happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【恒川光太郎】「草祭」読了しました|ノスタルジック妖怪ファンタジー

大人のファンタジー 恒川ワールド全開で楽しみました!

恒川光太郎さんの作品は、2作目なんですが、以前読んだ「夜市」が面白くて!

 

久しぶりに恒川ワールドを堪能しました^^

ファンタジーホラーと言うジャンルですが、あまりオドロオドロしくなく、大人のおとぎ話、民話のような独特の世界。

 

2008年度 山本周五郎賞候補作。

 

 

「千と千尋の神隠し」のような、どこかにぽっかり異世界への入り口があって、何かの拍子に迷い込んでしまう、

現実と地続きの、ありそうで無さそうなお話5編。

どのお話も「美奥」と言う土地つながりです。

 

ふとした拍子に迷い込んでしまう異世界は、

「となりのトトロ」や「不思議の国のアリス」もそうですし、大好きな絵本「めっきらもっきらどぉんどん」も。

夢だけど…夢じゃなかった!

 

5つの物語が収められています

⚠ネタバレしてます、ご注意ください

 

 

 

けものはら

主人公・雄也は、小学校5年の時に隣町の小学校の生徒たちと遊んでいた時に、友人の椎野春と2人、不思議な野原に迷い込みました。

そこには不気味な黒い人型の霧があり腐臭を放って追いかけて来て…無我夢中で逃げてなんとか家にたどり着いたのでした…までが前日譚。

 

中学3年の初夏のある日、椎野春が失踪しました。

雄也は、春は以前2人で迷い込んだ野原にいるという確信めいた思いがあり、野原に行くとやはり春は…黒い霧になりかかっていて…

 

図書館の郷土資料コーナーで見つけた「美奥の民間伝承」という本には「化生岩・けものはら」の記述が。

けものはらで注連縄のある大岩に触れたものは獣に変化してしまう、と。

椎野春もまた…

屋根猩猩

猩猩(しょうじょう)とは、オランウータンの別名、または、オランウータンのような想像上の生き物、能の演目のひとつ。このお話では、お酒の好きな妖怪説を採用。

ここで、けものはらに名前が出てきた持田雄也と佐藤愛、藤岡美和が登場します。

 

幼い頃、「私」は美奥公民館の近くで知り合った男の子が「夜になると獅子舞が屋根の上を通り過ぎていく」と言うのを聞きました。

私も「獅子舞になりたい」と言うと「予約を入れておいてあげるよ」、彼は言いました。

私=藤岡美和が高校からの帰り道、中学生ぐらいの男の子(タカヒロ)と出会います。

タカヒロは、村の守り神、困った人を助けるのが仕事でした。

藤岡美和は、クラスの女子グループから嫌がらせを受けていて…タカヒロは頼みもしないのに 彼女らにその報復をしてくれました。

 

幼い頃、祭りの日に知り合った男の子が「予約を入れて」くれたので、美和に順番が来ました。

タカヒロの代わりに今度は美和が守り神になって、村人の役にたちたい、と思うのでした。

 

くさのゆめがたり

遥か昔(いつの時代かは不明)、私は山歩きの達人の叔父と歩いていると、禁断の神薬「クサナギ」を作るのに使われる花、「オロチバナ」の咲く高原に出ました。

私は山奥の庵で叔父の飲むお酒に毒を入れたので叔父は亡くなってしまいました。

ある日リンドウという僧侶が迷いこんで来たので読経してもらい叔父を土に埋めました。

そしてリンドウに付いて山を下りて、春沢の村のお寺に住まい、薬を売り歩きました。

山賊が村を襲った時、私(天狗の子でテンと呼ばれていた)は、井戸や瓶の中に毒を入れたので、山賊は死んで、違う動物に転生しました。

「私」はクサナギを作りだしたのでした。

春沢というその村の祭りの日に「私」は酒樽や大井戸にクサナギを入れました。

みんな、別の動物に転生してしまい、村は廃れて、いつかは森に呑み込まれていくのでしょう…

 

天化(てんげ)の宿

夏。夫婦喧嘩の絶えない家を抜け出した「私=望月ゆうか」は廃屋の裏の杉の下に使われてない線路が埋まっていることに気づきました。

その線路沿いに…森の奥深くへと進んでいきました。

森の奥で出会った双子の少年の家は不思議な古民家で、おばさんは、ゆうかを見て、丘の上の望月さんの娘さんね、と名乗る前に言い当てました。

そして「クトキ=苦解き」を勧めるのでした…

苦解き盤とカードを使って「天化(てんげ)」というゲームをすることで苦るしみを浄化するようです。

ただのゲームではなく、頭の中も魂も囚われていく不思議なゲーム。

リアル危険なゲーム、映画「ジュマンジ」のボードゲームを思い出しながら読んでました。

ある日、父が迎えに来たようで、物陰から聞いていると…父も「天化」をしたことがあるみたいです。

ゆうかは、ほんの4日家に帰っていなかっただけだと思っていたのに、半年が経過しているようでした。ここは浦島太郎のような世界観。

「天化」で苦しみを解いた人間は数少ない、苦しみを解いたところにあるのは「死」

ゆうかは天化の最中に、手持ちの札を放り投げて親分のもとから必死で駆け出しました、

いつしか季節は冬になっていました。

朝の朧町(おぼろまち)

事故で右手に力が入らなくなった美奥出身の長船さんの家に私(香奈枝)が居候を始めて4年。

身の回りの世話をしています。

長船さんは、子供の頃、美奥であった不思議な話をしてくれるのでノートに書き留めていました。

昔、兄は納屋の床いっぱいにジオラマで街を作っていたと、長船さんの妹は言っていました。

長船さんは「町を持っている」、と言います、その町を見に、夜更けの菜の花畑を歩いていくと朝方に到着。

高校2年から、50歳になる今まで、街を作り続けている長船さん。

小さな駅で「天化の宿」に登場した双子と親分に出会いました^^

美奥へ帰るという3人は、どこからともなく現れたトロッコに乗り、森へと消えました。

千と千尋の神隠しに出てくる列車のような、不確かなトロッコ電車。

 

長船さんは、街の病院に入院しました。

そこで、街が封じ込められているガラスの玉を香奈枝に渡しました、これからは君が持っていて欲しい、と。

玉は手のひらから、するりと香奈枝の身体に吸い込まれました…

 

治らない病を得た長船さんは自分の創造した街で、蔵においてあったの甕の「くさなぎ」を飲んで亡くなりました、そして ニホンカモシカに転生して、森へと消えていきました。

 

ある日、香奈枝はトロッコ列車が停まっていました、美奥に行く、と双子と一緒にいたおじさんが話していたトロッコ。

振り返ると街はなく、視界いっぱいに巨大なガラスの球体が広がっていました。

 

ここで謎。

我が子と思しき5歳の愛ちゃんと添い寝をする香奈枝ですが…誰の子でしょうか?

冒頭の添い寝の場面とラストシーンにしか登場しないのですが…?

亡くなった夫・透との間の子ならば、長船さんとの生活に登場してても良いはずなのに…

 

ホラーと言っても恐怖ではない、ファンタジー色強め

冒頭にも書きましたが、童話のようで、ちょっと懐かしいノスタルジックな世界です。

「千と千尋の神隠し」や「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪は、人間を怖がらせたりしますが、殺しに来たりはしませんね。

本作も、薄気味悪い物の怪が出てきますが、大丈夫^^;

懐かしさを覚える描写がとても好きです。