⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【林真理子】『李王家の縁談』|梨本宮伊都子妃の縁談に対する執念

『李王家の縁談』というタイトルですが…

 

最後の貴婦人・梨本宮伊都子の生き様を読まされた感がありました。

 

あとがきに、小田部雄二著『梨本宮伊都子妃の日記』がなければ書けなかった、と林真理子さんの弁。

「李王家との縁談を積極的に進めたのは梨本宮伊都子妃だったのではないか」というヒントをもらって書かれたようです。

 

「史実」という骨格に、林真理子さんならではのストーリー運びで肉付けされた本書は、見てきたかの如く、当時の貴族、皇族の暮らしを詳細に描かれていて、興味深く、あっという間に読めてしまいました。

 

本の表紙を飾る写真は、本書の登場人物、中央に梨本宮伊都子、右上・梨本宮方子、右手前・李垠、左の婚礼写真の二人は、対馬藩主・宗武志と妻の李徳恵(李垠の腹違いの妹)。

梨本宮伊都子は、肥前藩主・鍋島直大の二女。

明治時代は、維新の立役者、薩長土肥の力が強く、鍋島直大は、明治天皇、大正天皇の信頼も厚かったようです。

直大はアメリカやイギリスに留学し、イタリア特命全権大使でローマに赴任した時に生まれたのが伊都子(太利亜ので生まれた)。

鍋島のお姫様として育った伊都子が皇族・梨本宮守正王と結婚して、「族」としてのプライドは、並々ならぬものがありました。

また、美人のほまれ高く、雑誌のグラビアを飾ることもあり、女性の憧れの存在を自負していました。

 

長女・方子が妙齢になった頃、裕仁殿下(昭和天皇)の結婚相手に、我が子方子か、久邇宮良子女王か、と目されていたところ、殿下は良子女王を選ばれ事を知って、伊都子の奮闘が始まります。

 

殿下が良子女王を選ばれた、と婚約が新聞に出れば、我が子・方子は「選ばれなかった」ことになってしまいます、これでは嫁の貰い手がなくなってしまう…

一刻も早く、先に婚約発表をしなくては、と焦る伊都子。

皇族の結婚は、皇族でないとだめ、という高いハードルがあるなか、朝鮮併合で、子供の頃から日本で学んでいた李王家の李垠殿下に白羽の矢を立てました。

 

嫌がる方子を「お国のため」と丸め込んで強引に婚約に持ち込むところは、ちょっと嫌な気分になりました ^;

 

皇室典範では、日本人としか結婚できない決まりがあるので、方子が李垠殿下と結婚できるよう増補させて押し切ったのです。

 

李垠殿下の腹違いの妹・李徳恵も朝鮮から留学にやってきました。

徳恵の縁談も、まとめてやる、と思うと俄然元気になる伊都子。

 

徳恵は生まれつき精神疾患を持っていたのを隠して、東京帝大卒の華族で俳優並にかっこいい宗武志(そうたけゆき)との縁談をまとめました。

武志は後々、妻の病気で大変苦労され、挙げ句、李王家から離縁を求められました…

 

「お国のため」という大義名分を掲げていますが、結局、我が子・方子の国際結婚を正当化したいだけのようにも見えました。

 

自分が縁談をまとめようと思っている相手が、勝手に結婚すると怒ったり、

平民のくせに、直宮の秩父宮殿下と結婚が決まった松平勢津子にイラッとしたり、

方子の妹・規子の婚約を破棄されて落胆したり…

プライドが高いので、大変そうです。

 

梨本宮伊都子は、防空壕の中にまで日記帳を持ち込むほど、日記を大切にしていて、膨大な日記が残されています。

 

77年間の日記をまとめられたのが『梨本宮伊都子妃の日記』なのでしょう、これを読むと当時の皇族の暮らしぶりが伺えるのかもしれません。

機会があれば読んでみたいと思います。

 

梨本宮伊都子妃は、関東大震災や、東京空襲なども体験し、第二次世界大戦後は、莫大な税金を支払うため屋敷を売払い宝石類や身の回りのものをを切り売りしながら平民として生きました。

 

皇族としてのプライドが高かっただけに相当な屈辱であったと思います。

梨本宮伊都子妃の波乱万丈の人生が描かれていました。

 

タイトルの『李王家の縁談』と言うより、縁談で一喜一憂する伊都子の感情の動きを読むのが面白かったです。

 

伊都子に命を吹き込んだのは林真理子さんで、実際はもっと優しい方だったのかもしれませんが、私は好きになれない女性、というか、所どころ、伊都子にイラッとしながら読んでました ^^;

 

方子の嫁いだ李垠邸は、赤坂プリンスホテルのところにあって、チューダー様式の立派な建物で、ヨーロッパから取り寄せたシャンデリアが煌めいていたそうです。

 

伊都子が実家の母に会いに行った…という文章で、自分の実家のイメージで脳内再生してました。

読後にパソコンでぐぐったら公園のような大きなお庭の奥に、宮殿のような建物が…これが皇族の実家か…とスケールの大きさに度肝抜かれ…失礼いたしましたw