⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【直木賞候補作】村木嵐著『まいまいつぶろ』|これが史実とは…徳川家重の半身、大岡忠光

享保の改革を主導した八代将軍・徳川吉宗。

その改革を支えた江戸町奉行、大岡越前守忠相。

 

この二人は切っても切れない仲で、多くのドラマや小説、映画の題材にもなっていますね。

 

その八代将軍・吉宗の長男・家重(幼名・長福丸)と

大岡越前守忠相のはとこ・大岡忠利の息子、大岡忠光(幼名・兵庫)の物語です。

 

 

直木賞候補に挙がっていたので読んでみました

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第170回 直木賞候補作

第13回「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞

第12回「日本歴史時代作家協会賞作品賞」受賞

 

暗愚と疎まれた将軍の、比類なき深謀遠慮に迫る。口が回らず誰にも言葉が届かない、歩いた後には尿を引きずった跡が残り、その姿から「まいまいつぶろ(カタツムリ)と呼ばれ馬鹿にされた君主。第九代将軍・徳川家重。しかし、幕府の財政状況改善のため宝暦治水工事を命じ、田沼意次を抜擢した男は、本当に暗愚だったのか――? 廃嫡を噂される若君と後ろ盾のない小姓、二人の孤独な戦いが始まった。

 

引用元:幻冬舎HP

徳川将軍、初代・家康から15代・慶喜まで、15人中、知っていたのは

家康、家光、綱吉、吉宗、慶喜の5人のみ。

この度、初めて知った家重という将軍のドラマは読まされました。

 

徳川家重の言葉は、当初誰にも届かなかった

家重は難産故に身体に障害が残り、彼が発した言葉は常人には聞き取れない、という将軍になるには高いハードルがありました。

 

彼の言葉を解するのは、御側御用人の大岡忠光ただ一人だったといいます。

 

家重と忠光という稀有の能力の持ち主との出会いが奇跡を起こしました。

忠光という人物がいたからこそ、九代将軍・家重が将軍として存在できたのです。

 

まるでフィクションのようですが、史実どおり、とは2度オドロキました。

 

自分の言葉を正しく理解してくれる人間は誰一人いない…なんという絶望でしょう。

 

そんな孤独と理解されない苛立ちを抱えて14年の月日が過ぎたある日、

お目見えの席に居合わせた少年・大岡兵庫が家重の言葉を聞き取り、初めて会話が成立しました。

 

意思疎通ができずに真っ暗な世界にいた家重に一筋の光が差し込んだ場面は胸が熱くなりました。

 

常に傍に控え、家重の分身とも言える働きをし、家重のお口に徹した忠光。

その覚悟たるや。

 

周囲の懸念

大岡忠相の親戚にあたる大岡兵庫、のちの大岡忠光は、本当に長福丸の言葉を理解しているのか。

兵庫の語る言葉は、本当に長福丸が発した言葉なのか。

 

周囲の幕閣は、兵庫が、長福丸が言ったことにして、いずれ幕府を意のままに動かすつもりではないのか、と懸念していました。

 

兵庫(忠光)は清廉潔白な人物で、余計な発言は一切せず、

ただ一途に長福丸(家重)の「くち」に徹していました。

 

長く御側を勤めれば務めるほど、信頼に値する人物、と評価はあがり、忠光の言う家重の言葉に疑問を挟む人間もいなくなります。

 

時の将軍・吉宗の長男の側用人、ということで妬みや誹りを受けることがあっても、

心はいつも止水明鏡。

吉宗の迷い

我が長男が言語不明瞭で、意思疎通がはかれないとなると将軍職に就くのは無理ではないか、と思い悩んでいた吉宗。

 

吉宗には見た目も頭脳も良く、家臣の信頼も厚い宗武という、長福丸とは腹違いの次男がいました。

 

廃嫡は禍根を残すためやるべきではないが長福丸に将軍が務まるのか、父親として、将軍として悩みます。

 

いつしか吉宗も兵庫がいてくれたら、家重に将軍が務まるかもしれない、と思い始めます。

 

家重が将軍になる、と吉宗が発表

陣頭指揮を執るべき将軍が発する言葉を誰も聞き取れない、というのは致命的です。

 

言語不明瞭で手が震えて字が書けないため、筆談も、記録もできない、

その分、記憶力は抜群でした。

 

家重は伏見宮増子=比宮(なみのみや)と結婚、生まれた子どもは死産となり、比宮も産後の肥立ちが悪く亡くなってしまいました。

 

比宮の遺言で、家重は比宮のお付きだったお幸との間に子をなしました。

生まれた赤子は、家康、秀忠、家光、家綱らの幼名の竹千代を与えられました。

竹千代(のちの家治)は小さい時からしっかりした子どもで、吉宗みずから可愛がり、家重の後継にできる、と見込みもたち、家重は将軍職になりました。

 

家重は将軍として、経済改革や郡上一揆の平定などもやってのけました。

 

唯一無二の存在、大岡忠光

世の中で、家重の思いをわかってあげられるのは忠光(兵庫)しかいませんでした。

どんな時も、傍に侍り、家重の言葉を聞いて、皆のものに伝える。

 

片時も気が休まるときがないけれど、深い絆で結ばれていく家重と忠光。

 

家重が14歳の時からずっと人生の伴走者を務めた忠光は、家重の半身といってもいいのでは。

 

リアルな会話が脳内ドラマを動かして

  • 大岡忠相(おおおかただすけ)越前守
  • 松平乗邑(まつだいら のりさと)老中
  • 酒井忠音(さかいただおと)老中

 

彼らの会話が興味深く、当時の江戸城内のこともありありと目に浮かび、読んでいて、とても楽しいです。

 

将軍・吉宗、隠密として働く御庭番の万里なども登場。

江戸城の様子も想像しながら楽しく読みました。

 

スピンオフ作品として、『まいまいつぶろ 御庭番耳目抄』も発売されています。

こちらは、御庭番・万里から見た家重の物語。

 

いつか読んでみたいです。

 

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