宝塚歌劇 星組で11月12日に幕が上がる『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』の原作本 並木陽著『斜陽の国のルスダン』を読みました。
本作は、2017年にNHKのオーディオドラマで放送されていましたが、オーディオドラマを聴く機会もなく、全く知りませんでした。
本は、出版社からの上梓ではなく、同人誌なので、一般にはあまり出回ってないですね。
公演にさきがけて、11月1日に、星海社から出版されます。
帯にポスター画像がはいるのでしょうね^^
135ページ、字も大きいのですぐに読めます、1日あれば充分。
すでに、配役が出た後だったので、役者と重ねながら読みました
王配とは言え、人質のディミトリ
キリスト教国、ジョージアの全盛期に君臨したタマラ女王とは裏腹にその娘・ルスダンの評価は低いです。
史実では、「愚王」とも呼ばれ、無能で淫蕩な女王として伝わっていることに驚いた著者の並木陽さんは、ルスダンに温かい眼差しを向け、ルスダン応援団的な気持ちで著されたのがこの本です。
ルスダンはの不倫が原因で激しい夫婦喧嘩を繰り広げていたと伝えられていますが、そんな場面はひとつもなく、ただ一途にルスダンを思うディミトリが描かれています。
人質として送られてきたディミトリはイスラム教国 ルーム・セルジュークの帝王(スルタン)を祖父に、その子息、エルズルム公を父に持つ青年。
年の近いルスダンの遊び相手として連れられてきたけれど、ジョージア国の中では肩身の狭い思いをしていました。
ルスダンの母・タマラ女王亡き後、兄・ギオルギがジョージアを治めていたところ、モンゴルが襲来、戦いの際に負傷した傷が原因で兄も死亡。
何の経験もないルスダンが国を治めることに。
兄の遺言どおり、ルスダンとディミトリは結婚します。
王配となったディミトリが政治に口出しをするのを恐れた議会はディミトリに一切の権限を与えず、ディミトリは、政治に不案内なルスダンの相談相手にしかなれませんでした。
ディミトリは、健康な一人の若者なのに、ただルスダンの横で相談相手になって見守るだけ、というのは本当に辛いだろうと思います。
国の重鎮たちは、一様に、冷ややかな目を向けてきて、四面楚歌のような状態。
本来ならば、馬を駆って、戦場を駆け巡り戦果を上げたいと思うところでしょうけど。
モンゴルと戦った初めてのキリスト教国がジョージアと歴史に残っています。
ルスダンは、モンゴルの驚異をローマ教皇に訴え出るにあたり、宰相・イヴァネ・ザカリアンを連名にして、彼のメンツを立てました。
一難去ってまた一難
モンゴルが去ったと思えば、今度はモンゴルに滅ぼされてインドに逃げていたホラズム・シャー朝の帝王(スルタン) ジャラルッディーン・マングベルディが領土を奪いにジョージアに攻め込んで来ました。
彼らは、領土は失ったものの、スルタンや部下など軍勢が残っていたので、領土さえあれば、再興できると土地を狙っていたのです。
そして…あろうことか、既婚者で子供もいるルスダンに求婚してきました!
美貌の女王と領土が一挙に手に入る近道。
ルスダン激怒!
けれど ディミトリは、ルスダンに、モンゴルを敵として戦い、数多の勝利をおさめてきたジャラルッディーンと組んだ方がいいのではないか…と進言します^^;
ガルニの戦いでジョージア敗戦
イヴァネ・ザカリアン率いるジョージア軍 8万騎と、ジャラルッディーン率いるホラズム軍14万騎が、ガルニ平原で相まみえました。
結果は、ジョージア軍惨敗。
今までジョージア傘下にあったイスラム教諸国が離反していき、ディミトリの父・エルズルム公からも、ジョージアとの同盟関係解消と、ディミトリを帰国させるよう要請が届きました。
ディミトリはルスダンをおいて帰国などできるか、「私の居場所はここだ」と。
く〜〜、泣けるセリフ、ルスダンは嬉しかったことでしょう^^
ディミトリの裏切り?
