happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【百田尚樹】分厚いけれどスイスイ読めた「野良犬の値段」 面白い!

1日で読んだしまった、という方も! 分厚いけどスイスイ読める面白さ

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 484(実質478)ページのボリュームのある本ですが、全く気にならない面白さでした。

 

<あらすじ>
突如としてネット上に現れた、謎の「誘拐サイト」。
<私たちが誘拐したのは以下の人物です>
という文言とともにサイトで公開されたのは、
6人のみすぼらしい男たちの名前と顔写真だった。
果たしてこれは事件なのかイタズラなのか。
そして写真の男たちは何者なのか。
半信半疑の警察、メディア、ネット住民たちを尻目に、
誘拐サイトは“驚くべき相手”に身代金を要求する――。
日本全体を巻き込む、かつてない「劇場型犯罪」が幕を開ける!

幻冬舎HPより引用

 誘拐事件は、警察にすら知らされず 犯人と家族や会社の間で秘密裏に交渉が行われることも多いですが…

 

この本の中の誘拐が「劇場型犯罪」とされているのは、「誘拐サイト」に犯人からのメッセージが投稿され、Twitterで毎日話題になる 衆人環視の中で交渉が進んでいくからですね。

ネタバレあります、ご注意ください

 

 

 

 

本は プロローグ、第一部、第二部、エピローグに分かれています。

プロローグでは、二十四時間営業の定食屋の店員が、「誘拐サイト」を見つける、導入部分。

「私たちはある人物を誘拐しました。この人物を使って実験をします。」(本文より引用)

コワイ。

実験とは?? 拷問?人体実験? それがわからないから怖い。

 

そして渋谷の雑踏の中に置かれた箱の中から出てきたものは

 

人間の頭部。

 

いつの間に、一体誰が置いたのか?

 

第一部は、誘拐犯らが、東光新聞、大和テレビ、常日新聞、JHK マスコミ4社に身代金を要求、その対応、交渉に腐心する上層部が描かれています。

 

第二部は、誘拐犯サイドの話。種明かし部分。

エピローグは、後日譚。

 

誘拐された男たち6人の顔と名前が誘拐サイトにUPされました。

身なりから、皆、ホームレス。

何故、男たちの身代金を払わねばならないのか、と犯人の要求を突っぱねる新聞社。

テレビ局も、ワイドショーで取り上げるけれどこのご時世

 

SNSで、犯人に同情するものも現れ、人道的にどうなのかとマスコミに冷たい目を向ける人たちも…

新聞社は、新聞の購読者が減っている、テレビはスポンサーの心象を悪くしたくない、かといってなんの落ち度もないのに、見ず知らずの男たちのために億単位の身代金を払う筋合いもない。

なかなかのジレンマ。頭を悩ます社長たち。

 

この辺の、マスコミの裏側が面白く描かれているのは、著者・百田尚樹さんが放送作家をされていて事情に詳しいからだと思いました。

朝のワイドショーで、コメンテーターがどこまで話すのか、台本には流れが書いてあって、そのラインでお願いします、と番組のスタンスは事前に決められているのだな~とわかったり興味深く読みました。

 

誘拐された人たちは、身分証明となる免許証や保険も切れている者ばかり。

唯一、高井田康は、免許証も有効で家もあり、車も持っていました。

 

誘拐事件ではなく、復讐のための恐喝事件

「誘拐された」ことになっている人たちは、誰かに誘拐されたのではなく、誘拐されたことにしようと決めた犯人グループでした。

 

自作自演。

 

元は、皆、それぞれ仕事を持っていたのに、ふとしたことと不運をきっかけにホームレスになった人たち。

冤罪であったのに、電車内での痴漢行為を新聞に書き立てられて職を失ったもの。

息子の暴力行為も捻り潰した新聞社の役員に恨みを持つ者。

なにかの理由でマスコミに恨みを持っている者たちがマスコミに復讐を決意。

 

車も免許証もマンションも持っていて、頭の切れる高井田を中心に、もとタクシー運転手、将棋の奨励会にいたことのある男、ITに詳しい男らが特技を活かして シナリオどおりに進めていきます。

 

緻密な計画。

存分に楽しませてもらいました。

 

犯人は頭の切れる人物だ、という刑事のセリフがありますが、頭が切れるのは、この本の著者である、百田尚樹さんって事ですよね!

 

プロローグのエピソードにほっこり

犯人とマスコミの交渉は「誘拐サイト」で行われていて、みんなが見守り、SNSを賑わしていましたが、

その裏でこっそり 身代金は払われました。

ダンボールにいれた億単位の現金を高井田のワンボックスカーに積み込ませて。

マスコミは、卑怯な犯人たちの要求を突っぱねた、と世間に思わせておいて、その実、裏取引で身代金を払いました。

 

後日譚。

癌で亡くなった松下、幼女暴行殺人の常習犯の仮名・田中(高井田が天誅を下しました)を除く4人で 定食屋を開いています。

誘拐事件担当していた鈴村刑事が、定年退職したよ、とふらりとやって来て。

 

ホームレス支援センターに匿名の寄付金が送りつけられるという事例が全国にあるそうだ、いい話を聞いたと。

 

おそらく全国のホームレス支援センターに現金を送ったのは高井田たち。

身代金として手に入れた現金を、自分たちのものにするのではなく、一人でも多くのホームレスのために、というところが 胸熱。

 

久しぶりに 百田尚樹さんの作品読みました。

今回は 著者が初めて手掛けたミステリー。

ミステリーも面白かったです!