happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

本屋大賞2020 凪良ゆう著「流浪の月」読了

朝日新聞の「売れてる本」でも紹介されていました

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凪良ゆうさんは、BL(ボーイズラブ)作家さんで、一般文芸では、この本が初めての単行本だそうです。

文壇ではあまり名前が知られていない凪良ゆうさんが受賞に至ったのは、書店員さんの、多くの人に読んでもらいたい、という熱意の賜物。それほどまでに、人の心を動かす力がこの本にはあります・・・

現代の様々な問題が織り込まれていますが、読後感は爽やかです。

 

以下、ネタバレあります、ご注意ください。

 

外から見ただけではわからない真実

 家内更紗(かないさらさ)は、優しい父親と、自由奔放な母親のいる温かい家庭で幸せに暮らしていました。

9歳の時、父が亡くなり、母は更紗を残して新しい男性のもとへ行ってしまいました。

母方の伯母の家へ引きとられたのですが・・・伯母は更紗に辛くあたり、従兄弟は夜、更紗の部屋に体を触りに来たり、お風呂場を覗いたりするのが苦痛でした。伯母さんは更紗の味方ではありませんでした。

 

家に帰りたくない更紗は、公園でいつも静かに本を読んでいる男の人に誘われ付いていきます。

それは、自らの意思であったにも関わらず、保護された時には 誘拐事件の被害者として扱われました。

「帰りたくない!」泣き叫ぶ更紗を世間は 「可哀想な被害者」と位置づけましたが 本当はもっともっと彼と一緒に居たかったのです。

 

家に帰ることが幸せな子と そうでない子がいます。

この本を読んで、児童相談所から家庭に送り返されて 親の虐待で亡くなった子どもたちの事を思い出して少し胸が苦しくなりました。

 

子供(人間)の幸せとはなにか、それは 本人が決めることですよね。

 

しあわせは いつも自分のこころがきめる (相田みつを)です。

 

でも、世間は、世の中の常識で測ってしまうのです、それはちょっと危険なことだな、と改めて気付かされました。

 

成就できなかったことは、後悔となってずっと後々まで尾を引くものです、更紗はずっと 2週間一緒にすごした 佐伯文にもう一度会いたい、と願っていました。

更紗の同棲相手はDV

更紗の過酷すぎる運命。

伯母さんの息子=従兄弟が夜中にやってきたときに、とうとう酒瓶を従兄弟の頭に振り下ろしてしまいました。その一件で、養護施設に行くことになり、そこで無事成人することができた更紗。

 

同棲相手は、更紗の事件の事を知っていて、よき理解者風ですが、生活のなかのちょっとしたことが 亭主関白というか自己中というか。そして男尊女卑。

 

更紗がバイト先の仲間と、とあるカフェに入った時に、思いもかけずずっと会いたかった文らしきマスターに出会います。

夜営業している文のカフェ「calico」に足繁く通ううちに 同棲相手の亮が文に気づき嫉妬の炎を燃やし始めます。

結婚したいから、と亮の実家で親戚の人達の前で紹介された更紗は戸惑いを隠せませんでした。

 

レストランのトイレで亮の親戚の女の子から 実は亮はDVの気質があることをほのめかされます。

そしてある日、とうとう・・・

 

心の落ち着く場所

亮の元から逃げ出した時、やはり文のそばで暮らしたい、という思いが捨てきれず、たまたま空いていた文の部屋の隣に引っ越した更紗。

どちらもわかっているのに見て見ぬ振りの時間が、もどかしい!!

