「平成」という時代を逆行していく物語
6編の短編が収められています。
それぞれ短編としても読み応えありますが、それぞれのお話が繋がっているのが連作短編集の楽しいところ。
さらに、この小説は、時代を逆行しているので、そうか、あの人の若い頃にはこんなエピソードがあったんだ、と分かるのもおもしろいです。
登場人物もつながっていて、小さなヒントがあちこちに散りばめられていて、発見が楽しい。
そんな仕掛けがたくさんある本です。
人生に迷ったり、はぐれたりした人のための案内所
仕事のこと、息子の進路のこと、結婚のこと…迷いのある人が鎌倉を歩いていると、ふっと迷い込む古い時計屋の地下にある案内所。
どの巻にも登場するのが鎌倉の「道案内」ではなく「人生に迷った人の案内所」にいる…双子のおじいさん、内巻きさんと外巻きさん、そして所長の…アンモナイト!!!
ここは、はぁ?とかじゃなくて、楽しみましょう、アンモナイト所長と甕覗きの儀をw
瓶覗(かめのぞき)というのは色の名前で、薄い薄いブルー。
そんな美しい瓶覗色の水を湛えた瓶の底に浮かぶのは…
蚊取り線香の巻 2019年
つむじの巻 2013年
巻きずしの巻 2007年
ト音記号の巻 2001年
花丸の巻 1995年
ソフトクリームの巻 1989年
どれも渦巻き模様の、ラッキーアイテム。
これらが、登場人物の迷いを払拭して、人生を良き方向に導いてくれるのです。
そして、困ったときのうずまきキャンディー お一人様一本限定の渦巻キャンディーをなめると不思議な事が起きて助けてくれます。
時代が逆行するプロットが楽しい連作短編集
第一話で登場する5人は後のお話にも登場します^^
出版社で働く早坂は、圧の強い上司が苦手。
フリーライターの乃木ちゃんはいつもキラキラしているのが羨ましくて自分も辞表を出したいと思いながらずるずると働いていました。
たまたま黒祖ロイドという小説家の写真を書庫に探しに行こうと休日出勤をしてみると、苦手な上司も出勤してて、探すのを手伝ってくれました。
お告げの蚊取り線香を焚きながら、書庫で初めてじっくりと上司と話す機会を持ち、自分が苦手意識を持っていた上司は、実はいい人だったことに気づくのでした。
恵まれていることに気づかず、上司に本気で向き合おうともせず、不平ばかりを口にしてた自分は、今までどれだけ身近に宝物があったのに無駄にしてきたことか、と反省し、辞職はしない、もっと積極的に仕事に食らいついていこう、とアグレッシブな方へ舵を切ったのでした…
いいお話♪
黒祖ロイドの知り合いの女優・紅珊瑚、有名劇作家の鮎川茂吉。
若くしてIT社長となった広中らが他の巻でも登場し、その若かりし頃が描かれていて、なるほど~となります。
時間が逆行して書いてあるので読み終わった時に、そう言う事だったのか、と。
散りばめられたモチーフが符合し、伏線回収されて気分がいい!
もう一度読み直すとなお楽しいです!
青山美智子さんの著書「お探しものは図書室まで」もじわっと心が温まるお話が収められた短編集でした。
図書館司書の小町さんのキャラがユニークでぐいぐい引き込まれました。
今回は、双子のおじいさんとアンモナイトがいる「鎌倉うずまき案内所」に行ってみたいです。
でも、この案内所には、人生に迷いがないと行けないようです。
「となりのトトロ」で、トトロに会いに行く小径が、いつも開いてないのと同じような感じです。
大人のメルヘンのような素敵な物語集。
オススメです!