happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【桐野夏生】「日没」読了|底しれぬ恐ろしさと息苦しさ

ディストピア小説=ユートピアの反対にあるオソロシイ世界

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あなたの書いたものは、良い小説ですか、悪い小説ですか。小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は―。
BOOKデータベースより

新聞の広告に出てたので、面白そう…と読んでみました。

底しれぬ恐怖がじわじわ来ます。

狂気か正気か、誰も…そして、自分をも信じられなくなる怖さ

第一章 召喚

第二章 生活

第三章 混乱

第四章 転向

の4つの章から成っています。

が、召喚と生活で作品の7割近くのページを割いています。

 

ある日、「総務省文化局 文化文芸倫理向上委員会」通称・ブンリンから「召喚状 B98 号」という書状が届きました。

以前ブンリンから審議会に出席してほしいという願い書が届いたので、顔見知りの作家・成田麟一に相談すると、捨てちまいなさい、とアドバイスされ、捨ててしまったら、呼び出されてしまいました。

指定の駅にブンリンのお迎えが来ていて、「療養所」まで車で1時間ほどかかると言う。

連れて行かれたところは 断崖絶壁に立つサナトリウムのような古い建物。

人の気配もなく 名ばかりの「売店」にはホコリのかかったお菓子などが置いてあるが…トイレットペーパーは一巻150円。

食事の時間には、呼び出されたら食べに行くことができるが 療養所にいる人間は、全員同じ服を着て、帽子を被らされていて、会話禁止。

食事もカウンターで一方方向を向いて食べ、隣の人とは仕切りで仕切られていて顔も見えず、付添が部屋へと連れて行くので全く自由がない。

廊下や部屋に監視カメラ。

部屋には湿気た布団とベッド、小学校にあるような机と椅子、Wifiは当然ないし電波も届かないので電話もできず、スマホを充電するコンセントすら無い。しかも照明は暗い。

食事内容は粗末で常に空腹を意識している…

 

主人公のマッツ夢井は官能的な小説を書いていたのでブンリンに問題視されたようです。

この施設に、問題のある作品を書く作家を集めて「更生」させているようなのです。

 

反抗的態度を取ると減点され 減点1で1週間の滞在延期。

歯向かうと鎮静剤の注射を打たれて拘束服を着せられ、地下の真っ暗な部屋に閉じ込められる…

 

効能不明の薬剤を毎日数種類飲まされて意識朦朧、夢と現実の境も曖昧になり、生きる気力を奪われる人も。

おぉコワ。

 

マッツ夢井は、必ず外の世界へ戻る、と抗うのです。

誰も信用してはならない

断崖絶壁に建つ療養所。

散歩の時間にふらり、と崖から身を投げた作家も多いらしい。

自ら身を投げたくなるよう、追い詰めてくるブンリン。

この療養所の刑務所より自由のない生活、粗末な食事が未来永劫続くことを思えば 死んだほうがマシ、と精神的にも消耗していくのです。

 

マッツもついに拘束服を着て、ベッドに縛られる日が来ました。

時間もわからず、ただ生かされているだけの状態。なんと辛いことでしょう。

 

そんな時、こっそり甘い言葉をかけてくれる看護師と職員。

 

絶対に信じてはならない、という思いと、このチャンスに賭けてみなければ外へ出るチャンスは一生こない、という思い。

激しい葛藤の中で、決断したのは やはり「助けてあげる」という言葉の甘い響きでした。

ラスト15行は、校了直前に加筆されたのだそう

東洋経済オンライン「桐野夏生が「日没」に記す、社会に充ち満ちる怪異」を読んでみました。

なんと、ラスト15行は、校了直前に加筆されたのだそうです。

この15行で私の気持ちは…奈落の底へ orz

ラスト15行あるのとないのとでは 180度変わってきます。

最後に著者に絶望の淵に立っている私の背中を押された感じがして…

読み終わった日は、いろいろ考えて眠れませんでしたw

今また、作家を取り巻く現状は息苦しさを増しているのか?

昔、「チャタレイ夫人の恋人」という小説がわいせつ文書として発禁になったことはよく知られていますね。

この小説に出てくる「ブンリン」の言う、悪い小説、ということですね。

 

海外には、言論の自由、表現の自由がない国がありますが、ありがたいことに、日本には、言論の自由があります。

自由と言っても、非道徳的な内容、倫理的観念の無い作品は出版できないでしょう。

 

「何となく自粛ムードを感じることはあります。危ういテーマは、(出版社は)いい顔をしない」(東洋経済オンラインより)

ネットなどで、個人的感想を述べやすくなっているので 炎上を恐れて、とんがった内容は敬遠されるのでしょうね。

 

それでも、桐野夏生さんはおっしゃいます。

小説とは、言葉を使って想像する芸術

あぁ、かっこいい。

そのとおりだと思います。