⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

須賀しのぶ著「革命前夜」は、ベルリンの壁崩壊前の東ドイツを留学生の視点で描いた作品

昨年12月22日、新聞広告で、この作品を知りました。

 

この国の人間関係は二つしかない。
密告しないか、するか──。

第18回大藪春彦賞受賞作!
革命と音楽が紡ぎだす歴史エンターテイメント

文春文庫HPより

 

この前読んでいた原田マハ著「風神雷神」では、アートに懸ける俵屋宗達の壮大なる旅をともに楽しみました。

今回は、音楽と革命。

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 バブル期の日本を離れ、東ドイツに音楽留学したピアニストの眞山。個性溢れる才能たちの中、自分の音を求めてあがく眞山は、ある時、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は美貌のオルガン奏者。彼女は国家保安省の監視対象だった…。冷戦下のドイツを舞台に青年音楽家の成長を描く歴史エンターテイメント。大藪春彦賞受賞作!

BOOKデータベースより

 

読み終っても、後から何度も1989年の東ベルリン(DDR)での 眞山の過ごした10ヶ月を思い出してしまいます。

 

内容が濃いからロス気味です。

知らない事がありすぎて、前半遅々として進まず

東西ドイツを隔てる、ベルリンの壁の崩壊、という、歴史的な瞬間を迎えるその時、主人公眞山柊史は、現地で歴史のうねりを体感します。

直前の10ヶ月、まさに「革命前夜」を描いた作品です。

 

日本が昭和から平成に変わった、その日に、眞山柊史は、東ドイツ(DDR)に向かっていました。

このお話は、1989年1月8日から、ベルリンの壁が崩した11月10日までの10ヶ月のお話です。

 

日本がバブルで沸いている時代に、東ドイツのドレスデン音楽大学に留学した眞山。

父が若い頃に在日ドイツ人ハインツ氏と懇意にしていたことも影響しているようです。

 

社会主義国のル-ルと、インフラ整備の遅れにいきなり先制パンチを食らいます。

アパートには電話もなく、テレビも見られない…食料も満足に手に入らず缶詰にありつけたら御の字。

 

生活は豊かではないけれど、個性的な留学生仲間との出会いに刺激を受ける様子が活写されています。

 

中でも強烈な個性と才能を発揮するハンガリー出身のユダヤ人 ラカトシュ・ヴェンツェルが激しくぶつかってきます。

 

日本人は、調和や迎合を好むので、意見を闘わせたり、自分の意見を主張したりが苦手なように思います。

眞山も、ヴェンツェルを苦手としていましたが、ヴァイオリンの伴奏を頼まれて 一緒に演奏してみると、眞山のいいところを引き出し、最高のパフォーマンスになるのでした。

彼は天才。

「頑張ってきた」と自負していた眞山は、ヴェンツェルの才能の前に、ひれ伏す思いです。

 

私の知らないたくさんのバッハやメンデルスゾーンの曲名が出てきます。

 

ドレスデンとライプツィヒ、ハンガリーやオーストリアの位置関係も漠然としていて…

「手に取るように」わかる、というわけにもいかず(←勉強不足)

文字を追うのに必死な感じで読みました。

重苦しく 暗い、社会主義国の描写

この作品の中に流れている空気は

「この国の人間関係は二つしかない。密告しないか、するか──。」

 

相互監視の社会。

眞山の父が懇意にしていたハインツ・ダイメル一家も、奥さんが、浮気で浮気相手と西に逃げようとしているのを 夫であるハインツさんがシュタージに密告します。

家族といえど密告するし、友人と思っていても密告される。

魔女狩りみたいな社会。

シュタージとは、国家保安省。秘密警察・​諜報機関を統括する省庁で、その下部組織にIMというシュタージを助ける市民もいますから、言動には注意が必要で心休まりませんね。

 

自由がある日本に生まれ育った事に感謝だわ。

 

当然、理不尽なことで拘束される、敵味方のわからない社会、自由の無い社会を嫌って多くの人が西に逃れ、その勢いがベルリンの壁を壊したのだと思いました。

 

眞山が好意を寄せた女性は… スパイ 後半からはスイスイ読めました

眞山が教会で一目惚れしたのは、オルガン奏者のクリスタ。

「この国の人間関係は二つしかない。密告しないか、するか──。」と言ったのもクリスタです。

 

教会で開かれたヴェンツェルのヴァイオリンのコンサートで眞山が見たのは、彼の伴奏を務めるクリスタの姿。

その会場でヴェンツェルは、彼女と結婚することを聴衆の前で宣言しました。

ゲイのはずのヴェンツェルがなぜ?

