⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

齋藤彩著『母という呪縛 娘という牢獄』|教育虐待が招いた悲しい結末

これが実話だなんて…読んでいて本当に苦しかった

 

殺人事件、とりわけ尊属殺人は、被害者である親、祖父母などに同情が集まりがちです。

 

人を殺すことは絶対にあってはいけないことですが、こと、この著書の元になっている事件、

 

滋賀医科大学生母親殺害事件」に関しては、犯罪を犯してしまったあかり(仮名)に同情せずにはいられません。

 

尊属殺人でも一番軽い懲役10年になったのは、あまりにも酷い教育虐待が認められ、嘆願書なども考慮されてのことなのでしょう。

 

2023年3月に起きた、「元九州大学生両親殺害事件」を思い出さされました。

父親の酷い教育虐待から殺意が芽生えたといい、遺族から嘆願書も出されましたが、懲役24年。

 

いかに、滋賀医大生の母親の仕打ちがひどかったか…刑期にあらわれているように思いました。

 

 

Amazon★4.5 ★5=71% 2022年12月16日

 

常軌を逸した母親の行動

母と娘――20代中盤まで、風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった二人の間に、何があったのか。
公判を取材しつづけた記者が、拘置所のあかりと面会を重ね、刑務所移送後も膨大な量の往復書簡を交わすことによって紡ぎだす真実の物語。
獄中であかりは、多くの「母」や同囚との対話を重ね、接見した父のひと言に心を奪われた。そのことが、あかりに多くの気づきをもたらした。
一審で無表情のまま尋問を受けたあかりは、二審の被告人尋問で、こらえきれず大粒の涙をこぼした――。
殺人事件の背景にある母娘の相克に迫った第一級のノンフィクション。

引用元:講談社HP

 

「出版元の講談社ホームページの内容紹介に20代中盤まで、風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった二人の間に何があったのか」

と内容紹介文にあったので、読むまでは、「一卵性親子」のような共依存の仲良しさんから関係が変化していったのかと思っていましたが、さにあらず!!

 

「風呂にも一緒に入る」、は、あかりが自ら一緒に入っていたのではなく、

娘を監視するため」に、母が一緒にお風呂に入ることを強要していたからです。

 

異様な親子関係。

 

成年女性が無理やり母とお風呂に入らされる屈辱はいかばかりか。

 

お風呂上がりには、母親に全身マッサージもさせられていました。

 

そして、母親の折檻に無抵抗。金属パイプで殴られても抵抗せずでした。

 

小さな子どもが親の虐待に合うのは、力がないからですが、

この事件ではあかりは、高校にも通っていたし、大学にも進学していた「いい大人」だったのに、それほどまでに母親が恐ろしかったのでしょうか。

 

大人なのに…抵抗できなかったのが、ここまで母親を暴走させてしまったのかもしれません。

 

母を殺した晩、「モンスターを倒した、これで一安心だ」とあかりはネットでつぶやいています。

 

母親にスマホを取り上げられ、こっそり別のスマホを持っていたことがバレて、母はそのスマホにコンクリートブロックを叩きつけて壊しました。

夜中の3時、庭で土下座させられるあかり。

 

その時、あかりの心も壊れたのだ、と書かれています。

 

母親は暴力だけでなく、言葉の暴力も凄まじく

さらに、自由を奪い、人権蹂躙も甚だしいのです。

 

ガンガンに罵倒され、何度も琵琶湖の橋の上から飛び降りようと思ったようです。

暗い湖面が怖くてできなかったけれど、

母の行動はかなりあかりを追い詰めていたようです。

 

進学の意思のない学部を受験させられて…成績が悪いと罵詈雑言。

無理やり「がんばる」と言わせて、成績がわるいと暴力。

ひどすぎます。

 

LINEの記録が残っているのですが、こんなLINEが送られてきたら読む気もしない酷さ。

それに丁寧語で返信して、平謝りのあかりに泣けます。

 

これはメンタル殺られる件。

 

母親は、父親にも暴言を吐くので、父は仕事を理由に別居していました。

ますます母と子の密な時間が積み重なっていきます。

 

