⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【成田名璃子】『今日は心のおそうじ日和』ラスト周辺で一気に盛り上がります!

初めて読んだ『東京すみっこごはん』の温かい作風に惹かれて、成田名璃子さんの作品を読みたい、と、

以前図書館で『今日は心のおそうじ日和2』を借りて読んでしまいました。

 

今回、『今日は心のおそうじ日和』の1にあたる方を読みました。

 

 

「2」では、主人公の平沢涼子は、離婚して9歳の娘の美空(みく)と作家の山丘周三郎先生は同居していましたが、

 

初刊の方では、離婚の経緯や元夫のこと、作家の山丘先生の家族のことなどが描かれていて、なるほど、と納得。

 

「2」を読むには、この初巻の「基本情報」があって初めて色濃くなるのだな…と。

やはり順番に読まなくちゃね!

 

Amazon★4.2     ★5=49%

 

6章からなる小説です、第四章が胸熱

プロローグ

第一章 家政婦はじめました

第二章 それぞれの掃除

第三章 ネムノキは揺れている

第四章 みんなの家事

エピローグ

 

プロローグは、離婚届に判子を押す場面から。

その短い1章の中に、元夫の高圧的で恩着せがましい感じがにじみ出ています。

 

第一章 家政婦はじめました

涼子は33歳の若さで離婚、9歳の娘を連れて実家に身を寄せることになりました。

 

実家では兄夫婦が同居していて、甥っ子たちもいます。

兄嫁の柑菜(かんな)さんは35歳、バリバリのキャリアウーマン。

 

朝のバタバタが終わったら家の中にいるのは、両親と涼子だけ。

そんな水入らずの時間に父から知り合いが家事が得意な住み込みの家政婦を探している、と仕事の話が…^^

 

父の知り合いとは、前年に妻の柚子さんを亡くした小説家の山丘周三郎、無口で仏頂面で取り付く島もなくひねくれた感じ。

 

面接はクリアしたものの、今まで3人の家政婦に逃げられているというのも納得の山丘とのやり取りは、緊張を強いられ、やりにくいったらこの上ない。

 

学校が終わったらやってくる美空が潤滑油になっています。

 

山丘は一人住まいで家の中は荒れ放題、家事が得意な家政婦を探しているのも頷けます。

家事が得意な涼子の腕の見せどころです^^

 

ある日、実家で兄嫁の柑菜さんと涼子の兄との会話を聞いてしまい、涼子の存在を煙たがっていると察します。

涼子は「なるべく早くこの家を出ていくから。」と兄に伝えたものの…うまくいく自信はなかった。

 

第二章 それぞれの掃除

ネットで山丘のプロフィールを調べてみると、

「世界中に熱烈なファンを持つ数少ない日本人作家の一人」

「ノーベル文学賞候補者発表の待ち会など行われることで有名」

…思った以上に高名な小説家だと知ります。村上春樹さん並。

 

山丘家の2階の閉ざされた部屋、そこは女の子の部屋、でした。

先生には香乃ちゃんという女の子がいたんですね…9歳で亡くなってしまったけれど。

 

山丘は、奥さんが無くなってから小説を書けなくなってしまいました。

 

気分転換に、と先生を仏壇と仏間の掃除に誘う涼子。

 

実は先生は行き詰まるたびに、掃除をしていたことを告白しました。

 

心がモヤモヤした時、無心にお掃除をしているとスッキリするのは、だれでも経験があるのではないでしょうか。

 

第三章 ネムノキは揺れている

奥様を亡くした後、執筆できなくなってしまった先生に、自分とのお散歩日記を書いてみない?という美空の提案に

角山書店で山丘担当の編集者、川谷くんも大賛成!

小説でなくてもエッセイから始めたら…?

美空ちゃんと散歩して、見たまま感じたままに書いていただけたら、と背中を押します。

 

山丘、川谷、涼子、美空でお散歩。

美空が入りたいという緑道を、先生は頑なに拒否。

そこで偶然山丘の知り合いの女性・栗山さんに出会います。

奥さんが亡くなられる前はよく緑道を二人で散歩していたのだとか。

 

先生は、奥様のことを思い出すのが辛くて緑道を避けていたんですね…

 

緑道入口に一本のネムノキがそびえていました。

ネムノキは、夜になると葉を閉じる(就眠運動)という特徴を持つ木。

それを聞いて、美空は、山丘をネムノキになぞらえて、先生も就眠運動中だね、と言います。

 

子供に痛い所を突かれて、先生にスイッチが入ったようでした。

 

季節は移ろい、夏物の服を取りに涼子は夫と暮らした家に戻ると…そこへ、夫に頼まれて浮気相手の宮園理菜がカフスボタンを取りに来て鉢合わせ。

 

バリバリのキャリアウーマンの理菜に対し、誰にも認められず、褒められない専業主婦の自分…涼子は呆然とするのでした。

 

そんな時、散歩で出会った栗山さんが山丘の家にやってきて…

柚子さんと仲の良かった栗山さんは、涼子を後妻業の人間では?と疑っていたようです。

 

誤解も解け、栗山さんのお嬢さんに家事を教えること、山丘家に住み込みで働くことも勧められます。

 

先生は、涼子・美空とのお散歩を題材にエッセイを書き始めました。

執筆再開のお祝いに編集の川谷と4人で外食。

 

