⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【芥川賞】村田沙耶香著『コンビニ人間』|「普通」になれない主人公がみつけた生き方

2016年・第155回芥川賞受賞作『コンビニ人間』、読みました。

 

芥川賞は、純文学に贈られる賞ですが、とても読みやすく面白かったです。

Amazon★4.2   ★5=51%

内容紹介

Amazonのサイトにある内容紹介です。

36歳未婚女性、古倉恵子。 大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。 これまで彼氏なし。 オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、 変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。 日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、 清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、 毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。 仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、 完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、 私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。 ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、 そんなコンビニ的生き方は 「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。 現代の実存を問い、 正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。

引用元:Amazon

 

普通ではない自分を殺して、息を潜めて生きてきた子供時代

幼い頃から、ちょっと周囲の子とは感性が違う子どもだった主人公・古倉恵子。

 

公園で小鳥が死んでいるのを見て、可哀想と言う子どもたちの中で、焼鳥にして食べよう、と思いつく恵子。

 

男子が取っ組み合いの喧嘩をして、誰か止めて、と言う声に、男子をスコップで殴って「止めた」り。

 

問題児扱いされ、病院にも連れて行かれたけれど「治る」ことはなく、周囲とのギャップも自覚していました。

 

コンビニ店員として社会に組み込まれることで安心する

大学1年の時に始めたコンビニのバイトでコンビニの「部品」として存在する事が、気負わずにいられることに気づきました。

就職も結婚もせず、「コンビニ店員」としてオープン当初から18年、優秀なコンビニ店員として重宝され、居心地のいい場所を得た恵子でした。

 

恵子はマニュアルどおりに、決められたことをテキパキとこなし「部品」になることに心地よさを感じています。

自分らしさを求められるのが苦手だから。

 

恵子には「自分」の中の核になる部分がないように見えます。

 

「今の私を形成しているのは、ほとんど私のそばにいる人たちだ」、という一文は納得です。

「朱に交われば赤くなる」と言いますが、親しい人の影響は受けます。

 

恵子の場合、「自分が如何に普通に見えるか」を考えながら生きています。

自分は少し変わっていると体験的にわかっているので「自分」を消して、「普通」を演じているようです。

 

周囲の人を真似ることで「普通」を演じ、溶け込もうとしていました。

 

自分が、バイトの店員として「歯車」になっている時が一番楽で生き生きと動けて

「バイト」と言われようが無心になって働くのが楽しい恵子。

 

自分の意見や好みはなく、他人に迎合し、ファッションもバイト仲間の私服のブランドをチェックして合わせています。

 

「普通の女性」は結婚するもの?

恵子は家族や友人から、結婚は?と聞かれるのがすごく辛いのです。

全く結婚に興味がないから。

 

会社勤めをしていない理由を、「妹の入れ知恵」で体が弱くて就職できない事にしています。

 

学生時代の友達から「体が弱いのにハードなバイトの立ち仕事できるの?」と痛い所を突かれることもあるのですが…

 

決まった時間に出勤し、決まった時間に帰宅し、ひとりでシンプルに生きる、そんな生活がとても心地いいのですが、周りはそれを許してくれない。

 

白羽との出会いと利害一致の同棲

ある日、白羽という独特の感性の男がバイトとして採用されました。

やる気なし、遅刻、レジ内でスマホいじる…と問題あり。

女性客のストーキング行為まで…白羽はクビに。

 

白羽の諸々の差別発言がひどく、読んでいて腹立たしい思いを味わわされます

ものすごくプライドが高いのに、口先だけで何もできない白羽の存在が、物語を生き生きと動かします。

 

ある日、恵子は仕事帰りに、白羽がストーキングしているところに出くわしました。

警察呼ばれますよ!と近くのファミレスへ連れて行く。

 

話をしてみると、「とても嫌なヤツ」な白羽も生きづらさを感じている、と知りました。

 

世間が悪いせいで自分が生きづらい、とこぼす白羽。

「結婚をして、あいつらに文句を言われない人生になりたい」と。

 

恵子は利害一致、とばかりに私と婚姻届をだしてみるのはどう?と聞いてみました。

 

恵子も、周囲から結婚は?と聞かれることに疲れていたので。

 

文句言いで理屈屋の白羽との同居が始まりました。

その途端、母も妹も大喜び。

お姉ちゃんに彼氏ができた!!と(やっとフツーになった、と)喜んでいるのを他人事のように冷静にみている恵子でした。

 

白羽は

「ぼくは一生何もしたくない。一生、死ぬまで、誰にも干渉されずにただ息をしていたい。」(出典:コンビニ人間 101ページ)

と、甘ったれたことを言って、それで通ると思っている変人。


世間から、就職は? 結婚は? 性体験は?とズケズケ聞かれることに必要以上の恐怖と嫌悪を感じているパラノイア系の人。

 

タダで恵子の部屋に住まわせてもらい、食事も提供してもらっているというのに 

恩着せがましいし、感謝もせずに「食事まだ〜?」な感じで

読者をイライラさせてくれます ^^;

