直木賞候補作は読むことにしています^^
第166回直木賞候補作品。
2021年10月10日発行、新聞広告で見て図書館で予約していました。
本の帯には、
「気鋭の著者が医療の在り方を問う感動巨編。
手術支援ロボット「ミカエル」を操る天才外科医に託された少年の命。
この者は、神か、悪魔か。」
序章と1~9章、そしてエピローグへ
⚠ ネタバレしてます、ご注意ください
序章
先日読んだ「生還者」の様な雪山登攀シーンでの幕開き。
北海道・旭岳。
猛吹雪の中で「何か」を探す男、このまま死んでしまうのか、という思いが頭を過る…
これは何を意味するのか…エピローグでわかります^^
第1章
とても読みにくく、この本、読みきれるかしら?と不安になりました。
映画やドラマもそうですが、登場人物紹介場面があり、だんだん面白くなってくるものです。
この第1章に登場する人物の多いこと。
肩書がついていますし、派閥もあるようなので、適当に流して読んで後でわけが分からなくなると困るので、紙に人物相関図を書きながら読んでました^^;
第2章
切れ者の院長秘書・雨宮登場で面白くなってきます。
主人公の西條泰巳を煩わせる妻、義母も登場、こちらは話の本筋ではないです。
第3章
ライバルの真木登場! しかも真木は傲慢で協調性がない孤高の医師として描かれているので俄然面白くなってきます。
真木は、ドイツ・ミュンヘンで活躍する、優秀な医師。
聞けば、院長のたっての願いで招いたといい、西條の自尊心が傷つきます。
西條は、ロボット支援下手術の第一人者で、北海道中央大学病院の広告塔のような存在で、院長も、後押ししてメディアの取材を受けていたからです。
第4章
西條の出自が語られます。
父が病気で働けなくなり、母が頑張って働いたけれど、居眠り運転で車ごと崖から転落して亡くなって… ほどなく父も亡くなり、祖父と貧しい暮らしをしていたこと。
妻が、彼の過去を受け入れられなかったこと…。
第5章
広島の広総大病院でロボット支援手術を行っていた西條の知り合いの医師・布施が自ら命を絶っていて。
西條にフリーライターが医療ロボット「ミカエル」の事で取材を申し込んで来ます。
なにかを嗅ぎつけた様子で。
もう、ページを繰る手が止まりません!
先天性心疾患の少年、白石航の手術をめぐり、従来型の手術を主張する真木と、手術支援ロボット「ミカエル」を使った手術を、という西條で意見が分かれます。
院長は、あれだけ西條とロボット支援手術を推していたのに、及び腰になっていて、以前のように取材も受けさせてはくれなくなって…。
このあたりは、主人公の西條に感情移入して、ちょっとイラッとしながらw読みました。
第6章
患者の航と真木、西條と看護師らとの面談の様子が描かれます。
自分の心臓は「壊れている」と表現する航。
心臓だけでなく、心も壊れかかっている、生気がないことを心配するドクターたち。
そんな折、ライターの黒沢が西條にいいます、「あの医療ロボットは信用できない。
あれは人を救う天使じゃない、偽天使だ」と。
第7章
忙しい勤務の合間を縫って西條は広島の布施の家に向かいます。
そこで、布施の子供が「パパは患者を殺していない、殺したのはミカエルだ!」と訴えました。
自分が信頼を寄せる医療ロボットの「ミカエル」に不具合が?