先生は、緑道に入る、と宣言、

だから、涼子にも、家事のプロとして自分を誇るのだ、と勇気づけてくれました。

 

先生は、ネムノキに「おまえは、朝がくればちゃんと目を覚ますから偉い」と声をかけます、もう二度と目を覚まさない、娘や妻のことを思っているのでしょう。

 

そのとき、美空が「先生は緑道に入れたから偉いよ」とポツリ。

その一言が先生の心の琴線に触れたようでした…

 

第四章 みんなの家事

栗山さんの娘さんの幸ちゃんと幼馴染の夏音ちゃんが涼子の家事教室の第一回の生徒さん。

幸ちゃんは、イヤイヤ、というのが丸出しで挑戦的、夏音ちゃんは、家事に苦手意識があり、盛り上がらない講義でした。

家事大好きな涼子が熱弁を振るっても、家事嫌い、家事苦手な二人との意識の差はすごく大きいのです。凹む涼子。

 

そんな時、元夫と財産分与の件で話し合いの場がもたれました。

弁護士を付けて一方的に書類を渡され…尻尾を巻いて逃げ帰るという体。

 

結婚後すぐに涼子を貶め始めた夫は、その後もあからさまに働く女性を褒め、かといって、パートに出ることを許しはしない(謎)。

 

今思えば、許すも何も、誰にも迷惑をかけないのなら自分の意思で自分のことを決めていいはず。

なのに、元夫の要は、涼子が働くことを良しとせず、涼子を馬鹿にする、嫌なモラハラ男だわ。

 

家事しかできない「ダメな人間」という烙印を押す夫が涼子の自尊心を傷つけ、自信をなくさせ、卑屈にさせる。

涼子は萎縮して夫のことが怖くなる…そして夫は浮気。

 

読者の胸のうちにドロドロしたものが溜まってきます。

 

山丘担当の編集者・川谷さんが家事のノウハウ本を書きませんか、と勧めてきました。

 

家事が大事とか大事でないとかではなく、生きることの一部だ、と説く涼子を

栗山さんちの幸ちゃんが馬鹿にしてきました。

でも、もうその態度に萎縮する涼子はいません。

 

2度目の元夫との財産分与の話し合いでも、

二度と私の選んだ生活を侮辱したり、自分の生活力にかこつけて親権を奪おうなんておもわないで、

と、毅然と言い放つことが出来ました。

 

養ってやったのに、という元夫。

それを言うなら、涼子も家事をしてやったのに、ですよね。

家事や子育てをすべて外注すると莫大なお金がかかるってことを知らないのね。

 

「離婚してくれて、ありがとう」

ふふっ!胸の溜飲が下がるわ〜!!

 

家事レッスンの原稿を川谷さんに渡し、ついたタイトルが『みんなの家事』。

 

男の料理、なんていう本もありますが、

男女を超えて、家事をするすべてのひとに対する応援歌のような本に、という願いがこもっています。

 

そして、家事グッズでたくさんの特許をもつ主婦・伊丹景子さんがムック本を同日に出す関係で「刊行記念トークショー」の相手に指名してもらえたのですっ!

 

エピローグ

トークショーは立ち見もでる盛況で、本の購入者へのサイン会も行われました。

そこに本を持って現れたのが宮園理菜でした。

 

サイン会と二次会の間に宮園と話すことになりました。

 

彼女は元夫の要と別れたこと、家事をして子育てをしている幸せそうな涼子に嫉妬心もあった、と告白しました。

 

離婚で心折れた日から、ひとりの女性として自信を取り戻す姿が素敵♪

子供を抱え、仕事もしていない、自分にできるのは家事だけ、という不安な涼子が、

山丘家で家政婦をして、周囲の人との関わりの中で、どんどん自分を取り戻し、

自信を取り戻していく姿が眩しいです。

 

最初の自信無げで、卑下しがちな涼子が、自然体でいられて、言いたいことをはっきりと言えるようになっていく様はすてきなドラマです。

 

家事は女性がするもの、という固定観念はもう捨てる時代です。

 

実際、洗濯王子や家事王子という男性も登場する時代、そのスキルの高さに驚かされます。

 

ジェンダーレスな時代ですから、家事に男も女も関係ないですし

自分の身の回りを整えることは、心も整いますから、

家事を「雑用」と蔑む夫は、こちらから蔑んでやればいい(笑)

 

ぐずぐずとした前半から、蛹が蝶々に変身するかのような涼子、後半の盛り上がりが胸熱です。

 

あとがきを読むと…

著者の成田名璃子さん自身、家事が嫌い嫌い、大嫌いな人間だったそうです。

最低限で済ませよう、と考えるタイプだった、と。

 

夫の転勤で群馬に移り住み、妊娠中でなにもできなかった

 

その間に、家事について考え、この作品が生まれたのかな、と。

 

人生というのは時間そのものだ、といつかのあとがきでも書いた覚えがあるのですが、この不公平な世界の中で、時間だけは誰にでも平等に流れています。それをどのように使うのか、どんな気分で過ごすのか、私達は、自分の世界の真ん中に立って、自分で決めることができます。

出典:今日は心のおそうじ日和 P282 

 

自分の意思が自分の物語を動かしていく、自分をしっかりと持っていたいですね♪

 

この物物語のなかで、角山書店の谷川さんが、とてもいい味を出しています。

ナイスサブキャラ、です^^