⚠️ 基本ネタバレしております。ご注意ください。

【町田そのこ】連作短編集・「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」|いろんな家族のかたちがあっていい

町田そのこさんの作品は、以前、2021年の本屋大賞受賞作『52ヘルツのクジラたち』(2020/4/25発売)を読み、深く感動しました。

 

本屋大賞受賞作の3年前に書かれた著者のデビュー作「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」を読んでみました。

2016年、新潮社が主催する第15回女による女のためのR-18文学賞で、収録作の、「カメルーンの青い魚」が大賞を受賞しました。

新潮社のHPによると、選考委員の三浦しをんさん、辻村深月さんが激賞されたそうです。

 

収録作品は、下記5編

  • 「女による女のためのR-18文学賞」受賞のカメルーンの青い魚 
  • 表題作、夜空に泳ぐチョコレートグラミー 
  • 波間に浮かぶイエロー 
  • 溺れるスイミー 
  • 海になる

 

連作短編集で、主人公や登場人物が片親で育っていて、カラッと元気な子もいれば、家庭的に苦労している子もいます。

 

口さがない大人やクラスメートの言葉に傷つけられたりしながらも、友達や周囲の人に助けられて頑張る姿に、エールを送りたくなる短編集でした。

 

どの作品も、魚や、魚にまつわるお話が描かれています。

 

⚠ネタバレあります

 

 

 

 

 

1️⃣ カメルーンの青い魚

みたらし団子にかぶりついたらサキコ(幸喜子)の差し歯の前歯が2本、団子に刺さって抜けてしまった…という滑稽な場面から始まる本作。

サキコをさっちゃん、と呼ぶ啓太との和やかな場面が描かれています。

 

シングルマザーのサキコは両親と死に別れ、祖母に育てられました。

今は息子の啓太と二人暮らしで、二人は仲良し親子。

 

サキコは若い頃を思い出していました。

「りゅうちゃん」と言う、サキコの元彼(啓太の父)は、喧嘩っ早くてすぐ人を殴ります。

ある時、これ以上殴ったら人殺しになるかも、と割って入ったサキコの前歯を誤って拳で殴って折ってしまったのもりゅうちゃんでした。

 

りゅうちゃんは、サキコの家の隣にあった児童養護施設の出身。

サキコを置いて出ていったまま、12年後にふらり、とふるさとに戻ってきたところに出会いました。

 

昔、りゅうちゃんが大嫌いだった商店街をふたりで歩き、見つけたペットショップでアフリカンランプアイ(カメルーン原産のメダカの一種)←カメルーンの青い魚 を2匹買って帰り金魚鉢に放して。

 

そこで初めてサキコは、息子と暮らしている、息子が帰ったら、りゅうちゃんのことはお父さんだよって紹介する、と言うと、

りゅうちゃんは、「俺はお前を捨てたのに、産んだのか?」と驚きを隠せません。

啓太が帰ってくる前に、また サキコを置いて出ていってしまったりゅうちゃん。

りゅうちゃんは、この街で生きて行くのが息苦しかったのです。

 

故郷のカメルーンの川から、日本に連れてこられたアフリカンランプアイ。 

りゅうちゃんが買った青い目のメダカを大切に育てようと思ったのに…

 

啓太が、金魚鉢のある玄関から戻ってきて言いました。

「さっちゃん、一匹死んでたよ」

 

寂しい。

やっぱり、狭いところでは生きていけない「りゅうちゃん」を象徴するようで。

そして、やっぱりこの先も、さっちゃんはひとりで生きて行くんだ、と暗示しているようで。

 

寂しい。(2度目)

 

2️⃣ 夜空に泳ぐチョコレートグラミー

チョコレートグラミーは、6センチほどの茶色の熱帯魚、親が卵を口腔内に保護する、口内保育=マウスブルーダー。

 

近松晴子は、父と祖母の3人暮らし。

母親は、家を出ていきました(晴子を殺そうとしたため、祖母・烈子に追い出された)。

 

冒頭の文章は、「近松晴子が孵化した」

 

おとなしく、感情をあらわにしない晴子が、彼女を馬鹿にしていた田岡に本気出して怒り、馬乗りになって殴り続けて、田岡は失禁してしまいました。

田岡はその事件が元で学校を休んでいました。

 

