happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【小川糸】温かい心と優しい言葉が満ちている|ライオンのおやつ 読了

本屋大賞2021の発表が来月に迫っています。

この作品、小川糸著「ライオンのおやつ」は、2020年の本屋大賞2位の作品です。

グランプリは凪良ゆう著「流浪の月」でした。

 

f:id:kokoro-aozora:20210311012523j:plain

人生の最後に食べたいおやつは何ですか――若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた――食べて、生きて、この世から旅立つ。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。

Amazon HPより引用

 

初めてこの本のタイトルを聞いた時、どういう内容か見当もつかず、「ライオンのおやつ? それって美味しいの?」って感じでした。

 

「ライオンの家」と言うのは、瀬戸内の小島にあるホスピスの名前なんですね。

 

地元の人が「レモン島」と呼ぶその島に、海野雫は手荷物一つで降り立ちました。

「ライオンの家」の代表の通称マドンナさんが、迎えに来てくれていて、「ライオンの家」まで 「ドイツから取り寄せた最新式カーゴバイク」をこいで運んでくれます。

 

なんというほのぼのとした光景。人力なんですよ~。

普通ならワンボックスカーで運転手さんがお迎えに行きそうな感じですが。

 

ホスピスは、隠れ家ホテルのように素敵で、窓いっぱいに海が広がっていて、眼下には、レモンの実をつけた木が。

それが、表紙絵になっているんですね。

ボートには、白い犬と女の子、これは雫とホスピスにいる犬・六花(ロッカ)でしょうか。

 

穏やかな時間が流れている ライオンの家

残された時間を幸せに過ごす場所だから、もう病と闘わなくてもいいのです。

我慢しないで やりたいことをして、やりたくないことはしない、自然体で生きる。

 

百獣の王、ライオンは、敵に襲われる心配もないので 安心してのんびりと食べたり寝たりしています。

雫たち終末期のゲストはみんなライオンなんだ、と雫は気づきました。

ライオンの家のスタッフは 快適に生活を送れるようにサポートしてくれます。

朝食はお粥、と決まっていて 毎日違う味のお粥が心も体も温めて、滋養が体に行き渡る…。

ここの件を読んだら、私も毎朝お粥にしようかしら、と思ったほど。

 

タイトルになっている おやつのエピソードも興味深い

「おやつ」の時間は、毎週日曜日にあります。

自分が食べたいおやつと、その思い出のエピソードを書いて箱の中に入れておくと、スタッフが作ってくれるのです。

いつ自分の書いたおやつが選ばれるかはわかりません。

が、選ばれたら、書かれているおやつにまつわるエピソードをマドンナが読み上げて、みんなで頂きます。

 

カヌレ、豆花(トウファ)、アップルパイ、牡丹餅、ミルクレープ、レーズンサンド…

人生がそのおやつに投影されていると思うと おやつ、と言っても深いです。

 

雫のリクエストは、ミルクレープでした。

小学生の時に、お父さんの誕生日に 初めてお菓子作りに挑戦してミルクレープを作ってあげた話を マドンナさんは読み上げてくれました。

 

おやつを出してもらっても、だんだん食べられなくなっていって、ただ見ているだけになってしまうのですが…。

 

「誰もが自分の蒔いた種を育て、刈り取って、それを収穫します」とマドンナさんがおやつの時間に言いました。

 

そう、だから、良い種をいっぱい蒔いておきたいですね。

人生のハーベストタイムに、どれだけ収穫できるか、豊かな、実りある日々を送れるか。

それは、お金や物質だけではないと思っています。

 

短く儚い恋があってよかったね、雫ちゃん

雫の両親は雫が小さい時に事故で亡くなり、母の双子の弟が育ててくれました。

戸籍上は叔父だけど、お父さん。

お父さんがたったひとりの肉親でしたが、ある日 お父さんから、結婚しようと思っている人がいると打ち明けられ衝撃を受けました。

父が自分以外に愛している人がいることを受け入れられず家を出て、一人暮らしを始め…それ以来ずっとひとりで頑張ってきた雫。

病気には薄々気づいていたけれど 放置していたら 気づけばステージIV。

荷物も全部処分して、父にも知らせず「ライオンの家」に。まだ33歳。

 

