⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【綾崎隼】「盤上に君はもういない」将棋界とは、かくも厳しいものなのか!

もう一度、あなたと指したい。その望みが、私のすべてだった――。


負けたくない敵がいる。誰よりも理解してくれる敵がいる。
だから、二人は強くなれる。

将棋界初の女性プロ棋士を目指す二人の天才を描く、今年最泣の青春純愛小説!

 

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これは、読みたい!!

 

第1部~第5部 それぞれの視点で語られる物語

第1部 佐竹亜弓の失望と想望の雄途

第2部 千桜智嗣の敬愛と憂戚の青春

ーニースの地で 前編ー

第3部 諏訪飛鳥の情熱と恩讐の死闘

ーニースの地で 後編ー

第4部 竹森稜太の強靭で潔癖な世路

第5部 ただ君を知るための遊戯

 

…となっています。

佐竹亜弓は、千載一遇のインタビューのチャンスを、飼い猫の病気で反故にしたことで新聞社を解雇されました。

気晴らしの飲み会の席で、大学時代の友人・凛から

「男社会に切り込む女性棋士の誕生を記事や本にするなら、やっぱり女の記者の方が良いでしょ。面白そうな取材対象じゃないかな」

 「盤上に君はもういない」本文より

 と、将棋の世界を取材することを勧められます。そこで彼女から教えられたのが

諏訪飛鳥、14歳。

 

諏訪永世飛王の孫娘、飛車の「飛」を名前に戴いた少女。

子供の頃から、祖父、両親の弟子たちと対局し、揉まれ、実力をつけてきた稀代の天才少女。

彼女が主人公なのか?と思いながら読み始めました。

 

 

ネタバレあります 

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本当のところは、天才少女がライバル視する、日本で初めて竜皇にまで上り詰めた女性・千桜夕妃(ちざくらゆき)の人生をかけた将棋との闘いのお話です。

 

もう一度、あなたと指したい、の「あなた」とは誰?

 

飛鳥が あなた=千桜夕妃と もう一度指したい、と言っているのか、と思っていました。

 

 

 

 

⚠この本に出てくるタイトル名の 飛王や竜皇というのは架空のタイトルです。

 

 

千桜夕妃の弟、千桜智嗣(第2部の語り手)、彼女のライバルの諏訪飛鳥、夕妃と同様にパソコンと対戦して力を付けてきた竹森稜太らの視点で千桜夕妃が語られ、千桜夕妃という人物の輪郭が立ち上がってきます。

 

そしてラスト、第5部「ただ君を知るための遊戯」こそ、語られなかった千桜夕妃の空白の3年が彼女の口から 記者・佐竹亜弓に語られるのでした。

 

面白くて、謎もあって、一気に読んでしまいました。

 

将棋界そのものが、深くて興味深い

 実際の将棋界のタイトルは、

名人、龍王、王将、棋聖、王座、王位、棋王、叡王の8タイトルです。

この本に出てくるのは、少しもじった龍王、ならぬ 竜皇、棋王ならぬ、飛王…です、フィクションですからね。

 

以前、「盤上の向日葵」を読みましたが、その時に、奨励会や26歳の年齢制限の事を知りました。

 

将棋を指し続ける事自体、如何に大変なことか、勝負以前に、人生を将棋に捧げる覚悟を求められるような印象も受けました。

精神的にも経済的にも大変な世界なうえに、女性には、超男社会の世界で実力で勝ち抜いていくには並大抵の精神力ではだめなのだ、と思い知らされました。

対局が深夜にまで及び、日をまたぐこともあるので体力も要求されます。

女性なら生理もあります、そうそうトイレに中座もできないでしょう。

男女平等といくら叫んでも 埋められない部分は少なからずありますね。

 

完全な男社会なので、男性棋士には、対局中の昼食は何がいいか聞いて用意してくれるのに、女性にはそういう配慮は一切ないのだそう(現在は変わっているかもしれませんが)。

ジェンダーが取り沙汰される世の中ですから 少しは進歩しているのかしら?

 

女性だけの棋戦もあり、女流棋士のリーグのタイトルは、女王・女流名人・女流王位・倉敷藤花・清麗…女性らしいきれいなタイトルです。

女性は、女流戦と普通のプロ棋士の両方を戦うことになり大変なので、千桜夕妃は、女流の方には参加せず、普通の棋士の戦い一本に定めていたのです。

 張り詰めた空気

実家の大病院を継いで欲しい父の反対を押し切って、中学3年生の時に、東京の将棋の師匠・朝倉恭之介のに弟子入り、内弟子となりました。

 

対局の指し手の説明が全くわからないけれど、実際に将棋を楽しむ方であれば、読んでいたら楽しいだろうと思いました。

 

タイトル奪取のためのルールや、対局中の呼吸まで聞こえてきそうなピリピリと張り詰めた空気が行間から溢れ出ています。

 

病弱の天才棋士・千桜夕妃は、将棋と同じぐらい、相手の考えを読むのが得意でした。

将棋盤を挾んで1メートルほどしか離れていない対戦相手の心を読んで指していきます。

 

