happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【直木賞】馳星周著「少年と犬」を読むと犬がいっそう愛おしくなります♪

本日、本屋大賞2021 発表になりましたね。

ノミネート作品、発表までに1冊ぐらいは読みたかった…今年は1冊も読めてないです。

慌てて、図書館に予約しました。まぁのんびり待ちます。

馳星周氏の作品を読むのは初めてです

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 馳星周さんの本って、バイオレンス系? ハードボイルド? 暗黒小説?

なんだか私の好みの小説ではない気がして、読んだことはなかったのですが、この度、馳星周氏の著作「少年と犬」が直木賞を受賞されたとのこと。

読んでみました、馳星周さんです。

いつもの作風とは違う感じですね。

6章からなる、連作短編集です

一匹の犬の物語です。

男と犬

中垣和正は、コンビニの駐車場で首輪だけを付けたシェパードと和犬のミックスのような犬を見つけました。

東日本大震災の後の岩手。

きっと震災で飼い主とはぐれてしまったのだろうと連れて帰りました。

和正は、高校時代のワルの先輩から美味い仕事、と窃盗団の運転手を持ちかけられて、認知症の進んだ母と世話をする姉の為に引き受けました。

そんな時でも多聞という拾った犬を連れていくと、なんでもうまくいく気がしました。

窃盗団のミゲルからも この犬は守り神だ、譲ってくれ、と頼まれたけれど断りました。

ある日、窃盗の帰り路、車に突然の衝撃。

高校の先輩が暴力団に睨まれていて 暴力団は和正の車の横っ面に車をぶつけてきたのです。

遠のく意識の中で、ミゲルが多聞を連れて行く気配を感じたのでした…

泥棒と犬

ミゲルは、祖国で、幼い頃から姉と二人でゴミなどを漁りながら生活をしてきたという哀しい生い立ちの人物。

和正の犬、多聞を連れ、強奪したお金をスーツケースに詰め込んで 新潟から大陸に渡ろうとヒッチハイクで新潟港を目指していました。

ミゲルを拾ってくれた運転手は、新潟港に送ると言ってくれたが 中古車を手に入れたい、と業者のところへ行ったが… 何者かに殺されてしまいます。

死ぬ前に、多聞のリードを外し、自由にしてやったのでした。

夫婦と犬

男は山の中をトレイルランニング中に汚れて痩せた犬に出会いました。

車に乗せて連れ帰り、夫婦と1匹の生活が始まりました。

勝手なことばかりしている夫、夫を支える妻。

申し訳ないとわかっているのに、家のことも収入も妻頼み。

ある日、いつものようにトンバと名付けたその犬と山中を走っていると トンバがけたたましく吠えだしました。熊だ!

慌ててバランスを崩し 立て直そうとした時浮石を踏んで滑落して亡くなってしまいました。

犬は群れで生きる動物、飼い主が亡くなってしまった今、本当の群れを探すたびに出たのだ、と妻は悟ります。

娼婦と犬

女は、人を殺して埋めた帰り道、道路に横たわる犬を見つけました。

腿を損傷していて動けないようなので 動物病院に連れていき、その場でレオと名付けました。

彼氏の晴哉は、プロの博打打ちで、彼の借金を返済するために、いやいや体を売って稼いでいました。

が、ある時、晴哉が、若い女性とステーキ店でワインを飲んでデートしている所を見かけてしまいます。

裏切られた腹いせに晴哉を殺して山中に埋めてしまいました。

晴哉の借金を取り立てに 男が何度もやってきます、その男は、人殺しに使ったブルーシートを見た、と脅迫してきて…

自分が刑務所に入ったらこの犬はどうなるの??

