happyの読書ノート

読書感想を記録していこうと思います。 故に 基本ネタバレしております。ご注意ください。 更新は、忘れた頃に やって来る …五七五(^^)

【桐野夏生】とめどなく囁く 読了


とめどなく囁く

桐野夏生さんの「とめどなく囁く」発刊を知って3月31日に 図書館に予約カードで予約してました(まだ蔵書になかった)

本を手にした時は 分厚いのと二段組なので 読み切れるのか、とちょっと怯みましたが読み始めたら
ページを繰る手が止まらない~~~!

1日で読み切りそうな勢い。

テーブルの上に置いた「とめどなく囁く」が 夕食準備をしている私に 早く読んで、と
とめどなく囁くので 読みたい誘惑と戦うのが大変でした。
結局 2日で読みました。

ストーリーは 

一番近くにいるのに
誰よりも遠い。
海釣りに出たまま、二度と帰らなかった夫。
8年後、その姿が目撃される。そして、無言電話。
夫は生きていたのか。

塩崎早樹は、相模湾を望む超高級分譲地「母衣山庭園住宅」の
瀟洒な邸宅で、歳の離れた資産家の夫と暮らす。前妻を突然の病気で、
前夫を海難事故で、互いに配偶者を亡くした者同士の再婚生活には、
悔恨と愛情が入り混じる。そんなある日、早樹の携帯が鳴った。
もう縁遠くなったはずの、前夫の母親からだった。
自分がやったことは
ブーメランのように自分に返ってくる。
    幻冬舎HPより引用

新聞広告には、
事件? 事故? 自殺? それとも?
八年前、夫の身に何が起きたのか。
妻である自分が誰よりも知らない。


海釣りに出た夫が忽然と姿を消し 死亡が認定されるまでに7年の歳月を要しました。
妻である 早樹が 仕事で知り合った 30歳も年上の富豪と結婚したのは、
ずっと待ち続けている間に考えた様々な 自問や葛藤に疲れ果て ゆったりとした時間を過ごしたいと思ったから。

それなのに その平穏な日々に一石を投じてきたのが 姑。

電話で 息子(早樹の夫)の庸介を見かけた、と。
早樹の心にさざなみが広がっていきます。

釣りを好んだ夫の釣り仲間に 当時の事を尋ねて回るうちに 早樹の知らない事実が次々と明らかになっていきます。
その事実がますます 早樹の心を 謎解きに駆り立てて…

釣り部の一人で 釣り雑誌の編集者の幹太を訪ねて行った時に
何かを隠している、と直感します。

生きているのか 死んでしまったのか わからない、と言う状況は 家族にとって
本当に辛いものだと思います。

いつまでも希望をつなぐのも 諦めてしまうのも辛い 宙ぶらりんの状態が心を消耗させていきますね。

だからといって 今頃のこのこと出てこられても… 

生きていてくれて嬉しい気持ちと 
何も言わず行方をくらましたことに対する怒りに 揺れ動く自分の心に気づいて愕然とする気持ちが
細かく描かれています。


早樹を悩ませるものが他にも。
庸介の母。もうとっくに婚姻関係がなくなっているのに いつまでも早樹に頼ってきて
最後は金の無心まで。

富豪の夫 克典の末の娘・真矢。早樹と同い年で少しひねくれていて昔から父を憎んでいる。
狂言自殺をしてからは 父・克典と早樹の住む豪邸で面倒をみることになった。

豪邸暮らしの優雅な生活の描写を 想像しながら読むのもたのしいですが
庸介の友人たちや 早樹の友人らの多彩な登場人物の描写も面白いです。

此処から先はネタバレあります。白文字ですので読んでOKなかたのみ 反転して御覧ください。


友人・美波との間が 庸介のことでギクシャクしていたが 最後には過去の話を早樹に打ち明けてくれて わだかまりが解消していきます。

夫の末娘(と言っても自分と同い年)の真矢は ほとんど口を利かなかったが 早樹の夫が行方不明になった話を聞いて
今までカネ目当てで嫁いできた女、と早樹の事を蔑んでいたが 少し見る目がかわって 心を開きかけている感じ。

人間関係に明るい兆し。

そんな時 庸介と思しき誰かから 無言電話がいよいよ 早樹の元へかかってきました。
これは 行方不明になった夫・庸介だと確信した早樹は 無言電話に今までの気持ちをぶちまけました。

「この半年 あなたが生きているかもしれないという囁きがずっと聞こえていて不安でたまらなかった。
     中略
もう、二度と連絡しないでね。そうだ、もう一度死んでしまえばいいんじゃないかしら。お願いします、消えてください。」

早樹がそういうと、 「すみませんでした」 庸介の声でした!

一体今まで何をしてきたの? どういう理由で行方をくらましていたの?と 読者として抱えていた様々な疑問が
庸介からの長い手紙で明かされます。

今まで張り巡らされていた伏線も見事に回収されます。
そして 早樹は その手紙を藤棚の下の石組みで焼きました。
庸介との決別がようやく訪れたのでした。

「赦してくださいとは言いません。どうぞ赦さないでください」 庸介は一生そう言い続け
「赦さない」と自分は応え続けるだろう、と早樹は思う。

それなのに スマホが振動したら 庸介からの電話かと期待してしまう自分がいることに気づき
慌てて否定した早樹は

7年間待ち続けた 庸介への断ち切れない思いを胸の奥底に潜ませているのかも、と思いました。

愛する人に裏切られた怒りの奥底には まだ愛の炎が消えていなかったのか。