⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【本屋大賞2位】安壇美緒著『ラブカは静かに弓を持つ』

安壇美緒さんは、初めての作家さんでしたが、いい作品でした

2023年本屋大賞第2位

第6回未来屋小説大賞第1位

第25回大藪春彦賞を受賞

第44回吉川英治文学新人賞ノミネート

 

『小説すばる』連載を加筆し単行本化。

Amazon★4.4 ★5=63%

 

昨秋、新聞広告で見て、ビビッと来て図書館に予約していました

チェロを弾く青年とその後ろに気味の悪い鮫か深海魚が泳いでいるのが印象的な表紙。

 

孤独な青年・橘は、上司からの命令で音楽教室に潜入調査へ。

チェロ講師・浅葉の生徒となるが、彼の演奏に魅了され…

『ラブカは静かに弓を持つ』本の帯より

 

ここで言う弓は、チェロを弾くための弓、です。

 

ラブカってなんだろう?と検索したら、深海(1000メートル)に生息する鮫だそうです。

読み進むに連れて、タイトルになるほど…と納得します。

 

音楽教室著作権裁判をモデルにした小説です。

ヤマハとJASRACの訴訟は知っていましたが、JASRAC職員がヤマハの音楽教室にスパイとして潜入調査をしていたことはこの度初めて知りました。

 

潜入捜査員の葛藤を鮮やかに描ききっています。

 

JASRAC職員・橘と、チェロ講師の浅葉との交流は読まされます

主人公のJASRACの職員・橘樹には、何かトラウマがあるようで、チェロを見るのも触るのもつらい…そのせいで悪夢にうなされてクリニックに通うほどでした。

 

そんな彼に上司から業務命令。

入社面接にチェロが弾けると書いたためにミカサ音楽教室にJASRACが著作権を持っている楽曲が演奏されていないか、を調べに行けと。

 

生徒となって音楽教室調べる期間は2年間

橘は25歳、講師の浅葉は27歳。

 

ハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽院卒。

浅葉桜太郎のプロフィールはそれだけ。

コンクール歴も、どこかの楽団に所属していた経歴もありません。

 

でも若くしてハンガリーに留学までしているのだから相当の腕の持ち主だろうと察せられますが、彼の師匠のハンス先生の生き方を信奉しているようです。

 

橘は身分を隠して音楽教室のチェロ教室の生徒になり、浅葉の元で指導を受けます。

そこでの二人の会話や演奏を、ボールペン型録音機で録音するのが彼の目的でした。

 

クラシックは著作権が切れているので、わざとポップスを弾いてみたい、と申し出ると、生徒である橘に聴かせるため浅葉は模範演奏をしてくれました。

録音機は音も立てずに仕事をしていました。

 

2年もの間、周囲の人たちを欺き続けるのは、良心の呵責に耐えかねるのでは、と思うのですが…

 

同じ音楽教室に仲間ができ、浅葉との交流も深まった頃には、裁判で証言台に立つ日も近づいて来ました。

 

辞めると言い出せない橘がようやく意を決して辞めると言った日。

サインをください、と浅葉に頼むと、サインペンがないから、と橘の胸元のボールペンを引き抜いた時。

 

ペンとともに胸ポケットから転がりでたのは、JASRACの社章。

 

バレた。

 

息詰まる展開に、ページを繰る手止まらず!

 

2年もの間、心の交流を続けて、仲間だと思っていた人間から裏切られたら…

2年もの間、良くしてくれた恩師を裏切り続けてきた苦しみ…

 

二人の苦しみを思うと胸が痛いです。

 

橘は、自分の2年間の仕事をご破算にした

すべてのデータを消して、退職の道をえらんだ橘。

これは会社から、背任として責任を問われる行いですが…。

 

橘以外にも潜入捜査をしていた女性職員がいたことが判明。

彼女が法廷に経つことになりました。

 

これは、実際にあったお話…事実は小説より奇なり、と言う通り。

 

彼女は、潜入調査に「抜擢された」と張り切り、調査も上司の命令、と割り切っていました。

 

橘は、浅葉とも、彼の教え子仲間との交流もあって、いつかまたあの場所に戻りたい、と割り切れなかった。

自分の行いにけじめを付けたのでしょう。

 

浅葉の選曲にドキリ、「戦慄きのラブカ」

練習曲は「戦慄きのラブカ」、スパイ映画のテーマ曲らしい。

まさに、今スパイ行為を働いている橘は、なにかバレているのでは?とドキドキ。

 

ラブカは深海魚で深く深く潜行する、だからスパイ映画の主題曲のタイトルになったのでしょう。

 

我が身になぞらえる橘は、行くたびに気が気でない、神経をすり減らす仕事を黙々とこなしていました。

 

スパイといえば007、ジェームズ・ボンド、イコールかっこいい、みたいなイメージがありますが、

スパイというのは、周りを騙して周囲に溶け込まなければいけません。

誰にも…家族にも気づかれては行けない孤独な仕事。

 

楽しく周囲の人たちと交流できないのは辛いですね。

信頼関係を築いてはいけないから。

 

それにしても…浅葉桜太郎のキャラが立っていて。

セリフ回しも二人の会話もとても自然で読んでいて楽しいです。

 

乗り越えていく橘

一度は自らが崩した信頼関係ですが、チェロ仲間は驚いたものの温かく見守ってくれていました。

 

チェロ講師の浅葉は、信頼関係を取り戻すには、前と同じだけの時間がかかるのだと言いつつ、また受け入れて、

チェロ教室再入会しました、講師はもちろん浅葉先生で。

 

自分の人生のなかでチェロ講師は浅葉桜太郎ただ1人。

 

浅葉が、リストフェレンツ音楽院のハンス先生をずっと慕っているように。

 

読みながら心配していた、崩れた信頼関係をきちんと結び直せてホッとしました。

 

ずっとトラウマになっていた「チェロ教室の帰りの誘拐未遂」の恐怖からも逃れられて、ようやくチェロにきちんと向き合えるようになった橘。

 

今度こそ、本当に弾きたかった曲、バッハの「無伴奏チェロ組曲」に挑戦する。

漸く、本当の自分を出せた橘の未来に栄光あれ!

 

チェロを弾くのは無理でも、チェロのCDを聴きたくなりました

浅葉がチェロの弾き方を指導する場面が素敵で…

技術よりイメージで弾く事を勧めます。

 

『戦慄きのラブカ』や『雨の日の迷路』の曲のイメージを描く安壇美緒さんの文章が秀逸。

 

本当にあったら聴いてみたい。

 

なんでもいい、チェロの音色を聴きたくなります。

今なら、なんでもYou Tubeで聴けますね。

あれ、著作権どうなっているのかな?

…と、急に著作権が気になったワタクシでした^^

 

ヨーヨー・マさん(フランス出身のチェリスト)のCDが家の中にあるから探して聴いてみよう…

 

『ラブカは静かに弓を持つ』、読み応え十分、おすすめです!