でも、人生の最後にタヒチ(田陽地)くんとの出会いがありました。

彼は、ぶどうの栽培に力を入れていて、いつかこの島の特産ワインを作りたい、と言う夢を持って頑張っています。

軽トラックに雫を載せて、配達に行ったり海を見に連れてくれたり 小さな島をドライブして楽しませてくれました。

淡い恋心が芽生えそうだけど、自分の命が長くないから と自制してしまう雫が切ないです。

リアルな最期の日々

雫が、どんどん弱っていく様子も、しっかり描かれています。

亡くなる前は、こんなふうになっていくんだ、という様子がリアルに。

ターミナルケアを受けていた亡き母の最期と被りました。

 

自力で立つこともままならなくなり、だんだんと思考力もなくなってきて、寝てるような起きているような、状態。

あっちの世界とこっちの世界を行ったり来たりしているんですね。

 

父と、結婚相手の間に出来た妹・梢が会いに来てくれても、声を発することすら難しく、ため息のような声で、一音一音発する様子が痛々しくて もう頑張らなくていいよ、と言ってあげたくなりました。

 

雫の部屋に、事故で若くして亡くなったお母さんや六花の前の飼い主の夏ちゃんも会いに来てくれて。

お迎えなのかしら? やっぱりお迎えくるのかな?

 

 

雫の死後から3日のエピソードに涙が止まらない

1日目 お父さんの家族

雫は、死んだあとのこともすべてライオンの家に託していたので、お父さんたちは亡くなったことを連絡で聞くだけでした。

でも、その晩、食卓を囲んでお鍋を食べる時に 雫は来ていました。

お父さんが雫用の器に野菜などを取り分けて…

梢ちゃんには、見えていました、きっとお父さんも口には出さなかったけど見えていたのかもしれません。

口に出した途端に消えてしまったら嫌だから。

2日目 ライオンの家のマドンナさんの言葉

人生というのは、一本のろうそくに似ていると思います。

ろうそく自身は自分で火をつけられないし、自ら火を消すこともできません。

一度火が灯ったら、自然の流れに逆らわず、燃え尽きて消えるのを待つしかないんです。 中略

 

生きることは、誰かの光になること。自分自身の命をすり減らすことで、他の誰かの光になる。

そうやって、お互いにお互いを照らしあっているのですね。

ライオンのおやつ 249ページより

 なんだか、この文章を読んで 泣けてきて… 胸がじわり温かくなりました。

3日目 タヒチくんと雫の約束

雫の生前、死んだら私に手を振ってね、と頼まれたタヒチくん。

いつどこで?

あの世へ旅立って三日目の夕方、ビーチに来て、と。

今、ちょうどその時だ、六花とビーチに来たタヒチくんは「元気でな!」と手を振ると、タヒチのマフラーが風に飛ばされて踊っていて…

雫がからかって マフラーで遊んでいるかのようでした。

 

空を見上げると光の群れが太陽に向かって吸い込まれていきました。

雫は光になって、旅立っていったのです。

 

生前、生みの親とも生き別れ、育ての父の幸せのために一人暮らしをして、あまり多くの人間関係を持ってなかった雫だけれど

人生の最期に、とても優しい人達と穏やかな日々を送れてよかったね、と我が事のように嬉しいです。

 

ろうそくのたとえではないですが、人間生まれてきた以上、いつかは死にます。

 

突然襲ってくることもあれば、じわじわと歩み寄ってくることもあるけれど、もし許されるなら、雫のように、自分が納得できる形で 最高のサポートを受けながら ろうそくの火がフッと消えるように死ねたらいいな、って だいぶ先かもしれないし 近いうちかもしれないけど そう思いました。

 

死を身近に感じた作品ですが 読後感爽やか!

これが 本屋大賞グランプリでもよかったぐらいです。