晴子は、「カメルーンの魚」に登場する啓太のクラスメート。

啓太は思う所あって、親や先生の了解を取り付けて夏休みに新聞配達をするも、

クラスメートの巌の祖母が、新聞配達偉いわね、と言った舌の根も乾かぬうちに、巌から片親だと聞かされた途端に態度豹変、片親で育った啓太を馬鹿にします。

 

母のいない晴子は、父のいない啓太にとっては、互いに苦労をわかるからか、なんとなく気になる存在でした。

 

クラス委員の松田は、田岡の家に行ってちゃんと謝るべきだ、と晴子に圧をかけてきます。

ついて行って上げるよ、アドバイスしてあげてるんだよ、と恩まで着せてくる。

啓太は、たまらず、晴子に加勢しまうのでした。

 

烈子おばあちゃんが、この子は絶対に守る、といつも校門のところに来ていたことまで責めてくるいやな女子たち。

 

晴子を育てて来た烈子おばあちゃんが、認知症になって施設に入ってしまったから、もう誰も守ってくれる人はいなくなりました。

だから、自分でしっかり嫌なことは嫌、って言うことに決めて…

晴子は、自分の力で一生懸命に泳ぎだしたのです、おばあちゃんの庇護の元から広い世界へ。

チョコレートグラミーは、自分の口の中で大切に卵を守り育てます。

チョコレートグラミーは烈子おばあちゃんのこと。

その安心できる口の中で育まれた晴子を守ってくれる人はもういない。

 

お父さんは好きな女の人ができて結婚するから、晴子を育てられない、と晴子の引き取り先を探している、と言います。

子犬か子猫の里親を探すように。

でも、子供を引き取りたい、と言ってくれてる桜子おばちゃんのところに行く、と決意した晴子。

 

少し寂しいけれど、新しい環境で幸せに、と祈らずにはいられない作品。

3️⃣ 波間に浮かぶイエロー

沙世が働くカフェ「ブルーリボン」のオーナー芙美さんと、芙美さんを頼ってやってきた環さんの物語。

 

環さんは妊娠中にもかかわらず、夫が浮気したと言って家を飛び出し、行く宛もないので、昔同じ職場にいた高橋重史さんを頼ってやってきたのです、古いはがきを握りしめて。

会社を辞めてお店「ブルーリボン」を出したという案内はがき。

環さんは、昔、なんでもひとつ願いを聞いてあげる、と言ったじゃない、約束を守ってもらいに来たのよ、と割とズーズーしい女。

斯くして、沙世の部屋に環が転がり込んで来ます。

 

夫を若い浮気相手にとられて、自信を失くしていた環さんは、絶対に裏切らない、自分を思い続けてくれている重史さんの元で、自信を取り戻したかったのですね。

 

芙美さんは、男性だけれど、心は女性で、派手なメイクと洋服(衣装?)で店に立っています。

芙美さんはこの街の児童養護施設にいて、その隣に住んでいた幸喜子と昔からの知り合い。

サキコの息子の啓太が生まれてからも啓太の世話を焼いてきた仲…とここでまた、「カメルーンの魚」と繋がります^^

 

芙美さんは、小さい時から、子供が欲しかったしお世話したくて、なにか、周りの男子とのズレを感じていたんですね・・・

自分で「おんこ」という 「おんな」と「おとこ」を合わせた造語を作ったことで、ようやくしっくりきて、居場所ができた感じだと言います。

お店に置いてある棒状のオブジェ、ブルーリボン(お店の名前もここからきてます)。

これはハナヒゲウツボというウナギ目の魚で雄性先熟の性転換を行うのだそう。

つまり…最初はオスでブルー、成長とともにメスに性転換して黄色に変化するのが特徴の魚、それを自分になぞらえた芙美さんでした。

それで、黄色の服ばかり着てるんです^^

で、タイトルのイエローにつながるんですね!

