ファン・ゴッホの人生と作品は人を惹きつける魅力がある
昔、朝日新聞の別刷りの日曜版の表紙が、名画で彩られていた頃がありました。
ルノワールやドガ、ロートレックなど、それぞれの画家の特徴を知って楽しんでいました。
当時、ゴッホの独特の絵の具の使い方が余り好きではなく、ふんわりと柔らかいルノワールが好きだったんですが。
今は、なぜか、力強い筆使い、絵の具使いの、ゴッホの作品に魅了されています。
子供の頃に、自分で耳を切り落としたゴッホ、と聞いた時に観た絵は、「アルルの跳ね橋」でした。
怖かったけれど、今は、その壮絶な人生に思いを馳せると、早すぎて世間に受け入れられなかった才能と早すぎた死…惜しまれてなりません。
「たゆたえども沈まず」を読み、ゴッホの人生は齧っていました
原田マハさんの「たゆたえども沈まず」は、ゴッホと弟・テオの人生をパリ在住の日本人画商・林忠正が動かしていく物語です。
ゴッホとゴーギャンがアルルのゴッホの家で共同制作をしたことも、前作で知っていました。
今回は、ゴーギャンとゴッホの関係性も深く掘り下げられていて、ミステリーの要素が強く、面白かったです!
⚠ネタバレあります、ご注意下さい!
ゴッホの死は自殺ではなく、他殺?ゴッホを撃ち抜いた拳銃にまつわる謎
いや~ 読まされました!!
分厚い本なのに、もう、先が気になって止まらない!!
高遠冴が働くパリの弱小オークション会社CDCに、サラと名乗る女性が一丁の錆だらけの拳銃を持ち込みます。
これは、ゴッホが自殺に使った拳銃だというのです。
確認の為、冴は、以前、ファン・ゴッホの自殺に使われた拳銃が展示されていたというゴッホの故郷、オランダ・アムステルダムのファン・ゴッホ美術館のキュレーター アデルホイダ・エイケンを訪ねていくのですが…
アデルホイダは、サラが持ち込んだ拳銃は、以前展示していた拳銃ではない、と断定しました。
サラが持ち込んだ拳銃(リボルバー)は、一体何なのか?
ここから、息をも吐かせぬ展開がっ!!
ゴッホの情熱とゴーギャンの打算
南仏・アルルでの共同制作を希望していたゴッホの誘いにのったのはゴーギャン。
ゴッホの弟のテオが厚遇で、共同制作のためのアルル行きを提示したため、お金に困っていたゴーギャンは、気乗りしないまま、アルルに向かいました。
最初は利害が一致したウィンウィンの関係でしたが…
2ヶ月が過ぎた頃、ゴーギャンは、2人の生活に耐えられなくなり、もう出ていく!と荷物をまとめて出てく彼を追っていった時、ゴーギャンはゴッホに銃口を向けた時 ゴッホは自らの左耳を切り落としたのでした。
ゴッホは、感情が高ぶると何をしでかすかわからない人だったようです。
ゴーギャンがいつか自分の元を去る時、自分が彼に何をしでかすかわからないから、ゴーギャンに護身用のリボルバーを送って欲しい、と弟テオに頼みます。
弾は一発だけこめて。
だが、ゴーギャンには、弾が入ってない、と言って送ってくれ、と。
ここ、原田マハさんの創作だと思うのですが、これがサラが持っていた「ゴーギャンの」リボルバーなんですね。
歴史を覆すリボルバーは、ゴッホを撃ち抜いたリボルバーだった…
美術史研究家らが「ゴッホは自殺した」と結論づけているのに、他殺だった、とするサラ、彼女の出自は…
ゴーギャンが愛した、マルキーズ諸島のヒバオア島のヴァエホ、その末裔がサラでした。
ゴーギャンとリボルバーの秘密は代々一子相伝のように伝えられてきたのでした。
ゴーギャンは、ゴッホの前で、死ぬのも怖くない、とテオから預かったリボルバーで狂言自殺をしてみせようとしました。ゴーギャンは、弾が入ってないと思って。
が、ゴッホは弾が入っているのを知っていたので、止めようともみ合いになった時に、発砲され、脇腹に銃弾を打ち込まれたのだ・・・
結局、サラの話は、事実であると証明できるものがないので、オークションテーブルに上げることはできませんでした。
サラの先祖から伝わる「ゴーギャンの」リボルバーは、昔祖母が埋めた、オーヴェールのポプラ並木の入り口の木の根本の地中深くに 再びサラが埋めたのでした。
現在は「ゴッホは狂人」というゴッホ像は否定されているそう
それどころか、母国語の他に、フランス語、英語、ラテン語にも通じ、文章力の素晴らしさは天才的、と言われています。
弟テオへ送った膨大な手紙は、芸術的遺産として保存、研究されているのだとか。
ゴッホは自傷行為癖のある人だったのでしょう。
とても繊細な人だったようで、傷つきやすく、気分の波も激しかったのかもしれません。
ショッキングな「耳切事件」のせいで狂人扱いされていましたが 本当は天才だったファン・ゴッホ。
ファン・ゴッホの作品は、今や世界中の人から愛され、高値で落札されていることを、タイムマシンがあれば、ゴッホに伝えに行きたいです。
生前は、絵が売れず、どん底で孤独を味わいながら弟の支援を受けて生活していたゴッホ、現在のことを知ったらどれほど驚き喜ぶでしょう。
ゴッホがうつ病を患っていなかったら、もっとのんびりした性格だったら、もっと豊かな暮らしができていたなら…どうなっていたのか。
考えても詮無いことですが、惜しいな、と思います。
一丁のリボルバーに秘められたゴッホとゴーギャンの過去と真実
本作の中では、ゴーギャンがゴッホを撃って死なせた、ということになっています。
確かに、脇腹に銃弾を打ち込んで自殺する人はいないですね。
側頭部に撃ち込みます。
サラの言い分が正しいようにも思えてきます。
自傷行為をするゴッホだから、脅かすつもり、同情を引くつもり、注目を集めるつもりでやったのが、傷が深く、本当の命取りになったのかもしれません。
弟に迷惑をかけ続けていて、キャンバス代、絵の具代が滞るのを一番恐れていたのです。
そういうことから 解放してあげたい、自分も解放されたいとおもったのかしら?
小説の中に、「ゴーギャンの独白」の章があり、ゴーギャンの目からみたフィンセント・ファン・ゴッホが興味深いです。
いろんな伏線が回収されてスッキリします。
最終ページに、
ゴッホが使ったリボルバーは、16万ユーロ(2千万円)で落札された。
の一文に、現実に引き戻されました。
原田マハさん、巧いな~、これから原田マハさんの本、止められないです!!
昨年兵庫県立美術館のゴッホ展を観てきました
「たゆたえども沈まず」を読んで、ゴッホに興味を持ち、観に行きました。
兵庫県立美術館 特別展「ゴッホ展」ハーグ、そしてパリ。ゴッホへの道
会期は2020年1月25日(土)-3月29日(日)でしたが、3月4日から3月31日までコロナで閉館してしまい、涙を飲んだ方も多いと思います。
私も、「コートールド美術館展」のチケット、払い戻しになってしまい、コロナがなければ観れたのに…と悔しい思いをしました。
ゴッホのことを詳しく知れば知るほど、見応えがあるので、また見たくなってきました。
8月に、ポーラ美術館コレクション展を見ましたが、そちらにもゴッホとゴーギャンの作品が出ていました。
もっと作品が描かれた時代に詳しければ、感じ方も違っただろう、と少し残念です。
また、力強い筆致の、ゴッホの作品、観たくなりました!