芥川賞作家、綿矢りささんの著作を初めて読みました
『蹴りたい背中』で2003年、第130回芥川龍之介賞を受賞されました。
初々しく可愛くて、鮮明に覚えています。
当時まだ学生で、芥川賞の最年少受賞記録を更新した綿矢りささん。
あれから21年、結婚して一児の母となられた今も順調に執筆を続けられていますね。
がっ! そんな綿矢りささんの著作を読むのは初めてで、作風なども全く知らずに読み始めましたが、面白かったです!
⚠️ネタバレあります、未読の方はご注意ください。
ちょっとブラック味のあるお話が4編おさめられています。
Amazon★4.1 ★5=54% 2022年7月26日
眼帯のミニーマウス
主人公は子供の頃にミッキーマウスとミニーマウスを買ってもらって以来ミニーマウスが大好きな山﨑りな。
母が作ったミニーマウスの服を着て有頂天。
もともと二重まぶたなのに、もっときれいな二重にする、と整形して、
眼帯をしてミニーマウスのような服で大学に行くと、とても目立ってりなは大満足でした。
大学卒業後地元に帰ってきても整形を諦めず、ますますルッキズムに支配され「美」への執着は増しているようでした。
同僚のくっくるー(鳩山)、yummy係長(上山)、 ムーニートラップ(仁村)、パクパクさん(先輩)との会話がいきいきとして笑えます。
同僚は、嫌味な感じで整形についてあれこれいってくるのですが、毒をもって毒を制す、という感じ(笑)
文体は、りなの口調で、ちょっと荒っぽく今風JK風で面白いです。
「誰よりも目立ちつつ、誰よりも正体不明でいられたあの安らぎを、もう一度人ごみのなかで味わいたい。」(出典:P67より)
あのやすらぎ、とは、顔面整形したと言って顔に包帯をぐるぐる巻きにしたときの、包帯で守られている感。
神田タ(カンダタ)
あの、芥川龍之介著『蜘蛛の糸』にでてくる「カンダタ」とYou Tuberの神田をかけたタイトル。
立ち食い寿司屋につとめる、愛称・ぽやんちゃんは、You Tuber・神田のファン。
熱心にコメントし、時には熱く褒め、時には厳しくダメ出しもして、神田に認識されることを願い、神田からのコメント返しを待っていました。
ある日、ぽやんちゃんのバイトの系列店に神田が来店したのを知り、応援、と偽って神田が来店しているお店にヘルプで入り、耳をダンボにして会話の断片を拾っていると…
ぽやんちゃんのコメントにいいねをしてくれていたのは、神田自身ではなくスタッフのナガセPだったことがわかりました。神田はコメントを読んですらいない!
怒りに震えるぽやんちゃん。
コメント欄炎上を収束したいナガセPに「嫌なら観なきゃいいのに」と開き直った神田。
このご時世 嫌なら観るな、は禁句、と叱られる。
アンチは警告かブロックだ、と言うナガセPが
「ひどいアンチはマッシュなんとかっていうアカウント」、という言葉がぽやんちゃんの耳にはいりました。
ぽやんちゃんのアカウントです!
アンチコメントしてくる地獄のウゾウムゾウも結局は地獄の仲間みたいなもんだよ。後ろ振り向いて、”お前らは来るな!”って言ったとたんに上へ昇っていくためのか細い蜘蛛の糸なんかすぐに切れちゃうんだよ。だからおれは決して後ろを振り向かず、天を見上げて高みを目指すのだ!
出典:『嫌いなら呼ぶなよ』P99
自分をウゾウムゾウと言われたことに激しいいらだちを覚えたぽやんちゃんは…とんでもないことをしでかしてしまいます。
警察沙汰にならなくてすんだものの、お店を辞めてしまった。
たくさんのアンチコメントを送っていたので開示請求されないかと怯えてもいました。
You Tubeにコメントを書くうちに、リアコ(リアル恋人)になっていたのではない、神田のクリエイティビティに惚れ込んでいたのに、とラストでひとりごちるぽやんちゃん。
ぽやんちゃん、リアコではないにしてもかなり粘着質でアブナイ性格だわ…
嫌いなら呼ぶなよ
霜月楓の一番の親友・森内(旧姓・羽村)家の新築パーティにご招待された霜月夫妻。
もう一組、友人の千尋と年の離れた夫、河原家も招かれていて、3組の夫婦が揃いました。
お庭でバーベキューをひとしきり食べて、歓談したあとは、2階にあがりましょう、と大人だけ2階に移動。
霜月一誠は、わけもわからず皆について2階へあがると…
「霜月さん、不倫してるんだってね」開口一番、森内が言いました。
はい、スタート!!
新築祝いのパーティを装った、霜月一誠の不倫を糾弾する会。
奥さん(楓)について、のこのこ新築パーティに出かけて行ったら…こわ〜〜 ^^;
「口先だけでごまかして、嘘を暴かれたらぺらっと謝って、あなたには人の心がないの?」
と詰問されて
素直に、事実ですし、と言うと、
「こわ。初め不倫じゃないって言い張ってたときの偉そうな態度と全然違って、今はしいおらしく被害者ヅラするんだね」
ついに離婚届まで出てきて…
子どもの頃や学生時代は、嫌いなら家に呼ばなかった。
だが、楓や友人の森内、河原はウェルカム!と招き入れ、中には入れば、よってたかってボコボコにして、最後に追い出すように釈放する。
で、タイトルが「嫌いなら呼ぶなよ」
ただ、霜月一誠は、現在進行系の不倫をしており、理由なく森内家に招待されたのではなく、
「糾弾する」為に家に呼ばれたので、好き嫌い関係ないんですけどね^^;
老は害で若も輩
作家、ライター、出版社の若造の3者のメール形式の章。
作家の名前が著者の「綿矢りさ」になっているのが興味深いです。
作家とライターがそれぞれ自分の立ち場を主張して譲らず。
やがて、高みの見物をしいていた出版社の若い担当者にイライラの矛先が向かいます…。
作家とライターの喧嘩を傍観する出版社の内田は、
「俺はモメごとが嫌いなんだ、全てをナァナァで済ませて滞りなく仕事を終えたいんだ、それがそんなにダメなことなのか?」(出典:『嫌いなら呼ぶなよ』P202)
(笑)
漏電でブレーカーが落ちた真っ暗な部屋で、寝落ちしてしまった内田がスリープ状態のパソコンを再起動させてみてびっくり!!
綿矢様、シャトル蘭様…で始まるメールが浮かび上がりました。
「この世界で長い経験を積まれたお二人にご教授いただき、自らの青二才ぶりにたただただ恥じ入るばかりでございます。」(出典:『嫌いなら呼ぶなよ』P202)
殊勝な書き出しで始まったメール、
途中から言葉が荒っぽくなって…
「おどしたり説教したり芸術ヤクザこのボケ、そんなはったり通用すると思うのかボケ《中略》誌面に載せられるものを渡せ。」 (出典:『嫌いなら呼ぶなよ』P202)
最後は命令口調。
締めのひとことは…ババア死ね ← この本の最後のことば
うわ〜、本音全開!!!
やっちまった〜、とは思ってないでしょう、しょーがねーな、ぐらいかも(笑)
綿矢りささんのほかの小説はどのような作品なのか、いつか読んでみたいと思います。