⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【直木賞受賞】千早茜著『しろがねの葉』|石見銀山を舞台に一人の女性の生き様を描ききった秀作

いや〜、読みごたえありました!!

 

最初から最後まで銀掘りの山に生きる「ウメ」の壮絶な人生。

 

千早茜さんの作品は初めてですが、筆力申し分なし♪

 

 

Amazon★4.3 ★5=61%

 

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!

新潮社HPより引用

 

⚠️ネタバレあります、ご注意ください

 

 

 

生まれつき夜目が利くので鬼娘などと呼ばれていた少女・ウメは、夜逃げの両親とはぐれ、山でひとり、ヘビノネゴザというシダを手に眠っていたところを山師の喜兵衛に拾われます。

 

作中にでてくるヘビノネゴザは、ストーリーのキーポイントとなる架空の植物かと思っていたら、

重金属を含む土壌を好んで生えている実在のシダだそうです。

鉱脈の近くに生えているので、昔から鉱夫にはよく知られた植物。

 

一人者の喜兵衛は幼いウメを弟子のように育て、知恵を授けました。

ウメもまた、喜兵衛を慕い、下働きをし、奇妙な同居は続きます。

 

夜目が利くので女だてらに男たちと間歩(まぶ、坑道)に入って銀掘りをしていたウメにやがて初潮が訪れます。

 

間歩に入ることを禁ぜられ、男と肩を並べて銀を掘ることに誇りを持っていたウメは落胆し、女性であることを悔しがります。

 

「女性になった」ことで、喜兵衛から同居が「重荷」になった、と言われてしまうウメ。

 

喜兵衛は、山師として仙ノ山(石見銀山)の鉱脈をたくさん知っていましたが、幕府の管理下におかれることになり、自由に掘ることもままならなくなりました。

 

自分の山師としての矜持を持てなくなった喜兵衛は、やる気が失せ酒に溺れて…

 

体格がよく、ウメを肩に載せてがっしがっしと歩き、大声で銀掘りの衆に怒鳴る姿は見る影もなくなりますが、ウメの心の中にはずっと出会ったときの喜兵衛が生き続けていました。

 

幼馴染の隼人と3人の子を生しても、ウメと言う人間を内側から支えていたのは喜兵衛だったんですね。

 

夫の隼人はそれが面白くないけれど、喜兵衛にはかなわない、と一抹の寂しさを感じながらも一途にウメを想う、切ない。

 

銀掘りの宿命である気絶え(塵肺)で苦しむ隼人を生生しく描いていて、読むのが辛い場面もあります。

 

銀掘りの様子が活写され、シルバーラッシュに湧く銀山の様子がありありと脳裏に浮かび、興味深く読みました。

 

2007年に世界遺産に登録された石見銀山。

 

鉱山遺跡というのは見たことがないのですが、『しろがねの葉』を読んで、俄然興味が湧きました。

 

機会があれば行ってみたいです。

石見銀山に行ったことがある方は、この本をもっと深く楽しめると思います。

 

以前読んだ直木賞受賞作、今村翔吾著『塞王の楯』を読んだときのような感動を覚えました。

 

『塞王の楯』は、戦国時代の石工たちが戦のさなか、石垣を組み上げて行く様子が脳内でありありと映像化される楽しさがありました。

 

『しろがねの葉』もまた、銀掘り職人や村の生活などを読まされました。

 

銀掘りの汗の匂い、螺灯(栄螺の殻に油をいれて灯すあかり)の煤や岩の塵のザラつき、女郎のおしろいの香り、肺を病んだ者が吐く血の匂い…などのドロドロしたものから

 

空の色、風のそよぎ、真冬の川の切れるような寒さ、濃い影を落とす夏の日…自然の描写が美しく、生々しさとは対局を描いて この対比がお見事。

 

気性が激しく野生児のようだったウメの過酷な生涯を見守って一緒に生きた気になって…ちょっと疲れました^^;

 

いつかまた読み直したい作品です。