昨秋、NHKのドラマ10で「宙わたる教室」が放送されました。
2話から最終話まで録画していたのに、2話だけ観て、あとは時間がなくて、最終的に消してしまったけれど…最後まで観ればよかったな。
「宙わたる教室」は図書館に予約が入っていたので、すぐに借りられる『青ノ果テ』を読んで大感動!
それまで知らなかった伊与原新さんの、『月まで三キロ』、『八月の銀の雪』…と立て続けに読みました。
著者の、
神戸大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了
という、経歴による知識が惜しみなく注ぎ込まれた作品たち。
宇宙、気象、地層…と言った知識が盛り込まれた作品が多いです。
今回は、宇宙について。
実話を元に書かれた作品でラストは感動の涙、余韻がすごい…
目次:
定時制高校の生徒たちの青春
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第70回青少年読書感想文全国コンクール課題図書
NHK「ドラマ10」でドラマ化
東京・新宿にある都立高校の定時制。
そこにはさまざまな事情を抱えた生徒たちが通っていた。負のスパイラルから抜け出せない21歳の岳人。
子ども時代に学校に通えなかったアンジェラ。
起立性調節障害で不登校になり、定時制に進学した佳純。
中学を出てすぐ東京で集団就職した70代の長嶺。「もう一度学校に通いたい」という思いのもとに集った生徒たちは、
理科教師の藤竹を顧問として科学部を結成し、
学会で発表することを目標に、
「火星のクレーター」を再現する実験を始める――。
引用元:文藝春秋BOOKS
定時制高校の生徒たちは、年齢も様々、入学動機も様々です。
ストーリーは、体(心?)を壊して休職することになった数学の教師の後任として着任したばかりの34歳の藤竹と、
ボサボサの金髪に両耳に10個のピアス、薄汚れた作業着で登校してくる21歳の柳田岳人を中心に描かれています。
第一章 夜八時の青空教室
柳田岳人は、子供の頃から、文字を読むのが苦手で、方程式を解くことはできるのに、文章題は全くダメでした。
読めない、書けない、それでバカにされてきて、ドロップアウト。
今のリサイクル会社を辞めて、人と関わらないですむ長距離トラックドライバーになりたい、でも岳人は教習本を読むのも難儀するほど。
「文字がつかまらねぇ」、という岳人の言葉を聞いて、藤竹はタブレットを岳人に差し出すと…
読める! 何故か。
藤竹は、文章をディスレクシア用(学習障害 LD用)のフォントに変えたのでした。
たったこれだけのことで、読めるようになった。
自分はバカじゃない、怠けていたわけでもなかった。
今までのバカにされ続けた人生はなんだったんだーーー。
失われた時間を思って悔しさに震える岳人。
君は学校を辞めてはいけない、ここからがスタートだと藤竹は告げました、
そして「科学部」、一緒にやりませんか?と誘ってきました。
「火星の夕焼けは青い」という話に、思わず引きこれていく岳人でした
第二章 雲と火山のレシピ
クラスメートから、「ママ」と呼ばれている越川アンジェラは新大久保で日本人の夫とフィリピン料理店を営んでいる42歳。
母子家庭で育ったアンジェラは、子供の頃、学校で勉強したかったのに、フィリピン人の母にふりまわされ学校に行けなかった。
ようやく定時制で勉強できるようになり幸せだったのに…
クラスメートのマリが全日制の女子にペンケースを盗んだ、と嫌疑をかけられるのを見ていても立ってもいられず…
アンジェラは体を張って、マリを守りました、自分は退学になってもいい、とさえ思って、言いがかりをつけてきた子を押し倒したのです。
アンジェラの行動の裏に、勉強について行けず逃げ出したい気持ちもあることを藤竹は見抜いていました…。
科学部では、重曹とすし酢(米酢ダメ)で、ブルカノ式噴火、再現実験♪
第三章 オポチュニティの轍
保健室登校の名取佳純は、5月23日の1限目から3週間、1Aの教室に入っていない。
入ろうとすると、過換気(過呼吸)になってしまうのです。
以来保健室の仕切られたカーテンの中ですごしています。
人見知りで口下手な佳純は友人もできず、起立性調節障害と診断されてしまいました。
自分の居場所は、保健室だと思っていたら、保健室の先生から、もうひとつ自分の居場所があってもいいんじゃない?、と提案されます。
勇気を出して物理準備室へ行ってみると…
科学部の岳人とアンジェラ、藤竹教諭で「火星の青い夕焼け」を再現しようとしていました。
藤竹先生は、火星探査車・オポチュニティが火星の表面に付けた轍の写真を見せてくれました。
オポチュニティは2003年に打ち上げられ、2018年に通信が途絶えるまで、遠い火星でひとり孤独な旅を続けていました。
時折ふりかえり、自分の付けた足跡(轍)の写真を送って来ました。
まるでオポチュニティの生きた証のように。
2019年、ミッション終了、それをマネージャーが告げた時、ミッションに関わった皆が泣いたそうです。
遠く離れたところで思い、応援してくれる人がいました。
佳純にも、生徒の命を守ると言ってくれる保健室の佐久間先生がいる。
腕のリスカの跡を撫でながら、もう終わりにしよう、と誓う、
新しい轍を作っていこう、と前向きになるのでした。
オポチュニティのエピソードに涙しました。
第四章 金の卵の衝突実験
長嶺省造は、かつて金の卵、と呼ばれた集団就職で上京してきた少年でした。
貧しい家の育ちで、進学もせずに働き通しでした。
ようやく、定時制で学べることになったのは70歳を過ぎてから。
苦労して働いて来た昭和生まれの長嶺は、金髪の岳人をただの不良だと決めつけ、ついに授業中に言い争いになってしまいます。
そんな時、藤竹は、科学部の部屋に省造を呼び出すと…生き生きと活動する岳人を見せました。
ジェネレーションギャップを埋め、互いにわかり合うために…藤竹は、省造に生い立ちを話して欲しい、と声をかけます。
総合の時間、全員が揃ったところで省造が話したのは、自分のことではなく病院に入院中の妻のことでした。
それぞれに事情を抱えているクラスメート。
互いに相手を思いやることで衝突は避けられるのです。
科学部は、惑星の衝突でできるクレーターの再現実験をしていて…
威力のある「衝突」を作り出す装置は、金属加工業を営む省造の出番。
こうして、また科学部に省造という強力な助っ人が加わりました♪
第五章 コンピューター室の火星
地球上で無重力状態を作るには?
