happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【直木賞】泰平の世を夢見て…死力を尽くす楯と矛の民の攻防|「塞王の楯」を読んで

第166回直木賞受賞作、今村翔吾著「塞王の楯」読了しました。

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552ページ、読み始めるのに勇気のいる本でした^^;

以前、今村翔吾さんの直木賞候補作の「じんかん」を読もうと思って図書館で借りていたのに、忙しくて結局読むのを諦めて返却。514ページでした。

 

これから読もうと思っている第165回 直木賞受賞作品「テスカトリポカ」は、560ページ、しかも究極の「クライムノベル(犯罪小説)」、読みきれるでしょうか??

 

長編続くとしんどいわ…orz

 

⚠ネタバレありますご注意ください

戦乱の世の主役は武士ですが、築城で活躍した石工は名脇役

時は天下分け目の闘い、関ケ原の戦いの前哨戦、伏見城の戦い、大津城の戦いが描かれています。

名将や軍師にスポットを当てるのではなく、越前(福井)の一乗谷の戦いで生き残った名もなき少年の成長と奮闘。

 

一乗谷の戦いで孤児になった匡介は、石垣積みを生業とする穴太衆から神とも崇められている飛田屋の頭「塞王」こと飛田源斎に拾われます。

源斎は、匡介に、石積みの才能を見出し、妻子もいなかったため、跡取りにと育て、他の穴太衆からも認められる石工になります。

 

堺とともに鉄砲づくりが盛んだった滋賀県長浜の国友衆に、国友三落という名工がおり「砲仙」と呼ばれ源斎のライバルとみなされていました。

(穴太衆は、比叡山のふもと、坂本のあたりの民)

そこに、匡介と同じ年頃、境遇の彦九郎(げんくろう)がいて。

 

いつしか、彦九郎が矛、匡介が楯となり、最高の技術で相手を打ち負かそうと互いに意識するようになります。

 

石垣を積む穴太衆(あのうしゅう)と鉄砲職人集団・国友衆の攻防

大津城の戦いの終戦日が関ケ原の戦いの火蓋が切られた日なんですね。

ざっくりとした歴史の流れしか知らなかったから、勉強になります^^

 

そして読みどころは、大津城の戦いの息をも吐かせぬ両者の攻防。

今村翔吾さん、読ませます!!

 

砲弾が飛ぶ中でも、石積みを止めない穴太衆。

「諦める」という言葉は無い、ただ、上からやれ、と言われたらやめろと言われるまで最善の方法で積んでいきます。

 

穴太衆には「石の声を聞け」という言葉が伝わっているそうです。

石垣造りは、城の守りにも関わるため、口伝なのですが。

匡介のように卓越した人間は、石が使ってくれ、と囁きかけてくるように感じるのです。

その声に耳を傾け、積むと、ピタリとはまって堅牢な石垣になるのです。

そうなるまで、匡介は栗石を10年積んできたのです

 

匡介のライバル彦九郎は、少しでも石垣を破れる大砲を作ろうと試行錯誤していました。

彼の悩みは殺人兵器を作っている、という後ろめたさ。

いつか、この大砲に恐れを抱き、戦意喪失して太平の世が来ることを望んでいます。

 

匡介も彦九郎も泰平の世を望んでいるのに…

賽の河原の石積みに似て

大津城の戦いでは、賽の河原で、石を積んでいる亡くなった子供とそれを潰しにくる鬼を思わせる匡介と彦九郎。

彦九郎が壊した石垣を積み直せば、また新たに石垣を壊される、そんな命をかけたいたちごっこは、圧倒的に石工が不利です。

多くの死人、けが人が出てよもやこれまで、という時に城主・京極高次が開城を宣言します。

京極高次のひととなりが、素敵に描かれて

どこか滑稽で、優しくて、民が生き延びることを考えて行動している人物。

これぞまさしく、本当の領主の姿ではないですか?

皆が助かる道を選び、武勲を狙わず、恥も忍ばず自ら下る。

奥方であるお初の方(浅井長政の次女)も、いきいきと描かれていて、愛されキャラなお二人です。

皆が一致団結するのも、この人のためならば、と思わせるお殿様だからなんですね。

大名から民まで心ひとつになった大津城。それこそが塞王の楯ーーーの正体ではないか

塞王の楯 P532 より

 

大津城が遺っていてほしかった…

大津城は水城で、三重の堀に囲まれ、天守は琵琶湖に面していました。

一番外側の堀は空堀で水が入っていなかったところを、湖から水を引いてより堅牢な守りにするのですが…湖より高い位置にある空堀にどうやって水を引くのか…

ここも読ませどころでした。

 

お城は、天守を守るために様々な工夫がされており、どのように縄張り(テリトリーという意味ではなく場所を決める縄を張る)をするかは重要機密事項で、塞王はその任務も任されていたほど。

 

敵に攻められた時に馬が使えないように、と一夜のうちに「障子堀」(ワッフル状の堀)を作ったり…と匡介の奮闘は枚挙に暇がなく、分厚い本でしたが、興味深く読みました。

 

爽やかな読後感

大津城でお初の方の侍女であった夏帆とは、空堀に水を入れる工事の頃から意識しあっていた仲。

 

大津城が開かれ、ひとりの穴太衆の石工として平和な日が戻った匡介のもとへ、花嫁行列が近づいてきます。

 

夏帆でありました…

 

石積み、鉄砲の知識がてんこ盛り

この作品が、ただの石工と鉄砲職人の戦いだけではなく、そのストーリーに厚みをもたせているのが、石積みの知識です。

お城の石垣について深く考えたこともなかったのですが、忍者返し、と呼ばれる積み方があったり、

石の積み方にも野面積(のづらづみ)、打込接(うちこみはぎ)、切込接(きりこみはぎ)などがあり、野面積みが地震などの一番強く、切込み接ぎは、見た目が美しいなど特徴があるようです。

 

匡介の積み方は野面積み。石の選び方がポイントで熟練した目が必要なようです。

 

大阪城の切込み接ぎ(2022.4.4撮影)

姫路城の野面積み(2015.11.12撮影)

 

雨の日には使いにくい火縄銃に代わる、西洋の銃を分解して火を使わずに点火する銃を開発する彦九郎の試行錯誤も読まされました。

 

オススメです!!