広総大病院の院長と「ミカエル」のメーカーの相談役が義理の兄弟。
広総大病院は、ミカエルの不具合を隠し、布施の医療ミス、ということにしてしまったのでした。
ロボット支援手術の第一人者の西條の未来に暗雲が…
そして、日本中にロボット支援手術を広めようという牽引役もできなくなります。
自分の将来と人の命を天秤にかけていいのか…
航を雨竜町のひまわり畑に誘った西條。
一面のひまわり畑を見て、また来たい、と未来への希望を初めて見せた航。
航が選んだ手術方法は、西條の執刀でミカエルによる手術でした。
第8章
航の手術日が決まり、執刀医は西條に決まり、助手は…いつもの星野ではなく、真木を指名しました。
「ミカエル」に万が一の不具合があったときのために。
そして、案の定、ミカエルは手術中に西條のコントロールが利かない勝手な動き(誤作動)をして航の心臓を傷つけました。
すぐさま真木に執刀を委ね、西條は助手にまわり、二人の連携プレーで事なきを得。手術を無事に終えることが出来たのでした。
ミカエルの誤作動がわかるのは西條ひとりで、はためには、「西條のミス」と映っていることに愕然とする西條。
術後、院長を尋ねると 院長は、医師は神、患者は信者、と言います。
北中大なら治してくれるという希望を与え、北中大でも治らなかったら仕方ないという諦めと納得が救いになると言うのです。
ミカエルの不具合が直るまで留学してはどうか、と提示され…退職の意向を固めます。
第9章
西條から見た真木は、いつも取り付く島もないような態度で、誰とも打ち解けようとしない扱いにくい人間でした。
彼も優秀な医師なので、自分の自信をへし折られそうにな気分になるのかも知れません。
彼のことを知りたくて、フリーライターの黒沢に教えてもらった支笏湖畔診療所の駒田医師を訪(医師)が、真木の母の死を看取ったということで交流があったのです。
駒田の口から語られた真木の半生は、西條と同じかそれ以上に苦しく辛いものでした。
若い頃、自分を苦しめた実の父の手術を担当することになり(異例)、父は亡くなりました。
自分が殺したのかもしれない、という思いに囚われドイツに逃れ、医師を辞めていた時期もあったといいます。
自分の人生を恨み、責め、生きる意味を見いだせなかった真木が、山に登ることでなにかを見つけ、また歩き出したそうです。
自分と同じ様な過去を持ち、必死で勉強して心臓外科医になった真木と西條。
医療に対する考え方も同じなのに…
真木は立派な医師であり続け、自分はダメだと知りながらミカエルで手術を断行した医師失格の人間だ、どこで道を違えたのか、自問する西條。
ミカエルの不具合の詳細や、病院の闇をしたためた文書を黒沢に送りました。
4回にわたって週刊誌に掲載され、病院とメーカーの癒着まで明るみに出て、西條の肩の荷も少しは下りるのでしょうか。
エピローグ
雪山を登る男は、西條だったのですね。
真木のように、山に登ることで生き直すヒントを見つけたい西條。
こんなに苦労して、真木がみつけたものは一体なんだったのか?
先程の吹雪が嘘のように止み、雲間から光が漏れ、あたりを一面を照らすとリスや蝦夷鹿がいて、空にはオオワシが旋回してました。
大自然の中で、人間も空も獣たちも全てが世界を構築する一つの歯車なんだ、と悟ります。
「ミカエル」を操る自分は、命を救う神だと思っていた西條。
俺たちは下僕だ、と言ってのけた真木。
ようやく、真木の真意を理解して、西條は熱い涙を流したのでした。
サクッと感想
ロボット支援手術で医療をリードする医師としての自負、周りの期待を集めていた西條が、ロボット「ミカエル」が不具合であることを知りながら少年の心臓を傷つけたことで深い後悔の念に苛まれましたね。
ミカエルの不具合を隠していた院長の罪も重いです。
医療とは、命に関わる仕事ですから、常に命に真摯であるべきですよね。
西條は、自分が名声を失うのを恐れていて 一方的に真木をライバル視していましたが、その時点でもう、真木に負けていると思います。
いちばん大切なことは、命を救うことであったのに、いつしか、命を救える自分が一番優秀だ、という驕りに取り憑かれていく様は少し無様に映ります。
天使の名前を付けられた医療ロボット「ミカエル」と心臓外科手術をテーマにしていることから、本著の邦題は「ミカエルの鼓動」となっていますが、大天使ミカエルが左手に持っているのが、魂の公正さを測る天秤。
それで、ミカエル、なんでしょうか。
裏表紙に、天秤の絵とThe Justice of St.Michael の文字
納得。
医療の専門用語がたくさん出てきて、著者渾身の作品、も納得。
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