病弱ゆえに、体力を消耗しないよう、長考はせず、スッスッと指すので相手は追い詰められていくんですね。

 

かと思うと時間を稼いで相手を油断させて まさかの一手を打ったり、と相手を翻弄する将棋も。

 

生まれながらにして肺が弱く、いつまで生きるかわからないとまで言われ、入退院を繰り返していた小学生時代。

 

そこでフランス人少年のアンリに出会い、将棋を教わったのが 夕妃と将棋の出会いでした。

それからというもの PC相手に将棋を指し実力を付けていきました。

いつか 奨励会で会おうね、と約束して。

 

夕妃の波乱万丈の人生… 第5部が異質でぶっとび感

4段以上がプロ棋士です。

その4段に上がる直前の3段リーグが魔窟と呼ばれる大変な闘いなのだそう。

プロ棋士に王手がかかった 飛鳥と夕妃の対局。

勝ったのは…夕妃でした、

「千年の歴史を持つ将棋界のにおけるひとつの革命だった。」とまで言われた快挙。

それなのに…デビュー戦を欠席して、行方をくらましてしまった夕妃。

 

自分の昇段を妨げておきながら、デビュー戦にも出てこない夕妃に激しい不満と怒りを抱く飛鳥。

「盤上に君はもういない」というタイトルから、飛鳥のライバル君=千桜夕妃がもういない、という状態なのかと思ったら…、

 

以下 ネタバレです。

 

 

 

 

 

千桜夕妃は、4段昇格後、フランスのニースにいました。

彼女の事を買っている 将棋記者の藤島が 夕妃が会いたがっている、昔 病院の院内学級で出会ったフランス人少年の住所を調べてメモを渡したから。

 

で、第5部で明かされるのは、本編の途中で挟まれた「幕間 ニースの地で」 前編と後編でうっすら察しがついてはいましたが…

 

夕妃は、昇段決定の後、即入院し、その後 単身フランス・ニースに渡り、小学校時代から思い続けていた人、アンリ・ヴァランタンに再会します。

そしてなんと!! そのまま入籍し、暮らし始めて2ヶ月、心臓が弱かったアンリは、夕妃を置いて亡くなってしまいました。

その直後、アンリの子供を授かっているとわかります。 ドラマぁ~~

 

夕妃は、ニースで出産を決意、生まれた息子と暮らしていたある日、息子のアラン・ヴァランタンJr.は アランの母親に横取りされてしまったのでした…

そして失意の帰国。

 

第5部は、空白の3年が明らかになるのですが、なんだか荒っぽくまとめたな、という印象です。

 

小学校の低学年から16年間一人の友だちの事を思い続ける事も想像しにくいし。

フランスのどの街にいるかもわからない一人の男性の住所をファーストネームだけで探り当てるのも奇跡的!

 

荷物一つで訪ねていったフランスで結婚するのは可能ですが、夫亡き後に出産した子供は誰の戸籍に入っているのか?


夫の母親が子供を奪っていったとしたら、子供は祖母の養子なのだろうか?

子供を親の了解なく勝手に連れ去ったら犯罪ですけど? フランスではどうなの?

9歳のアンリ少年は覚束ないとはいえ、日本語が話せる!! アンビリーバボー!!

 

都合が良すぎる気がして興ざめ~

 

第5部で慌ただしく さらさらと物語が千桜夕妃の口を通して語られて、取って付けたような軽さ。

 

もったいない。

 

違和感ありありの第5部がもっと現実的なお話ならよかったのに…残念。

将棋を教えてくれた少年をフランス人に設定する必要があったのかどうか。

 

まぁ 今や 将棋も世界的にブームらしく そういう局面も描きたかったのかも知れませんが…。

 

今再び、夕妃の事を本にまとめる事になった将棋記者の亜弓とともにニースへ。

夢を叶えない限り 二度とニースの土を踏まないと決意していた夕妃は、竜皇のタイトルを取ったので

約束を果たしたことを墓前に報告したのです。

 

盤上に君はもういないの「君」は、フランス人少年 アンリ・ヴァランタンくんの事でした。

 

ラスト、夕妃と、記者の亜弓を見送りに来てた アンリ・ヴァランタンJr.が、夕妃に「お母さん!」と叫ぶ場面は涙なしには読めません。

 

 

 

美術、音楽…ときて、今度は将棋のお話。

 

読書は…いろいろ勉強になります^^

 

特に記述はないのですが 将棋の事を記事に書かないかと提案してくれた大学時代の友人・長峰凛は千桜インシュランスに勤務してるので 筆者は彼女と「千桜病院」との関係性をつけるつもりだったのかも、と深読みhappy。

 

テレビで藤井聡太くんがもてはやされていますが、その意味の重さがよくわかりました。

本の中に出てくる「俺は天才だから棋士になった、兄貴は馬鹿だから東大に行った」というフレーズは、多くの東大受験を失敗した人を馬鹿にした言い方だわ、と思ってたら…

これ、故・米長邦雄さんの言葉だったみたいです。

 

何手先を読めるのは当たり前で、その手の中から、どの手を使うかまで読むのが、千桜夕妃でした。

 

棋士の皆さんへの敬意は、今まで以上に重くなりました。