2024年本屋大賞4位、夏川草介著『スピノザの診察室』を読みました。
スピノザと診察室がどうつながるのか、謎だったのですが…。
主人公のマチ先生こと雄町哲郎の本棚には哲学書も並んでいて、科学(医療)だけではなく、哲学書も読みこなすマチ先生。
スピノザ(オランダの哲学者)の思想は自由とは「必然性に従うこと」=与えられた条件下で自分の力を上手く発揮できること(Frontier Eyes Online 「哲学とビジネス」参照)だそうです。
マチ先生(哲郎)もまたスピノザの思想に沿って生きているようです。
この小説は、マチ先生の生き方、人となりが肝です。
目次:
7割近い人が★5を付けているには理由がある
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雄町哲郎は京都の町中の地域病院で働く内科医である。三十代の後半に差し掛かった時、最愛の妹が若くしてこの世を去り、 一人残された甥の龍之介と暮らすためにその職を得たが、かつては大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。 哲郎の医師としての力量に惚れ込んでいた大学准教授の花垣は、愛弟子の南茉莉を研修と称して哲郎のもとに送り込むが……。
引用元:水鈴社HP
水鈴社HPのあらすじにあるように、
主人公の雄町哲郎は、素晴らしい内視鏡手術の技術を持ち将来も嘱望されていながら、妹の忘れ形見の龍之介を引き取り育てるため大学病院を辞します。
小規模な地域の病院の勤務医として、消化器内科も診ながら、高齢者の往診や看取りもしています。
バリバリの先端医療と向き合って、医療技術の研鑽に務める医師の姿ではなく、
老人の不安や不調に耳を傾け、患者の顔が見える医療を大切にしています。
先端医療や医療技術の粋を極める話ではなく、市井の人たちの日常に寄り添う温かさが読んでいてほっこりします。
哲郎の務める原田病院のドクターのキャラが立ってます^^
おおらかなオッサンと言う感じの院長・鍋島^^
軽口を叩くけれど、肝心のところはしっかりと押さえているのがかっこいい。
かっこいい風を装って、外見だけ、というのが一番カッコ悪いですよね^^
現場には出てこない理事長の原田、毎朝玄関前に水を撒く場面に登場します。
小柄でキビキビした女医の中将亜矢と院長・鍋島が外科、
アフロヘアで暇さえあればゲームに興じている秋鹿と雄町が内科。
男性看護師の土田とベテラン看護師長の五橋。
それぞれのキャラがわかりやすく軽妙な会話が読んでいて楽しいです。
哲郎の元職場の先輩、洛都大学の花垣や、哲郎をよく思っていない(半分やっかみ有りの)後輩の西島、哲郎を慕う後輩の天吹。
大学から原田病院に派遣されてきた若き女医の南。
西島は、哲郎の技術を妬んでいて、哲郎は花垣からの覚えもめでたいことも嫉妬の一因。
新入りの女医の南が、哲郎の勤務する小さな原田病院に出入りするのも面白くない。
こじらせ西島、嫌な奴だけど、それが読んでいて面白いです。
こういうヒール役は、物語を面白くしてくれます。
京都スイーツがたくさん出てきます
マチ先生は、和菓子(お餅)が好きなのです。
出町ふたばの豆大福もお好きなようですが
阿闍梨餅や矢来餅、北野天満宮近くの長五郎餅など美味しいお餅の名前が登場するので、今度行ったら買いたい! メモメモφ(•ᴗ•๑)
いまだに手作業で作っている緑寿庵の金平糖や亀屋友永の小丸松露、
パティスリー 菓欒(からん)の西賀茂チーズ、
村上開新堂のマドレーヌ…名品がずらり。
お菓子が登場するとちょっとホッとします。
一番緊張したのは、9歳の少年の内視鏡手術
ここは一気読み必至。
洛北大の花垣は、学会のためアメリカへ。
留守を託されたのが哲郎の後輩の天吹。
花垣が渡米中に、生体肝移植を受けた9歳男児の容態が急変。
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)の緊急手術をすることになりました。
執刀は留守を託された天吹。
狭窄部分にカテーテルを通す時に大量出血、緊迫する現場!
アメリカにいる花垣から電話で緊急の依頼が哲郎に来ました。
哲郎の内視鏡手術の腕を見込んで、天吹のサポートに入って欲しい、と。
ひっそりと目立たぬように内視鏡室に入り、天吹の耳元で適切な指示を与えました。
哲郎の指示により、見事に窮地を脱した天吹は、難手術を成功させました。
内視鏡室内にいる哲郎の元同僚たちが哲郎の入室を暗黙の了解で迎え、見守りました。
成功が見通せた時に、静かに内視鏡室を去っていく哲郎、本当にカッコいい!
一連の手術の描写はリアルに伝わってきて、さすが現役の医師である夏川草介さんならではだな、と。
素晴らしい♪
京都の町並みが脳内で像を結ぶ、読書が楽しい
マチ先生(哲郎)が自転車をこいで患者の家へと向かいます。
京都の町並が目に浮かびます。
半夏生、五山、境界線、秋…各章のタイトル通り、季節の移ろいと京都の町の様子も京都へと誘われているかんじ。
やっぱり京都に行きたくなります。
哲郎が妹の死から学んだこと
息子を残し、若くして病に斃れた哲郎の妹。
彼女の死を受け入れた時、
哲郎は人の幸せはどこから来るのか、と自問します。
妹は、死が身近に迫っていても、最後まで幸せを追究していたそうです。
たとえ病が治らなくても、仮に残された時間が短くても、ひとは幸せに過ごすことができる。できるはずだ、というのが私なりの哲学でね。
そのために自分ができることは何かと、私はずっと考え続けているんだ
出展:『スピノザの診察室』P151〜152
病気を治すことだけにとどまらず、人が死するときでも、その人の幸せを案じているマチ先生。
こんなお医者様に看取ってもらえたら幸せだわ。
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