 

浮気をするような男は、浮気相手にくれてやれ、という芙美さんの持論は

「ギスギスした両親より、にこやかな片親」

とサラリと言ってのけます、そして1人で産むなら協力する、とまで。

 

ほんと、それ。

両親が揃っていることが、子供の幸せの必須条件ではないですよね…

夫がDVやモラハラだった場合、母親がDVやネグレクトだった場合も…

 

環は一旦家に帰ることになり、駅まで見送った後、沙世が預かった「ブルーリボン」オープンの案内ハガキを見て、サキコが、しーちゃん(重史)の名前だ、と教えてくれて。

 

目の前に居る芙美さんは、文雄さんでした。

環と同じ会社に務めていた重史さんは、オープン後3年ほどして亡くなっていました。

いつか、環という女性が来たら、重史になりきって対応してほしい、と芙美さんにたのんでいたのです。

いつまでも環さんの中で生きていたいから… ん~ 泣かせます。

 

4️⃣ 溺れるスイミー

島田唯子の、父との最後の思い出は、母と小さな駅に降り立ち、父は電車で行ってしまった、という記憶。

「お父さんみたいなことをしてるとああなる、これでいいの」と母は硬い声で言う…

 

お母さん・・・なんか怖い感じ^^;

 

唯子の同級生の宇崎は、子供の頃からじっとしてられない問題児でした。

ある時、先生が手のひらの形を描いて、この「しるし」に手を置いてじっとするという勝負をふっかけました。動きたくなったら、しるしに手のひらを置いて・・・だんだんじっとする時間が長くなって…今はダンプカーの運転手をしています。

 

唯子はお菓子工場で働いていて、製造課長の立野さんからプロポーズされていましたが…プロポーズを受けるということは、ずっとこの息苦しい街に縛られるということだと気づきます。

 

唯子は父の血を受け継いでいることを恐れていて、ひとつところにじっとしていられない父の様になるのでは。。。と思っていました。

 

ある日、宇崎に声をかけられて、ダンプに乗せてもらううちに親しくなり、じっとしていられない宇崎と自分が似た者同士に感じられたのでした。

 

宇崎は一緒にダンプに乗ってあちらこちらの街にいく、そんな生活をしよう、と誘ってくるのですが…

 

父と同じ様に楽な場所を求めてさすらうのではなく、一つところで生きて行きたかったんだ、と思い直します。

 

どこかに行きたい衝動にかられたら、宇崎の手を思い出してじっとしていれば、収まるよ、と教えてもらいました。

 

宇崎が唯子の手のひらに自分の手のひらを重ねて来た時、場所だけではなく、「群れ」も無理なんだ、と悟ります。

 

いつか、あの「スイミー」のように、群れの中で笑えるようになりたい、と願う唯子。

 

宇崎くんは、「カメルーンの青い魚」に出てきたりゅうちゃんの喧嘩相手で、りゅうちゃんに顔面を殴られたので、鼻が曲がってます…^^;

5️⃣ 海になる

「チョコレートグラミー」に登場した、晴子を引き取ってくれた桜子おばちゃんの若い頃のお話。

 

流産3回、死産1回、もう子供を産めない体になってしまったことで、夫から激しい暴力を受け、雪の夜更けに厚手のガウン1枚とサンダル姿で家から締め出され…

 

日常的に暴言、暴力、モラハラ発言、そして浮気。

桜子の夫に対する嫌悪感で読むのが辛い…

モラハラ発言にいちいち気分が悪い…

 

長髪で酒臭い男・清音に助けられたことで、夫の暴力が始まりましたが、

一度ならず、二度、三度 偶然とは言え救われて…

ようやく夫と分かれることができた桜子は、妻を亡くしたその男性と結婚しました。

 

子供を生み育てたいけれど もうそれも叶わなくなった桜子は一念発起して助産師になり、たくさんの子を取り上げました。

今は閉院してしまったけれど助産院の名は「うみのいりぐち」

高台にあるその場所から、海が見えます。

ここで生まれた子は世界中につながっている広い海へ飛び出す稚魚。

世界へ飛び出す準備をする場所だ、と

そう言って、やってきた晴子の手を取り門をくぐる桜子は…

 

晴れ晴れとした気持ちと少し誇らしい気持ちで、晴子を迎え入れたんでしょうね^^

 

生きづらさや、呼吸が苦しい毎日を生きる人達に温かい眼差しを向ける町田そのこさん。

どの作品も、明るい方向に向かっていくのを感じさせる終わり方で、みんなの幸せを祈らずにはいられません。

 

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