⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【町田そのこ】『ぎょらん』にまつわるファンタジーとひきこもり青年の成長物語

あなたなら誰のぎょらんを食べてみたいですか?

 

Amazon★4.3.    ★5=59%  2023年6月26日(文庫)初版2018年10月31日発売 

 

死者が最期に遺す、赤い珠。それがもたらすのは、救いか、それとも苦しみか――。人が死ぬ瞬間に生み出す珠、「ぎょらん」。それを噛み潰すと、死者の最期の願いが見えるという――。十数年前の雑誌に一度だけ載った幻の漫画、『ぎょらん』。そして、ある地方の葬儀会社で交錯する「ぎょらん」を知る者たちの生。果たしてそれは実在するのか? R-18文学賞大賞受賞の新鋭が描く、妖しくも切ない連作奇譚。

引用元:新潮社HP

 

 

 

引きこもりの青年・御船朱鷺が抱える悩みとぎょらん

中学時代の親友が遺した「ぎょらん」を口にしてしまった時から、御船朱鷺の苦しみが始まりました。

友人の苦しみを知って押しつぶされそうになり大学1年の時から引きこもり歴10数年。

 

一度だけ雑誌「週刊ダンディボーイ」に載った『ぎょらん』という漫画。

やはり、ぎょらんはあったのだ…

ぎょらんとはなにか。

 

表題作の『ぎょらん』が導入部分となり、読者を「ぎょらん」とはなにか?の謎解きにいざなってくれます。

 

ありそでなさそな大人のファンタジー…

 

⚠️ ネタバレあります、ご注意ください。

 

連作短編集ならではの楽しみと、伏線回収に唸る!

各章ごとの登場人物が、お話が進むにつれ、見事に繋がっていきます。

 

読み終わってから、感想を書くために2度目の流し読みメモがA4レポート用紙に4枚分!!

読み応えありすぎる!

メモをして、あ、あの時の!! こう繋がるのか、と発見が楽しかったです!

1回目では、頭ではわかってるつもりでも、文字にして初めてストンと自分の中に落ちることがよくあります。

登場人物が多い作品では特に。

 

ぎょらん

御船朱鷺 大学を辞めて引きこもり、本当は長身イケメンなのに、長髪がベタベタ。

妹に馬鹿にされているが、とても優しい。

御船華子 朱鷺の妹、不倫相手がバイク事故で亡くなる。

 

夜明けのはて

相原千帆 葬儀社・天幸社の葬祭ディレクター 朱鷺が働き始めた職場の上司。

石井春子 天幸社・納棺師 かつて一人息子を保育園の遊具で亡くした

浜崎喜代 夫の葬儀で天幸社の斎場にいるところで二度と会いたくなかった石井に遭遇。石井の息子を不注意で死なせてしまった。

 

冬越しのさくら

作本恭治 天幸社OB 相原千帆が2人暮らしの母を亡くしてから父親がわり

 

糸を渡す

七瀬諒子 グループホームの職員、32歳

入所者・茂子さん 身寄りがなく、70代だが認知症を患っている 火傷痕があり、熱いものを怖がる

菅原美生 高校のボランティア部として茂子さんを担当

菅原佐保子 美生の母 完璧主義で夫や娘と折り合いが悪い 意外な生い立ち

 

あおい落葉

笹本小紅 朱鷺の中学時代の友人

斉木葉子 朱鷺の中学時代の友人

蘇芳   朱鷺の中学時代の親友

 

小紅、葉子、蘇芳と朱鷺。4人は仲良くしていたのに、次第に歪みが生じて…

青春時代真っ只中の悩みが眩しい。

珠の向こう側

朱鷺が葬儀社で働き始めて1年。

最終章。

ここで今までの登場人物の人間関係がつながります。

漫画『ぎょらん』の作者も明かされますし、同じくぎょらんをテーマにしたケータイ小説『きみたま(きみにたまごを)』の作者も…

 

素晴らしい伏線回収、ぎょらんとは?もわかります。

納得する人も、納得できないひともいるだろうけれど…

 

以下、ネタバレあります、ご注意ください。

 

 

 

 

 

大切な家族や友人と真摯に向き合って後悔なく生きること

七瀬さんが働くグループホームでは、ホームで亡くなった人には、葬儀社に湯灌をしてもらうのが施設からの最後のサービスでした。

 

七瀬は「死んでから体裁整えて、だから何って感じ。生きている時に喜ばせて上げることに意味がある」と言い切ります。

 

御船朱鷺が苦しんだのも、幼くして真佑を事故で亡くした石井芳年が苦しんだのも

 

憎まれていると思う人は憎しみ、怒っていると思う人は怒り、愛されていると思う人は愛のぎょらんを作る(出典:『ぎょらん』P406)

 

亡くなった真佑から父は恨みのぎょらんを、母は愛のぎょらんをもらいました。

 

ぎょらんは自分の心が生み出したもの、

死んだ人と自分との関係性がぎょらんに反映しているのです。

 

亡くなった人と自分との関係に、後悔や罪の意識があると苦しみ、楽しく美し思い出があると今後を祝福された気持ちになる。

 

大切なひとたちとは真摯に向き合って、

生きているうちに、たくさんのいい思い出を作って、後悔しない関係性を持っていたいなとつくづく思いました。

 

人は亡くなっても、多くの人のなかに生き続けます。

だからこそ、恥ずかしくない自分でいたいし、誰かのいい思い出の構成員でいたいな、と。

 

何気なく生きているけれど、これからも意識していい人間関係を構築していきたい、という思いを強くしました。

 

 

 

文庫本にのみ収録されている書き下ろし『赤はこれからも』

この章だけ書き下ろしで、朱鷺は出てきません。

タイトルの下に、

この章には「新型コロナウイルス」「東日本大震災」による死の描写があります。

ご自身の判断で詠まれますように、お願いいたします。

の注意書き付きです。

 

美弥の家庭は父子家庭。

7歳年上の姉の香弥が母親代わりでした。

大人になると、ちょっと口うるさい母親のような姉が鬱陶しくなり姉からの電話を無視した4日後に姉はあっけなくコロナで逝ってしまいました。

 

子どものころから姉に世話になっていたこと、

姉がお付き合いしていた人と破局させる原因を作ったこと、

たくさんのお礼の気持と謝罪の気持ちが押し寄せて、

電話を無視してしまったことを後悔します。

姉の遺体は病院から火葬場へ行き、遺骨として戻って来ます。

 

姉はどんなぎょらんを残すのだろう、気になって

 

ネイルサロンのお客さんから聞いたぎょらん検索掲示場板に遺骨についていることはありますか?

 

と打ち込んでみました。

 

そこでのやり取りで

「罪のぎょらんを求める奴は全員、相手が生きている間に謝らなきゃいけなかったんだよ」(出典:『ぎょらん』P497〜498)

 

悔やんでも悔やみきれない、だからこそ、真摯に生きよう、と思う。

 

数年後、美弥はネイリストとしてネイルサロンをオープンさせました。

 

真っ赤なネイルは、美弥への応援歌。

美弥が部活でいじめられている時に、姉が足の指に塗ってくれた真っ赤なシャネルのマニキュア。

いじめられたら、私の足はシャネル様なんだぞ、って背筋を伸ばして、と姉とマニキュアに元気をもらったのでした。

 

新たにお店をスタートする美弥の指に真っ赤なネイルが輝いていました。

 

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