 

互いが求め合っていた事を知って 家族のように心安らぐことができたのでした。

 

文は、第二次性徴がほとんどない、という病気でしたから普通の男性のように女性を愛することができないのです。

まだ女の子なら・・・ですが 世間のロリコンの犯罪のように、手をかけたりはしません。

むしろ 優しい兄のようにお世話をしたり ものを買い与えたりしてくれたのでした。

だから 更紗9歳、文19歳の2週間の同居で一度も嫌な思いをしなかったどころか 大切にしてくれた文を、信頼し、ずっと一緒に暮らしたいとさえ思っていたのに・・・

 

でも15年の年を経て 壁一枚を隔てて 文との交流が始まったのを読んで よかったね、と更紗に祝福をしました。

 

それなのに、世間は、15年前のあの事件の女の子は、ストックホルム症候群(誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象。コトバンクより引用)だと言うのです。

何も知らないくせに。

焼印は消えない

階段で亮の腕を振りほどいた時に 亮が階段を転げ落ちました、そして 更紗に突き落とされたことにした為、更紗は警察の取調室にいくはめに。

同僚の娘の梨花ちゃんを預かって、佐伯文と留守番をしていると 佐伯文まで取り調べられることになり・・・15年前に少女誘拐をした男のレッテルは未だに貼り付いていて 幼い女の子と一緒にいたら何をしでかすかわからない、という半ば犯罪者扱いをされてしまいます。

 

本当の文は、自らの未発達に悩んでいるほどなのに。

 

そして、ずっと文に「なにかされたかもしれない可哀想な女の子」だった更紗は、初めて警察で証言するのです、

 

「私にわいせつ行為をしたのは 文ではなく、私が預けられていた伯母の家の息子です。」

 

「文は、あの家から私を救い出してくれた、たったひとりの人でした。」

誹謗中傷で居場所を失って

更紗のDV同棲男は、週刊誌の取材を受けていろいろと話したため、記事を読んだ人たちから文のカフェ「calico」の飲食店レビューサイトにまで誹謗中傷の書き込みがあふれ、マンションを特定されて 張り紙を貼られるなどの嫌がらせを受けました。

彼が本当に悪だったかどうかは、彼と彼女にしかわからない」そんな冷静な書き込みは・・文の事を好きだった彼女の書き込みかも?

 

文はいわゆる小児性愛者ではありません。性的に未発達な部分はあるけれど思慮も分別もある大人です。

思春期からずっと自分の体の事、心のことで悩んだけれど 誰にも相談できずひとりで抱えてきた文。

ずっと苦しい思いをしてきたという 文の告白を聞いて 泣きながら文の手を握りしめた更紗は、ずっと一緒にいたい、と思ったのでした。

 

その思いは 9歳のあの日から変わっていないようです。

 

文に恋をしているわけでもない、キスをしたり抱き合ったりすることも望まない、ただ一緒にいたい。

 

そんな純粋な思いさえ、何も知らない世間の人たちが色眼鏡で見て決めつけてくる心地悪さ。

恋人、結婚相手、友達 などというよくある関係とは違う 更紗と文だけの名前の付けられない関係が温かくページを覆っています。

 

本の表紙にはアイスクリームの写真

これは、「自由の象徴」なんです。

更紗の家では 自由を愛するお母さんが、好きな物を食べればいい、というので晩ごはんがアイスクリームだったことがあるのです。

優等生に育てられた文には 晩ごはんにアイスクリームなんてありえなかったからとてもオドロキました。

19歳の大学生の文は、小学生の更紗と暮らして、目からウロコの日々でした。

あれダメ、これダメって言われていたことを破る楽しさを 9歳の女の子に教わりました。

 

夕飯はアイスクリームでもいい、ダラダラしながらポテトチップスを食べてもいい、今まで母親に禁止されていたことを破って 自由だ!という象徴がアイスクリームだったんです。

 

現代の縮図のような物語

ジェンダー。

小児性愛者が起こす誘拐事件。

家庭内性被害。(朝日新聞家庭欄で連載されてました)

DV ドメスティックバイオレンス。

ネグレクト。(梨花ちゃんのママ)

ネットの誹謗中傷。

ネット警察の本人特定。

 

読んでいて苦しい場面もありますが 読後感爽やか、さすが本屋大賞の実力です!

 

凪良ゆうさんの著作をググったら・・・

「天才」「秀逸」「優しい」などのワードが目に入りました。

図書館で調べて「美しい彼」というとても評価の高い著作を予約しました。

どんな作品でしょうか、読むのが楽しみです!

 

 

文がマスターをしていたカフェ「calico」キャラコは、更紗の意味なんですね。

なんて素敵なエピソード❤