ハンガリー出身の彼は、クリスタと結婚することにして、素晴らしい才能を持つクリスタをDDRから開放してあげようとしたんですね~♪

 

クリスタの部屋で、彼女が、シュタージの手先になってスパイをしていたことを告白されました…

後半の急展開…ヴェンツェルが襲われて

反政府デモが激化する中、ヴェンツェルが教会で聴衆に、自由を求めることを焚きつけたことも、シュタージにマークされていたから?と思いきや

 

彼を襲ったのは…

 

ネタバレOK?

 

 

 

彼の事を愛していた ベトナムからの留学生、ニェットがナイフで刺したのです。

ただ、傷は浅く、立ち上がりかけていたヴェンツェルに深い傷を追わせたのは…

ヴァイオリン科の逸材、イェンツ・シュトライヒ。

彼は、ヴェンツェルに瀕死の重症を負わせ、もうヴァイオリンを弾けない手にしてしまったのです…ヴェンツェルは、ふるさとハンガリーで養生することに。

 

 

 

眞山は、ヴァイオリンの伴奏でイェンツと交流もあったのに、彼もまたシュタージの手先・IMだった…

 

時代が風雲急を告げる中で、8月19日、ハンガリー ショプロン(3方をオーストリアに囲まれた街)で「汎ヨーロッパピクニック」開催。

 

当初「ピクニック」のはずだったのが、東ドイツ国民が、鉄条網を抜けてオーストリアへとなだれ込んでいったのです。

 

「汎ヨーロッパピクニック」を当て込んでクリスタは、ショプロンを目指します、DDRに居たら、才能が埋もれてしまう…

 

西ベルリン・プレトリウス教会で、クリスタは、眞山と出会ったときと同じバッハの「神の時こそ いと良き時」を弾いていました。

眞山は、コンサートの後、彼女と歩いていた時に、昔クリスタと付き合っていた男に銃撃されます。

「自由は代償を要求する、罪には罰が下る」

なぜ、西に逃げたクリスタの場所が元恋人にわかったのか。

眞山もまた、監視下に置かれて すべてを見られていたのです。

眞山が彼女と一緒にいると クリスタの居場所を教えているのと同じこと。

 

この、息詰まる展開、手に汗握るストーリーに「読まされた」という感じでぐいぐい物語に引き込まれました。

 

10月7日ゼンパーオーパー劇場 ベートベン作曲 オペラ「フィデリオ」。

自由を勝ち取る「解放のオペラ」だそうです。

眞山は、イェンツの元妻からチケットをもらい見に行きました。

劇場の外では、自由を求める人達があふれている時に、劇場の中で「解放のオペラ」が上演されている皮肉。

 

ネットでググった「ゼンパーオーパー劇場」の前には大きな広場が…ここに自由を求めるDDRの人たちがあふれていたのか…

 

ヴェンツェルは、誰が自分を刺したかわかっているけれど 沈黙を貫くことが最大の罪

正確無比と呼ばれる演奏をできるウェンツは、罪を償うため、音楽を捨てました。

ラストで心震える!

眞山がアパートに帰ると、お向かいのちょっとおせっかいで親切なおばさん・ファイネンさんが 渡すものがある、と待ち構えていました。

 

大きな封筒に入っているのは…楽譜。

 

ピアノ オルガン デュオ(二重奏の楽譜)でした。

   「革命前夜

我が親愛なる戦友たちへ捧ぐ ラカトシュ・ヴェンツェル

 

(TOT) ダー
 
ラカトシュは、ヴァイオリンを諦めて、指揮者の道に進む、と言っていたけれど…
 
その封筒が届いたのが、まさに革命前夜でした。

 

音楽表現を文字にするのは難しいけれど

「蜜蜂と遠雷」に通ずる巧みな音楽の描写でした。

 

ピアノの楽曲に詳しい方は、うんうん、と楽しめると思います。

 

今、読んでいるのは、綾崎隼著「盤上にもう君はいない」。

サクサク読めて楽しいです♪