塩田武士さんの著書は、「罪の声」と「騙し絵の牙」を読みました。
映画化もされた「罪の声」、グリコ森永事件を題材にした社会派で興味深く読みました。
今回読んだ「朱色の化身」も社会派かな、と思ったのですが…ちょっととっ散らかってました…
プロローグで、その後の鍵となる場面を描いておいて、本編につなぐタイプかなと思ったんですが。
1956年(昭和31年)に起きた芦原温泉の火事と、小説の中心の「珠緒の失踪」はあまり関係がなく。
元新聞記者の大路亨の実の父で元新聞記者の松江準平が、辻珠緒という女性を探してほしいと頼みます。
辻珠緒は現在失踪中で、調べれば調べるほどにいろいろな人間とのつながりが出てきて…
混乱します(笑)
これは…ミステリーではなく、著者の「現場を歩き、リアリティを獲得する」という、取材に2年かけ、執筆に1年かけた渾身の作なのです。
たくさんの証言が出てきます。
これらの証言を書くために、塩田さんは大勢の方に取材されました。
証言内容がリアルで読まされます。
が、読んでも、読んでも真実に近づかない。
ベールを一枚ずつはがすように、謎が解けていく…という楽しさがないのです。
パラっとめくったら 「○○の証言」というのがたくさんあるので、「メモアプリ」エバーノートに列記しながら読みました。
以下、エバーノートのコピペです。
1 王雨桐(ワンウートン) 映像制作会社「リアリズム」珠緒と仕事をしていた
2 桧山達彦 精神科医
3 中居康平 京大学友 ゲーム会社社長
4 谷川治則 雑誌記者 フリーライター
5 池脇亜美 京大、珠緒と入行同期、東大経済学者令嬢
6 小暮仁 中央創銀 珠緒の上司
7 笹倉邦男 京大の読書サークル「イノベーション」仲間
8 田丸佳恵 京大 帰国子女 珠緒が弁護士を探していた、と証言
9 内田充代 元高校教師 囲碁部顧問 珠緒が京大に進学できるよう協力する
10 杉浦沙織 美容室
11 牧田千恵子 隣人 珠緒の幼稚園時代 前川勝が実父 ヤクザ
12 峰岸睦美 咲子のおさななじみ
13 杉浦翔大 ゲーム依存症の青年
母が傷害事件おこす 神戸の実家へ戻る 裁判で珠緒が出廷を断る
14 鹿島友行、川田寛子
鹿島 老舗店勤務 結婚式に「さくら」が来てた、と証言
川田 母の高校時代の友人
15 成瀬英彦 珠緒の結婚相手
老舗菓子店 珠緒はアルコール依存性と証言
離婚前に、前川功が来た
16 宝純男 下鴨の邸宅住まいの老人 当初取材拒否、珠緒の不倫相手
17 木村静香 元中央創銀勤務
18 新田明子 祇園スナックのママ 珠緒が宝純男と不倫していた、と証言
19 戸田昇 芦原温泉 ホテル玄遠 内田先生が猥褻罪で逮捕され教員を辞めた、と証言
20 串田正輝 81歳 串田の母は壮平(大路亨の祖父)の姉
21 田辺鉄男 咲子の同僚 峰岸睦美の知り合い
咲子→電力会社の前川と暮らす、妊娠
前川が売春斡旋で逮捕される
22 中西盛夫 嶺北の画家・中西秀盛の息子
父・秀盛が 雄島・大湊神社で10歳の珠緒が祈っている絵を描く 個展に出品
牧田千恵子の話と乖離「死にますように」と奉納したタオルに書かれていた
23 谷口慎平 珠緒の弟
1973年から勝が行方不明に 前川の妻子が1978年に探しに来た(前川功)18歳 2回目は1987年に勝を探しに来た
慎平9歳→咲子と珠緒を憎んでいる
いろんな人の証言により、珠緒像が浮かび上がるかと思ったのに、いろんな証言を寄せ集めても、探している「珠緒」という人物に血が通わないのです。
珠緒、珠緒の母・咲子、珠緒の祖母・と3代の女性の物語には男運が悪く、ヤクザの影が終始つきまとい読むのが苦しい場面も。
⚠ネタバレあります
あれほど、誰とも連絡がつかなくなっていた珠緒は、アルコール依存症で入院していました。
生きていた…というような極限状態だったようです。
それでも、ようやく探し当てた珠緒に感情移入できず。
真実は、証言をする人にとっての真実ですから、最後の証言は、珠緒への憐憫を真っ向から否定するものでした。
読むのがしんどい割に、読後感がすっきりせず。
たくさんの証言の中から、真実を浮かび上がらせようという著者の意図はわかりますが、登場人物が多すぎて、整理しながら読むのに疲れました ^^;
個人的に、珠緒という人物に魅力を感じられなかったのも残念。