ディズニーシーにある、タワー・オブ・テラーで、一瞬、無重力状態を味わえますね。
あの原理を教室で再現しようと櫓を組んで、箱を落とす実験器具を作るのですが…
全日制のコンピューター室が最も天井から床までの高さを取れることがわかり、使わせてほしい、とコンピューター部に頼み込みます。
コンピューター部の丹羽要の家庭は、無気力な母と家庭内暴力を振るう弟がいて、唯一の自分の居場所がコンピューター室でした。
本来ならばもっと優秀な学校に行けたのに、入試の朝、弟が大暴れして集中できず、志望校を落ちてしまった要。
不本意な現状を打破するため、情報オリンピックに出場しようと(自宅のパソコンは、弟が破壊したので)学校のコンピューター室に入り浸っていたのに…邪魔が入った。
重力可変装置を作り、クレーター形成実験をやる、という科学部の岳人たちは本気でした、土下座も厭わない。
「好きなこと」にまっすぐだ。
そんな彼らが無性に羨ましくなった要は、定時制は…と見下げるのを止めました。
第六寮 恐竜少年の仮説
また岳人の昔の悪友が学校にやってきました、今度は科学部のところにまで。
実験装置を壊し、砂を蹴散らして…
彼らは、岳人が真っ当な道に進むことを阻止したいのです。
そんな時、アンジェラのミスでまた実験装置が壊れてしまって…今度は、科学部の仲間の絆まで壊れそうになります…。
このタイミングで藤竹先生は自分の試み(実験)をカミングアウトしました。
かつて藤竹が関わっていた研究で、高専の学生のデータを大量に使って論文は世に出ました、それなのに、論文の著者の中に彼の名前はなかった。
教授は「高専の学生の名前などいれたら論文の格が下がる」と言い切ったそうです。
藤竹は教授の元を去り、アメリカのアリゾナへ。
ここで藤竹は、能力のある貧しい青年を「同僚」と紹介する懐の深さを観て衝撃を受けました。
藤竹は、優等生ではない学生を集め、何か研究活動をやらせてみたい、と考え、
新宿東高校定時制に科学部を作り、観察することに。
これは生徒のためではなく、藤竹自身のための実験だったのです。
かつて、進学できもしないのにその気にだけさせるのは酷だと件の教授は言いましたが
「人間は、その気にさせられてこそ、遠くまで行ける」(出展:『宙わたる教室』P252 )
第七章 教室は宇宙をわたる
幕張メッセで行われる「日本地球惑星科学連合大会」に科学部のメンバーはやってきました。
全国から92の研究テーマが集まった中で口頭発表15校の中に選ばれたのでした。快挙!
各賞の発表は、読者の私も岳人と同じ気持ちで、発表を待ちました。
優秀ポスター賞 富山県立… ちが〜う!
奨励賞4件、東京都、学校法人…私立か…最後に神奈川県…
なかった。
優秀賞2件、京都府立… そして 東京都立 東新宿高校定時制課程。
泣いた〜〜〜〜
一人孤独にトレーラーを駆り、日本中を巡る。そんな希望を抱いていた自分がいつしか科学という舞台で仲間と星々の間を巡ることを夢見ている。
出典:『宙わたる教室』P277
人生を投げ出していた岳人が、いつの間にか新しい夢を追いかけている。
その姿に勇気をもらいました。
前を向いてひたむきに努力するひとたちに、等しくチャンスが訪れる国であってほしいです。
あとがきより
著者の伊与原新さんは学生時代にお世話になった教授から、
日本地球惑星科学連合2017年大会「高校生によるポスター発表」で優秀賞を獲得した研究が面白かった、と聞きました。
大阪府立大手前高等学校定時制過程と大阪府立春日丘高等学校定時制過程の研究でした。
3人の先生がたの熱い思いと、それに応えた生徒たちの奮闘に感銘を受けてこの小説を書かれたそうです。
定時制に集まる生徒さんたちは、仕事のあとに勉強するという時間的なハンディもある中、よく頑張られたのだな、と胸を熱くしました。
おすすめの一冊です。
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