『そして、バトンは渡された』で 2019年の本屋大賞を受賞された瀬尾まいこさんの作品、『掬えば手には』を読みました。
Amazon★4.3 ★5=55%
本の内容
大学生の梨木匠は平凡なことがずっと悩みだったが、中学3年のときに、エスパーのように人の心を読めるという特殊な能力に気づいた。ところが、バイト先で出会った常盤さんは、匠に心を開いてくれない。常盤さんは辛い秘密を抱えていたのだった。だれもが涙せずにはいられない、切なく暖かい物語。
引用元:講談社HP
主人公の梨木匠は、子供の頃から何をやっても「フツー」の目立たない存在の自分に悩んでいました。
父親はカメラマン、母はバイオリニスト、姉はアメリカ留学中、才能のある家族の中で、何も秀でたものがない匠は、自分の名前を恥じるほどでした。
(実は内情は、写真店で働いてたり、音楽教室で講師をしていたりなのですが…)
中学3年の時に転校生の女の子がとても気後れして萎縮しているのを見て、心の声が聞こえたように感じ、助け舟を出すと…彼女は皆の中へ一歩踏み出したのでした
高校時代にも、同じように友達の困った様子を見て、友人を助けることができました。
みんなからはエスパー、と呼ばれていて、これこそがやっと見つけた自分の才能だ、と確信しています。
大学進学後も人助けのために特殊能力を使っている匠。
そんな匠の自負を打ち砕くかのように、
アルバイト先に入ってきた看護学校に通う常磐さんの心の声が全く聞こえない。
でも違う声は聞こえる…この声は一体??
匠の日常と、全く人を寄せ付けないそっけない態度の常磐さんの秘密が描かれています。
真面目と笑いが絶妙のさじ加減!!
どけ、ぼんくら
のろいんだよ。ボケが
今日の客、ぶすばっかだったな
だらだら食うやつとか、死ねばいいのに
…店長の大竹がこんな調子だからバイトが1週間ともたない、オムライス店NONNA。
素直じゃなくて嫌味な大竹さんが、梨木の言葉に、「お…おぉ」とたまに「素」を見せて怯むところが面白いです。
怖いけれど、実は温かいところもあって、そこはキュンポイント^^
照れくさいから隠しているだけなのかもw
人の心を読むのが得意な匠にも心の内を見せない鉄分厚いシャッター下ろしまくりの常磐さんと距離を縮めたい、と奮闘しているある日、
常磐さんの学生時代の友人2人がオムライス店に来て…彼女の過去が少しだけわかりました。
常盤さんは何も語らないけれど、「誰かの声」が匠には聞こえます。
ここから先はネタバレになるので自粛しますが、常盤さんは、重たい過去をひきずって生きていました。
世界で唯一、「その声」が聞こえる匠が常盤さんに伝えることで、彼女は新しい一歩を踏み出せたようです。
大学の友人は「普通の何がだめなの?」 なんでもそつなくこなせるっていいじゃん、と言ってくれるのに
匠はいつも「フツー」だから、と自分を卑下しているけれど。
人にはそれぞれ、個性があり「普通の人」なんていないのに、
一番多い似たようなタイプにカテゴライズされる人を普通というのかな。
たまたま匠の父がサラリーマンではなく、カメラマンで、母が会社員やパートのおばちゃんでなく、バイオリンを演ってたことが彼に焦りを植え付けたのもあり、
親も、匠の中に眠る才能を掘り起こそうと躍起になったのも、匠の劣等感を育ててしまったのかな、と思いました。
中学時代、転校してきて教室に入れなかった女の子・河野さんが言いました。
写真を見ても、バイオリンの演奏を聴いても、教室には入れなかったと思う、
匠が行動を起こしてくれたから、教室に入れた、と。
カメラマンでなくてもバイオリニストでなくても、人を感動させたり、勇気づけることはできるのだ、と匠の心の重石を取り除いてくれたのでした。
バイトを辞める常盤さんの送別会の帰り
「大竹さんのお店みたいに、いい人とまた出会えたらいいんですけど」
「出会えるどころか、大竹さんよりひどい人はいないから」
出典:『掬えば手には』P244
笑わされるw
初回限定の『掬えば手には アフターデイ』が最高!
文庫本サイズで8ページ、初回限定で後日譚が書かれた別刷りが付いています。
すごく面白いので、初版本を置いている図書館で借りて読んでみてください。
これがもう、抱腹絶倒! 声出して笑いながら読みました。
小説本編と違い、こちらは、バイトが一週間経たないうちに辞めていくオムライス店NONNAの店長の語りが書かれています。
これが面白すぎてwww
真面目で一生懸命な梨木くんと、
口の悪いヤンキー崩れの店長と、
常磐さんの後に入ってきたちょっとハスッパな女の子北條さんのキャラ設定が面白い!!
図太い鈍感な女設定の北條さんは「マジで?」「うわ、やばい」と今風の女の子w
玉ねぎのみじん切りが粗い、と注意されても、たまに大きいのが入っている方が歯ざわりがいい、とか平然と返せる子^^
生き生きとした会話で、登場人物のキャラが立っています。
後日譚も、笑った後に温かい気持ちになれて…やっぱり瀬尾まいこさんの作品、好きだわ^^
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