きていたのですが、健史に笑われてしまいます。
こんな健史ですが、最終章で、過去と現代を結ぶ重要な働きをします。
本当に、中島京子さん、巧い!!
封を切られていなかった、平井時子から板倉正治への手紙
タキ 24歳、奥様(時子)32歳、板倉正治26歳。
タキにも知れることとなった時子と板倉の淡い恋。
いよいよ出征するという時に、板倉を自宅に呼び寄せる手紙を言付かったタキ。
旦那様のためにも、諦めてほしいと思うタキは、板倉に手渡すことはなかったのですね。
タキは、小中先生の「イギリスの女中」のエピソードを思い出したのではないか、と思います。
言われなくても正しき方へ導くのが女中の仕事であり、いざとなったら罪をかぶる覚悟もある、という。
板倉正治は、世界のショージ・イタクラとして活躍
戦後、紙芝居作家として活動し始めたイタクラ・ショージ。
彼の描いた16枚の絵。
その中の
① 穏やかな春の様子
② 夏の海岸の風景
③ 暴風雨
この三枚の絵は、あの場面かしら?と想像するのも楽しかったです♪
中島京子さんの『長いお別れ』も蒼井優主演で映画化、2019年に劇場公開されています。
いつか読んでみようと思います。
『小さいおうち』、オススメです♪