好きなところに行きなさい、と逃してやります。

老人と犬

熊撃ち名人の老人・弥一は、末期の膵臓がんと知りながら、治療もせずに一人で暮らしていました。

彼の家の庭に痩せて汚れた犬が迷い込んで来ました。ノリツネ、と名付けて、一緒に暮らすことにしました。

犬が居てくれるだけで、癒やされ、痛みも和らぐようでした。

そんな時、村に熊が出た、熊を撃って欲しい、と猟友会の仲間がやってきました、が、病に侵された体ではとても無理、と弥一は断ります。

猟友会が丹波の名人という男に熊撃ちを頼んだものの、この男は名人でもないとんだ食わせ者で、熊を手負いにしただけで、仕留めることはできなかったのです。

老人は自分が行くしか無い、と悟り、猟友会のメンバーに熊を池に追い立ててくれ、自分は池で待つ、と一人池に向かいました。

重い体を引きずり、やっとの思いで着いた池には、自称・熊撃ち名人の男が先に到着しているようでした。

ノリツネが吠えました、熊か?と動いてバランスを崩し動いた時、発砲する音が…

自称熊撃ち名人が、熊と間違えて老人を撃ってしまったのでした…

倒れた弥一の目に真っ青な空が映り、自分はこうやって死ぬのだ、と悟ったのでした。

少年と犬

幼い頃、東日本大震災で被災した子供(光)は、地震の恐怖で心を閉ざしてしまいました。

両親は、光を連れて、熊本の古民家に移住しました。ある日軽トラの前に現れたのが、痩せて汚れた一匹の犬。

動物病院に連れて行くと、マイクロチップが埋められていて、飼い主は岩手県・釜石在住の出口春子さん、と判明しますが、連絡が取れません、地震で行方不明になられたかも知れない、と代わりに飼うことに。

犬を飼ったことで、心を閉ざし、口も聞かなかった光がしゃべるようになりました。

マイクロチップの登録から「多聞」という名前とわかり 多聞、と呼び始めてから。

多聞は、光の友達になりました。

そんなある日 熊本大震災が起きました。

東日本大震災を教訓に、高台に住んでいたので津波の心配はない、と家で寝ていたら大きな余震。古民家は揺れに耐えきれず、天井が落下、その下には光が…

光は無事でしたが、天井の板が折れて多聞の体に刺さっていました。

多聞は身を呈して光を守ったのでした、自分は瀕死の状態になったけれど…

もう、このあたりから、涙、涙で…

これだけの怪我を負ったら、安楽死させてあげたほうがいい、という獣医の勧めで多聞は静かに眠りにつきました。

 

多聞はどうやって岩手から熊本までやってきたのだろう?

光の父親がSNSで問いかけてみると、梅雨明けのある日 中垣麻由美と名乗る女性から連絡が来ました。

私の弟が、一時飼ってた犬だと思います、と。

一匹の犬の話が岩手を出発して熊本へ、そして岩手とつながりました

多聞は、いつも顔を南に向けていました。

自分が会いたい人が南にいるのだろう、多聞と出会った人は皆そう思い、そして死んでいきました。

 

多聞は、賢く、落ち着いていて、それでいて、出会ったどの人間とも家族にならず、一心に「誰か」を求めていた。

 

それが光だった、と最後にわかるのです。

もう、泣けて、泣けて…。

 

犬は大昔から、人間の相棒でした。

人の心の内を読む能力があると思います。

存在してくれているだけで、落ち着き、救われ、癒やされます。

 

読んでいて、亡くなった愛犬のことを思い出し、その暖かさ、柔らかさ、重みをもう一度この腕の中に感じたくなりました。

そして 今また 喪失感と、愛犬への感謝の気持ちがわき上がってきました。

 

多聞は、光少年を求めて 5年の歳月をかけて旅をしました。

 

 最期は、光と共に短いけど穏やかな日々が過ごせてよかった。

そして 光のために命を投げ出して本望だったのだと思います。

 

胸の奥がきゅ~んとなる小説でした。

 

難しいことも 複雑なプロットもないのにとても心揺さぶられる本でした。

直木賞受賞作、納得です!

 

熊本地震

光少年と家族に襲いかかった熊本地震。

5年前の今日、2016年4月14日、熊本を大きな地震が襲いました。

 

今日、偶然ニュースで見かけて…思い出しました。

 余震も大きく、300人近い方が命を落とされましたね、ご冥福をお祈りします。