イスラム教国出身のディミトリに、スパイの疑惑がかけられていました。
祖国ホラズムと内通して、ジョージアの情報をながしているのではないかと。
ディミトリが庭園を散歩中に祖国の公用語のペルシャ語で話しかける者が…どうやら庭師がしゃべっているよう…
彼は祖国のスパイで、帰国を説得に来たのでした。
その後もディミトリは、密偵を介して祖国エルズルムや、ジャラルッディーンと連絡をとっていました。
「万が一の場合にはルスダンと離婚してもかまわない」
…!! 物陰で聞いていたルスダンは驚き、絶望します。
たった一人の自分の味方だと思っていた夫に裏切られた怒り、虚無感、絶望。。。
ルスダンの胸中を思うと胸がキリキリ痛みます。
意趣返し? ルスダンの裏切り
幼い王女・タマラを助けてくれた白人奴隷・ミヘイルを、ルスダンはお気に入りにしていました。
夫に裏切られて泣きじゃくるルスダンに、私が慰められないでしょうか、と奴隷・ミヘイルが声をかけ…ルスダンは、彼をベッドに誘いました…
というのはドラマティックな展開ですが、奴隷からこういう提案をすること自体畏れ多く、殺される可能性もあるのでちょっと疑問、というかひっかかる箇所です。
ルスダンとミヘイルが抱き合っているところへ戻ってきたディミトリは、問答無用で、ミヘイルに剣を突き立てました…!
裏切り者の夫(王配)を捕らえよ、とルスダン自らが命じ、ディミトリは囚われの身に。
あの一見裏切りに見えたディミトリの行為は本当は、ジョージアのためを思ってしたことだったのに…
斜陽の国
ディミトリは、クルタヴというところの城に幽閉されていました。
将軍・ムルマンが角杯、短刀、弓の弦を持って訪ねてきます。
どれかを選べと言います、すなわち、どの方法で死にたいか、と。
ルスダンのためにも、ここで死ぬわけにはいかないディミトリはムルマンの顔に角杯を投げつけ、短刀を掴んで逃げ出しました…
後ろから追ってくる男に背中を切りつけられた時、ジャラルッディーンが現れて♪
助けられました。
ディミトリはジャラルッディーンの元に身を寄せたのは、ホラズムの内部事情を掌握して、ジョージアに情報を送るのが目的でした。
ジャラルッディーンは、ジョージアの首都・トビリシに侵攻して、トビリシ市民にイスラム教への改宗を求め、踏み絵をさせました。
聖画を踏んだものは助命され、踏めなかった者は即斬り捨てる、冷酷無慈悲なホラズム軍。
ジャラルッディーン率いるホラズム軍とジョージア軍が対峙した時、ジャラルッディーンが言います。
「遠路はるばる来たので、1日停戦にし 余興に力比べを行おう」と。
腕自慢の若者が進み出た瞬間、ジャラルッディーンは槍で一突きにし、さっと手を挙げると、「全軍、突撃!」と。
戦場において、相手に油断させられたもの負けですから。
それにしても、巧妙というか、ずる賢くて卑怯なやり方。
だからこそ、の連勝なのでしょう。
求婚の使者
ジャラルッディーンから求婚の使者が参った、と、なんと使者とはディミトリではないですか!
ディミトリは、ただただ、ルスダンの命とその子どもたちの命を守りたいがために、ジャラルッディーンとの結婚を勧めます。
ルスダンは、自分がかつてのジョージア国の国力を失墜させてしまったことを悲しみ、せめて、名前だけでもジョージア国を残したい。
そのためには、ホラズムに呑み込まれてはいけないのだ、と説明します。
ディミトリの最期
ディミトリからルスダンの元へ、伝書鳩がホラズム軍の詳細情報を持ってきました。
この情報のとおりに動けば、首都トリビシを奪還できるが、ディミトリの命が危ない。
逡巡の末、ディミトリの意図を汲んで、軍を出すことを決意したルスダン。
ジャラルッディーンの留守の日を狙って進軍したため、ルスダンは、トリビシを取り戻すことに成功しました。
ジャラルッディーンの寵臣となっていたディミトリは、ジャラルッディーン、彼の書記官のナサウィーとともに食事をとっていました。
ジョージア軍のトビリシ奪還は、内通者がいないとできなかった、と使者はいいます。
ディミトリが伝書鳩を飛ばしているのを見た者もいる、と。
帝王の疑いは正しい(=私がやりましたの意)とディミトリが言うと、「反逆者だ!」と兵へ合図をおくるジャラルッディーン。
その時、すでに、ディミトリの体に毒が回り…息絶えたのでした。
ディミトリは、自分の飲み物に毒草の毒を仕込んでいたのです…
ジャラルッディーンは、ジョージアとホラズム、二重の裏切りを働いたディミトリだが、「ジョージアの王配」として生きたことを 確かに私が見届けた、と
ディミトリの人生を認めてくれたのでした。
ディミトリは、幼い頃に、ルーム・セルジュークから人質同然でジョージアに来て、ルスダンの遊び相手として、大人になったけれど、その人生の後半で、ルスダンとジョージアのために、熱く激しく生きたのですね。
政治の表舞台に出ることなく、ジョージアとその王女のために尽くしたディミトリ。
命をかけてルスダンを守った、その一途な愛がぐっと胸に迫りました。