本屋大賞受賞作、候補作と直木賞受賞作・候補作を中心に読んでいます。
2023年12月14日、第170回直木賞候補作5作が発表されました。
なれのはて(加藤シゲアキ)
ともぐい(河﨑秋子)
襷がけの二人(嶋津輝)
八月の御所グラウンド(万城目学)
ラウリ・クースクを探して(宮内悠介)
まいまいつぶろ(村木嵐)
太字は読書済
第170回の直木賞受賞作は、河﨑秋子著『ともぐい』と、万城目学著『八月の御所グラウンド』の2作でした。
惜しくも直木賞を逃した『なれのはて』ですが、「著者渾身の」と付けたくなるような読み応えのある力作でした。
448ページ、分厚いけど謎解きが面白くてスイスイ読めました
Amazon★4.5 ★5=75% 2023/10/25発売
★5を付けた人が75%とは!
ここまで★5の多い作品はなかなかないです。
第170回直木賞候補作
一枚の不思議な「絵」から始まる運命のミステリ。
生きるために描く。それが誰かの生きる意味になる。ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動することになったテレビ局員・守谷京斗(もりや・きょうと)は、異動先で出会った吾妻李久美(あづま・りくみ)から、祖母に譲り受けた作者不明の不思議な絵を使って「たった一枚の展覧会」を企画したいと相談を受ける。しかし、絵の裏には「ISAMU INOMATA」と署名があるだけで画家の素性は一切わからない。二人が謎の画家の正体を探り始めると、秋田のある一族が、暗い水の中に沈めた業に繋がっていた。
1945年8月15日未明の秋田・土崎空襲。
芸術が招いた、意図しない悲劇。
暴走した正義と、取り返しのつかない後悔。
長年秘められてきた真実は、一枚の「絵」のミステリから始まっていた。戦争、家族、仕事、芸術……すべてを詰め込んだ作家・加藤シゲアキ「第二章」のスタートを彩る集大成的作品。
「死んだら、なにかの熱になれる。すべての生き物のなれのはてだ」
引用元:講談社HP
舞台は東京から秋田へ また東京へ
時代は現代から過去へ また現代へ
時代と場所を行きつ戻りつしながら、1枚の絵の裏に隠された一族の物語があぶり出されていきます。
著者がプロットを考えるために書いたメモは30000字、と何処かで読みました。(ソース不明 orz)
参考文献も多岐にわたり、綿密に練られたストーリーはリアルで、ぐいぐいと物語世界に引き込んでくれました。
秋田の場面では、秋田弁で書かれていて、リアルで温かく、ストーリーに血が通ったように思いました。
1枚の絵から始まる物語
上記講談社のHPにある通り、放送局イベント事業部の吾妻の祖母が持っていた絵の展覧会を企画しますが…
著作者の死後70年経過すると著作権が消滅します(パブリックドメイン)が、生きていたなら、著作権者に展覧会開催の許可を得なければなりません
祖母の絵に書かれたサイン、「ISAMU INOMATA」を元に著作権者探しが始まりました。
報道の谷口が、検索をかけて昔の新聞記事に「猪俣勇」の名前を見つけました。
事件のあった秋田に守谷と吾妻は向かいました。
え〜〜〜と、日本全国に「いのまたいさむ」さんは大勢いらっしゃると思うので…
たまたま新聞記事に出ていた猪俣勇さんと、吾妻の持っていた絵の作者が合致したのはすごく稀有なことのような…作者都合かな、とも思いました。
秋田の猪俣家の生き様は読まされました
1961年の元旦に発見された黒焦げの焼死体と化した猪俣傑(すぐる)。
一体何があったのか、殺したのは誰か??
猪俣家には複雑な家庭事情があり、猪俣家は、秋田の石油事業に大きな力を持っていたのであまり深く探られることなく、ふんわりとした捜査で幕引きされました。
猪俣家は
石油事業に成功し、市会議員にまでなった兼通とかよ夫妻、
夫妻の実子、傑、勇兄弟、
腹違いの子、輝(傑が養子にして引き取った)、
猪俣家に住み込みで奉公する家政婦の藤田八重
勇が育てている戦災孤児の道生
道生の姉、藤田八重の娘、孫、
兼通の大学の同級生の赤沢真喜夫、
元兼通の妻サチは真喜夫と再婚、息子の寅一郎が生まれる…
と登場人物が多い上に、関係が複雑です。
この他にも秋田の警察関係者や、
博物館の館長、過去の証言をしてくれた老人たち、
守谷の出身地・新潟の実家や道生を知る人達も登場するので
メモしながら読んでたら…メモがA4レポート用紙7枚!!
複雑な事情が隠されているのでネタバレしないほうがいいのでここには詳しくは書きません。
内容は忘れたくないので、メモは取っておこうと思います。
張り巡らされた伏線がすべて回収されていく心地よさ
著者は、参考文献もたくさん詠まれていますし、博識のようで、読むのが楽しかったです。
過去の事件関係者の章は、それぞれの登場人物からの視点で書かれていて、あとあと詠み進めていくと
細かい点が符合しているのがわかって上手いな〜と感心。
報道に携わってきた主人公の矜持と気付き
イベント事業部に飛ばされても報道の仕事が好きだ、と改めて自覚する守谷。
かつて報道局の先輩・小笠原と盗作疑惑を追いかけていたものの、上部からの圧力でそれ以上の追求を止めるように求められ、放送を断念しました。
守谷の正義感、報道に携わるものとして、事実を正しく報道することの矜持をへし折られ、未だに胸の奥でくすぶり続けていました。
一枚の絵を発端に知ることとなった猪俣家の真実。
亡くなった先輩・小笠原の潔さ、報道に対する思いの深さを見て、
正しさは振りかざすだけの矛でなく、他社を守るための矛でもある(出典:『なれのはて』P443)と知ります。
猪俣家の真実にあえて触れず、展覧会は開かれました。
感動のラストに思わずウルッ…
東京ー秋田ー新潟…一枚の絵の作者を追い求める旅路の終わりは、なんとも温かくて、希望に満ちた大団円。
再会に涙。
そして、忸怩たる思いを抱えていた守谷も功績を認められ、報道局へ戻ることに。
読後感、爽快でした^^
作者はアイドルグループ・NEWSの加藤シゲアキさん
初めて読む作家さんでした。
加藤シゲアキさんは、『ピンクとグレー』あたりから、存じておりましたが、たくさんの著作がある、とこの度知りました。
お忙しいと思うのに、驚きました!!
『オルタネート』も話題でしたし、作家としての才能もお持ちなんですね^^
『なれのはて』は、重厚な作品で、かなり気合がはいっていたのでは、と思います。
読み応え十分、面白かったです!
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