もし父が同居していたなら、もしあかりに兄弟姉妹がいたら…ここまでひどくはならなかったかもしれません。

 

人目がないから、誰も注意する人がいないからどんどんエスカレートしていったのでしょう。

 

目次だけでも6ページにわたっています


序章 面会の日
「第三者」の面会申請
アイスブレイク
母の呪縛から逃れたい


第1章 懲役一五年
黄色い物体
母と娘のLINE――2017/10/18(1)
証言の矛盾
母と娘のLINE――2017/10/18(2)
浴室で解体しました
母と娘のメール――2017/12/24
「殺人」を認定した判決


第2章 モンスターを倒した
一転した供述
「そのとき」が来た
控訴審での告白
なぜ話す気になったのか


第3章 母と娘
湖畔の街
交錯する長針と短針
「透明な膜」の中で
父が家を出た


第4章 詰問、罵倒、蒸し返し
「アメばあ」
薬缶の熱湯を浴びせられ
ブラック・ジャックになりたい


第5章 医学部目指して
「人の上に立つ職業に」
狭き門、高きハードル
棄権できないレース


第6章 「娘は合格しました」
蜃気楼
偏差値一〇ポイント分のお仕置き
「肉親再会」
お母さんに回し蹴りされた
合格したって言いなさい
総絞りの振袖
「寮に住ませてください」


第7章 九年の浪人生活
二〇歳になれば
血文字の反省文
母の自殺未遂
一〇〇万円を持って脱出
あかりの置手紙――二〇一三年一二月
トンネルの出口
合格と解放


第8章 助産師になりなさい
二七歳の新入生
やっと普通の母娘に
また約束を破りやがって!
母に提出した始末書
深夜三時の土下座


第9章 黄色いコップ
母と娘のLINE
母のいない人生を生きる
三七〇メートル先の遺体
身元発覚
あなたは嘘を言っている
否認の法廷


第10章 家族だから
殺人容疑
父との面会
もう嘘をつくのはやめよう
雑居房の同囚
私が殺しました
判決を聞いて気持ちが変わった
罪の涙


終章 二度目の囚人
刑務所の日常
ひんやりとした親しみ

 

人としてやってはいけないことをしてしまったけれど

あかりは、幼い時に幸せなこともあったようです。

 

が、物心ついてからというもの精神的に抑圧され、自由を奪われて成長しました。

もし、もっと温かい家庭に生まれていたら、こんな事件を起こさなかったでしょう。

 

母はいつもあかりや夫を馬鹿にし、近所の公立高校に通う学生すら馬鹿にしていました。

母はどこの大学を出てたのかしら?

 

人間の尊厳を踏みにじってくる母のいいなりになるしかなかったことが不憫ですが

こうなる前に、他に方法はなかったのか、と残念です。

 

30余年の人生のうち、母の支配下にあった20年以上の日々。

でも、これからの人生の方がずっと長いです。

 

幸いに、お父さんは娘を全面的にサポートする、とおっしゃっています。

 

受刑期間が終わったら、今度こそ、自由に心の赴くままに生きて欲しいです。

母親には本人が全く望んでいない道に進まされましたが、

あかりは学生時代から小説を書いましたし(母親に見つかって叱られたが)、文才がありそうなので、手記や小説を出されるかもしれません。

 

著者・齋藤彩さんの地道な取材と書簡によりできた本

2020年12月、勾留中の被疑者に面会に行った著者。

面会に行く、といっても、かなりハードルが高く、緊張するものなのだ、と本著を読んで知りました。

 

大阪拘置所の控訴審が結審したことにあたって、というあかりの書いた文章を読んで、著者は拘置所に出向きました。

 

初回の面会以降、7回の面会と往復書簡により、あかりの心情、母と娘の生活の詳細が明らかになりました。

 

あかり了解の上での書籍化。

この本は、自分と、母殺しをしてしまったあかりとの合作だ、と著者。

 

亡くなられたお母さんのご冥福をいのりつつ、これからのあかりさんの人生に幸多かれと祈ります。