書店員がえらぶ 泣ける本 第1位
世間の皆さんは どういう基準で読む本を選んでらっしゃるのかな~といつも思ってます。
私は 読書好きのブロともさんからの紹介のほかは 〇〇賞受賞作が多いです。
直木賞、本屋大賞が主でしょうか? そして その受賞作の著者の他の作品も読みたくなってしまうのです。
今回読んだのは 木皿泉著「さざなみのよる」。きっかけは 本屋大賞2019の6位だったのですが 「書店員がえらぶ泣ける本 第1位」でもあるのです。
じわ~っときて 泣き所もあり クスッと笑えるところもあり。
軽いタッチで描かれているけれど ズバッとど真ん中に突き刺さる言葉が小気味いいです。
胸に残る言葉は これから生きていく上でとても気持ちを楽にしたり 勇気づけたりしてくれると思います。
主人公ナスミは 周囲の人たちの思い出の中に生きている
一応、主人公は 小国ナスミ、ということになるのでしょうか?
ナスミは 冒頭の部分で亡くなってしまうのですが…
小国ナスミの独白と死から始まるこの本は、第2章以降は ナスミの家族や かつての恋人、同僚、それらの人たちが関わった出来事、思い出が語られて ナスミの人格が浮かび上がってきます。
第1章 ナスミの死
第2章 ナスミの夫・日出夫
第3章 妹の月美
第4章 ナスミの夫・日出夫
第5章 ナスミの叔母の笑子おばあちゃん
第6章 ナスミの高校時代のボーイフレンド・清二
第7章 幼いナスミを誘拐しようとした佐山啓太の手紙
第8章 ナスミの元同僚 加藤由香里
第9章 清二の妻 利恵
第10章 ナスミの年下のボーイフレンド 啓介と妹の愛子
第11章 ナスミが愛した漫画「ホドコシ鉄拳」の作者・樹王光琳
第12章 ナスミの同僚 好江の回想
第13章 日出夫と2人目の妻・愛子の間に生まれた娘・光
第14章 (未来)光と友の死
ナスミは亡くなってしまったけれど ナスミの生きざまは ナスミと共に過ごした人たちの心にしっかりと刻まれて、皆の勇気になっているのです。
こんな生き方をしたい、と思わされました。
何物にもとらわれないナスミの言葉は、ストレートで ど真ん中をついてくるから いろんな迷いのある人でも 今まで囚われてたことから開放されて 肩の荷が下りるようです。
自分が何気なく話した言葉や行動が、回りの誰かの記憶となって残るから 言動には気をつけなくちゃいけないな、って思いました。
死ぬのは怖くない?
ナスミが死の間際に冷静に周りのことを語っています。
もうすでに目は開かない。自分が開けようと思っているのか、そういうことすら、もうナスミにはわからない。中略 もう何の役をしなくてもいいのだ。 中略 この世でやってきた全てを取っ払った、生まれたてのときと同じすべすべの私。
本文より抜粋
死を受け入れた時、こんな気持になるのかな、と思いました。心も体も役目を終える時、「もう何の役をしなくてもいい」 娘であったり 母であったり 妻であったり 職場の◯◯という役であったり それはもう、過去のこと。
生まれて 生きて 死んでいく、ってこういうことなんだな、と。本当はすごくシンプルなんだ、と気づきました。
すべて削ぎ落とされた 無我の境地なのですね。
大変なことがあっても いつも笑い飛ばしていたナスミ。
「よいことも悪いことも受け止めて、最善をつくすッ!」 と言い放ったナスミは懐の深い人だったんですね…
ナスミが職場を退職する日に 正義感から、同僚の加藤由香里の不倫相手の課長を殴り飛ばして 逆にやりかえされ、歯を折ってしまいました。
当の由香里も同僚の好江もすぐに加勢できずにいて、二人はナスミを裏切ったことを負い目に感じて生きていました。
ナスミはいつでも まっすぐで 人の心の中に強い印象を残していたのです。
ある時、駅でナスミと もとボーイフレンド・清二の結婚相手の利恵が鉢合わせ。ふたりとも家出の意思がありました。「お義父さんが生きていた頃の自分にもどりたい」という利恵に こともなげに「もどりたいと思った瞬間、ひとは戻れるんだよ」と諭します、迷いのない言葉に、信じてみよう、と思わされるのでした。
肉体は滅びても…
ナスミは43歳の若さで亡くなりましたが 自分は人の5倍生きた、と言い放ってます。
それだけ真剣に生き、充実した人生だったのですね。
ナスミの回りの人たちは 自分の思った通りに生きて 正義感強く 人を勇気づけて生きていくナスミのことをいつまでも忘れられないのです、
ナスミは亡くなっても 皆の心のなかに生き続けているのでした。
死を明るく受け止めていたナスミでさえ 朝になってまだ生きていたら 体のあちこちが痛いのに まだ生きていたのか、とがっかりする、という件がありますが 綺麗事でなく 病も末期になると辛いし 逃げ出したいけど 死ぬのを待つしかできない状態になるのでしょう。
死をリアルに扱っているけど 明るくカラリとしている不思議な作品でした。