 

「僕はずっと復讐したかったんだ。 女というだけで寄生虫になることが許されている奴等に。僕自身が寄生虫になってやるって、ずっと思っていたんですよ。僕は意地でも古倉さんに寄生し続けますよ。」(出典:コンビニ人間 115ページ)

 

こわ〜〜〜〜〜 😱

 

これは、働きたくない、というただの甘えに思えます。

自分を正当化するためにいろいろ御託を並べてますけど。

 

部品はいつか捨てられる、と不安に

白羽の食事も用意しなくてはいけないので、更に働かねば、と恵子は決意します。

 

急遽シフトに入ることも厭わない恵子は使える「道具」。

けれど、

体を壊すと使えなくなる「部品」は、いずれ捨てられる日が来るかもしれない。

 

コンビニは恵子にとってすごく居心地がいいけれど、将来を考えると不安も拭いきれないのでした。

 

自分の意見を主張しない恵子は、白羽の思惑どおりに…

バイト仲間に、バイトをクビになった変人の白羽と同棲していることがバレて、皆は興味津々で質問してきます。

全然好きでもない男を、体裁のためだけに「飼って」いるのに…。

 

白羽と同棲したことで、仲間だと思っていたコンビニ店員たちの好奇心の的になってしまい安住の地であったコンビニ、スマイルマート日色町駅前店でお客さんだけが恵子を「コンビニ店員」として存在させてくれていました。

 

北海道から白羽の義理の妹が家までやって来て

白羽の家賃滞納分を立て替えたので返してほしいと請求されると…

 

「結婚を前提にお付き合いしています。僕は家のことをやって、彼女が働くことになっています。彼女の就職先が決まったら、お金はそこからお返しします」(出典:コンビニ人間 127ページ)

 

嘘ばっかり、勝手なことを…! 

 

…って怒らないのですね、恵子は。

 

白羽の、突然の言い逃れ、口からでまかせを現実のものにするために、

恵子はコンビニ店員を辞めて、職探しをする羽目になってしまいました。

 

何故、恵子は怒らないのか、素直に従うのか、大事な居場所を失くしてしまうというのに…

 

子どものころに「変な子」と思われ自我を封印したために、「自分」の意見を主張することを止めてしまったのでしょうか。

 

お主、何様っ!!

古倉さん、あなたは運がいいですよ。

処女で独身のコンビニのアルバイトだなんて、三重苦のあなたが、ぼくのおかげで既婚者の社会人になれるし、誰もが非処女だと思うだろうし、周りから見てまともな人間になることができるんだ。

それが一番みんなが喜ぶ形のあなたなんですよ。よかったですね!

出典:コンビニ人間 130ページ

 

絶句。

なんと言う恩着せがましい、あなたは運がいいですよ、は恵子から白羽に言うセリフ。

 

感情が退化してしまっている恵子だから、特に言い返しもせず、かくして恵子は18年間勤めたスマイルマートを辞めました。

 

心棒を失って、コンビニ店員の矜持が今…

突然辞めるひとはプロ意識にかけると言っていた仲間でさえ、嬉しそうに祝福してくれるのでした、白羽と結婚するわけでもないのに。

 

普通の人になったという祝福だったのでしょうか…

 

コンビニを辞めてしまうと、コンビニの勤務を基準に生きてきた恵子は、毎日の生活のサイクルさえ狂い始めます。

 

コンビニを辞めて1ヶ月、初めての面接に臨むにあたり、白羽も面接先まで来て、終わるまで待っているといいます。

 

トイレに行くという白羽が向かったのはコンビニでした。

追いかけて恵子もコンビニへ。

 

中に入った瞬間、コンビニの「声」をキャッチした恵子は、店内のあらゆるところから響いてくる声に反応して

 

コンビニの不備が目について、商品を並び替えてしまいます。

 

白羽に外に引きずり出されたけれど

 

改めて、自分は人間である以上にコンビニ店員であると、

私の細胞全部がコンビニの為に存在している、と白羽に伝えました。

 

白羽は「ぼくのために働いたほうがずっといい」などと(自分の為)に否定してきましたが、

 

今度こそ、恵子は宣言できました

私はコンビニ店員という動物なんです。その本能を裏切ることはできません。(出典:コンビニ人間 P150)

 

誰に許されなくても、私はコンビニ店員なんです。《中略》コンビニ店員という動物である私にとっては、あなたはまったく必要ないんです。

出典:コンビニ人間

 

あぁ胸がスカッとする! 溜飲がさがる!

 

私の細胞全てがガラスの向こうで響く音楽に呼応して、皮膚の中で蠢いているのをはっきりと感じていた。(出典:コンビニ人間)

 

もう、迷わずに、自分の意見を誰かに宣言できました、

自分が一番自分らしく生きることができる場所を恵子は今、はっきりと示すことが出来たのでした。

 

読後感スッキリ! 祝福してあげたい気分♪