happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【貫井徳郎】「罪と祈り」を読みました

貫井徳郎著 罪と祈りを読みました。

貫井徳郎さんの著作は、2010年に、「後悔と真実の色」を読みました。

 第23回山本周五郎賞受賞作でした。

f:id:kokoro-aozora:20200112235034j:plain

本の帯には、

貫井徳郎史上、最も切なく悲しい事件

元警察官の辰司が、隅田川で死んだ。当初は事故と思われたが、側頭部に殴られた痕がみつかった。真面目で正義感溢れる辰司が、なぜ殺されたのか?息子の亮輔と幼馴染みで刑事の賢剛は、死の謎を追い、賢剛の父・智士の自殺とのつながりを疑うが…。

隅田川で死んだふたり。そして、時代を揺るがした未解決誘拐事件の真相とは?辰司と智士、亮輔と賢剛、男たちの「絆」と「葛藤」を描く、儚くも哀しい、衝撃の長編ミステリー!

 BOOK テータベースより

 元警察官の父は何故死んだ?

息子たちが突き止める父親たちの秘密ーー

 

幼馴染の2人が それぞれに事件を追っていきます

この先、ネタバレありますのでご注意ください!

舞台は浅草、ずっと昔から変わらず 濃密な近所付き合いが続いている土地柄、というのも重要なポイントです。

ここで生まれ育った 亮輔と賢剛、2人は同じ年で兄弟のように育ってきました。

賢剛の父・智士は、賢剛が幼い頃に自殺したため、亮輔の父・辰司が 父親代わりになって面倒を見てきたのでした。

長じて、賢剛は、自分の面倒を見てくれた、優しくて正義感あふれる亮輔の父・辰司と同じ警察官になりました。

 

ある日、亮輔の父、辰司の水死体が隅田川の新大橋の橋脚に引っかかっていた状態で発見されました。事故かと思われたものの、遺体には 頭に殴られたような痕が…殺人事件!

偶然にも、管轄の久松署に賢剛が勤務していたので、賢剛と亮輔、それぞれが 何故 元警察官の濱仲辰司が殺されねばならなかったのかを追っていきます。

過去の一つの事件が、2つの家族、2人の息子を繋いでいました

浅草に長く住み、周辺の人達の生活に寄り添い、誰もが「正義感のある警察官」だと知られていた辰司が殺される理由とは?

亮輔は、父を亡くして初めて、父のことをよく知らなかった事に気づきました。父はどんな人物だったのか、ある時から、父の笑顔が消え、人が変わってしまった、との証言もありました。 

遺品を調べているうちに 30年前に世間を震撼させた誘拐事件のファイルや、ネグレクトで幼児死亡事件のファイルも。

父を知るために 父を知る人から話を聴くうちにこの誘拐事件と繋がりがあるのでは、と探っていく亮輔。警察官である賢剛もまた 濱仲辰司死亡事件を追ううちに…

と 真実を追うプロセスが面白く、472ページの大作ですが、あっと言う間に読めました。

バブルが落とした影、そして誘拐

バブルさえなければ…あの時、うまい汁を吸った人もいれば、人生を狂わされた人もいらっしゃいます。

身の丈に合わない大金を手にして家族を不幸にしてしまった知人の和俊。妻の比奈子は、心を病んでネグレクトから子供を死なせてしまい 自死します。

和俊も比奈子も浅草の出身で智士も辰司も知り合いでした。

すべて世の中が彼らをこんな目にあわせた、不動産業者が悪い、といささか短絡的な理由で 風土産業者社員の子供を誘拐することを計画したのです。

警察の辰司も仲間に加わったことで 警備が手薄になる 昭和天皇の「大喪の礼」(1989年2月24日)の前日に誘拐、身代金の受け取りは大喪の礼当日、になりました。

この特異な日がなければ、誘拐は成功しなかったのです。

小説を読んでいて、すっかり忘れていた 昭和の終焉の直前の自粛ムードや、日本中が天皇陛下の容態を固唾を呑んで見守っていた事を思い出しました。

あれから30年が経ったのですね…しみじみ。

世は平成から令和に代わり 新しい時代の幕開けを明るくお祝いした御代替わりは良かったな、と思いました。

亮輔と賢剛(息子) と 辰司と智士(父親)の章が交互に

共に浅草に住まい、幼馴染で親友であった 板前・芦原智士と警察官・濱仲辰司のこと、事件に手を染めていく過程と 彼らの息子 亮輔と賢剛の父親たちの秘密を探る過程が交互に描かれています。

賢剛の母ですら知り得なかった 賢剛の父の死の原因。家族ですらわからなかった 警察官・辰司の事件への関与。

真実に近づけば近づくほど、かつて尊敬したこと、父親には敵わない、と卑下した自分がバカバカしく哀しくなる亮輔。

賢剛も、警察官、という立場上、父親たちの真実を知ってしまって、公にすべきか 過去のことと秘匿したままにすべきか葛藤します。

父親たちの真実を知ることは 相当の覚悟がないと受け入れがたいことでした。

亮輔と賢剛、2人は事件に対する思いが正反対でした。

 

父たちの事件をどうするのか…今は 2人の友情を壊さないために、と 亮輔は浅草から出ていく決意をして 完。

切なく苦しい物語

根っこに、下町の密な人間関係があります。

家族以外の友人知人を 家族のように心配する環境の中で 30年前のバブル時代に地上げ屋が横行して それが遠因で亡くなった人もいました。

智士と辰司の知人の中にもそれで命を絶った女性がいて…

義憤にかられて 起こしてしまった事件。

いかなる理由があっても 誘拐は許されないし、罪は法廷で裁かれなければいけないのです。

だからこそ、父親たちの犯した罪を知らずに生きてきた 亮輔と剣豪は、真実をしりたい、謎を明かしたいと、真実に迫れば迫るほどに 苦しみや悲しみが増すというジレンマ。

真実を知ることがこんなに苦しいとは。

そして 亮輔は尊敬していた父の知られざる一面を知って 自分が今まで父に対する劣等感を抱いて生きてきた過去さえ否定され、二重の苦しみを味わうのでした。

救いのない 言いようのない悲しさが広がる読後感。

それでも 嫌な気分にはならず。

 

ひとつだけ疑問があるのですが。

 

警察官(派出所)って、自分の管轄の地域内に住んでいてもいいのかしら? 守秘義務とかあるので 近所の個人情報や人間関係がわかるので ダメなのかと思ってました。